第86神 政府の中
ぬいぐるみの存在を思い出して、慌ててソフィアさんを見上げる。
「…そう言えば、呪術課ってどこにあるんですか?」
『おっ、いい質問ですねえ』
白い廊下に、クリーム色の長い三つ編みの髪の毛を揺らしながらふわりと浮いたソフィアさんは微笑む。
『まずはこの政府の説明をしましょう!政府の外観を見たことは?』
…そういえば、ここの外観、見たことないな。前は霧の中で、入ったら目の前に大きい鳥居だったし…
「ない、かも」
「私もないかも〜」
桃梛とるんも、私もない。と返す。
それに対してソフィアさんがにっこりと笑った。
『ふふ、歩きながら話しましょ』
白い壁に白い廊下、清潔な雰囲気の中あちこちで歩いている職員の姿、鳥居を見立てたような赤くて丸い柱がいくつか転々とした広いロビーを通る。
『あなたたち守護者の目は特に特殊なんです』
「特殊?変な目してるんですか?」
『見え方が、ですよ。本来この政府の外観は割と普通〜の建物なんです。
霊感のある、普通の人たちでもね』
ソフィアさんは青い目に白い瞳孔を細めた。
『でもあなたたちは違います。
呪術課や、守護課は最も神との関わりが多いため、その空間が神域に少しだけ寄せられているんです。霧で隠れてるように見えるのはそのせいですね。
ちなみに〜、広大の執務室なんかもそうですよ』
「えっ!そうなんですか!?」
『えぇ、我々神の家に当たるので、簡易版神域なんです』
楽しそうに空中を浮かび、くるりと回転する。
ソフィアさんはどうやら普段から浮いているようだ。
『この政府にはそれぞれ上から上層部と呼ばれるトップの子達…まあ、各種族のトップですね』
「各種族?」
『エルフ、人間、神、悪魔、などなど、さまざまな子たちのトップです。これらが集います。ほら、神様だと蓮水ですよ』
「蓮水さん!!?」
『人間ですと、幻治郎ですねえ』
「…幻治郎さん、一体なんなんだ…」
さすがは守護者最強と謳われている男…。
上層部の仲間入りしてるのか…。
『その下から、順に大きく分けて三つに分かれます』
『百花繚乱隊、山紫水明、豪華絢爛ですねえ』
人差し指を立てて、楽しそうに笑うソフィアさんは、名前に出した三つをそれぞれ教えてくれる。
『あなたたちが所属しているのは豪華絢爛ですね。陰陽局と呼ばれます』
「じゃあそれでいいじゃないですか…誰だ豪華絢爛とかなんかちょっとかっこよく言ってるの」
『エルフのトップ…火蜂なんですよねえ。今は特にないらしいですよ、なんかキラキラしてる感じにしたいとかなんとかで調べてこれにしたそうです』
「…えぇ…?」
『豪華絢爛、通称陰陽局には、守護課、葬儀屋──極楽社、秘密警察…これは玉が所属しているところですね。この三つがあります』
「え、玉さん秘密警察なんですか?前に、舞の練習してた時に神無警察って…」
ソフィアさんを見上げると、ソフィアさんは驚いた顔をして口元に手を持っていく。
…これは言ったらダメなやつだったらしい…。
『聞かなかったことに…怒られたら嫌なので…。
えと、それで、山紫水明は、医療課、神無警察、超能力研究課ですね』
「基本的に三つで構成されてるんですねえ」
『ええ、そして…我々が今から行くのが百花繚乱隊にある、簡単にいえば、神秘、人間特攻対策課です』
「うお、わかりやすい…てことはなんでもござれなんですね」
俺の言葉に、ソフィアさんが頷く。
るんと朝梨も政府に詳しくないから興味深そうに聞いていると、桃梛が補足してくれる。
「百花繚乱隊は、呪術課、浄化課、戦闘課、清掃課の四つなんだって、前聞いたことある」
「へえ…いやなんかもう名前からして確かに対策してそう……」
『他の部はその三つからさらに細々と分かれていますね、神無警察の中に災害対策課がいるというように…』
楽しげに話そうとされるソフィアさんに向かって手で止める。
「…ストップです、流石に覚えきらんないので、もう大丈夫です…」
三つくらい名前がキラキラした部署があったんだなぁ…という印象しかない。
やれやれ、とため息をついていると、るんが腕を組みながら首を傾げる。
「でも、清掃課だけなんか色違くない?」
桃梛と朝梨は考えたことなかった、というような声を出す。
「確かに…」
「神秘関係がたくさんある課の中にある、唯一の清掃課がなんだか異質だなぁ」
そんな俺たちに、ソフィアさんはにっこり笑って話してくれる。
『それは…』
「おや、ソフィア様、今日はどこにお出かけに?」
政府の職員さんがソフィアさんを見上げた。
ソフィアさんも知り合いだったのか、その職員さんに笑いかける。
『広大のお使いです』
「ソフィア様〜、またうちの課にいらしてくださいね」
『ええ、もちろん。お菓子とお茶を用意してくださいね』
職員たちと楽しげに話しているソフィアさんに、朝梨が聞く。
「毎日お出かけしてるんですか?」
『はい、広大が学校に行ってる間や、まーったく起きてこない日はとっても暇なのでこうして外を歩いているんです』
くるりと空中で回ったソフィアさんは、指を差す。
『あ、呪術課ですが、此処ですよ』
守護課から10分ほど歩いた先にある、無機質に【呪術課】とだけ書かれた扉が一つ。
その無機質な扉は、どこか禍々しく見えた。




