第81神 ただの高校生
──舞を踊り終えて、一礼してから守護者たちで捌ける。
俺はこの舞を踊る時、できるかどうか不安で仕方なかった。
でも、思いの外身体が動けていて、ランプを鳴らすたびに火雷を思い出した。
花吹きを見て、風伯を思い出した。
最初はただ春雨さんと島崎さんに誤認逮捕されたところから始まったのに、人を守りたいという気持ちで守護者になって、雨水市の災害派遣、七不思議ときて、今じゃ神楽殿で守護者として踊るなんて、昔の俺は思わなかっただろうなぁ…。
そう考えると、この数ヶ月がとても不思議なものになる。
舞を踊る期間なんて二ヶ月しかなかったのに。
捌けきって、観客席からは大きな拍手が舞台裏から聞こえる。
汗はだくだくだし、息は整えられないくらい疲れてるのに、でもやりきった実感が少し湧く。
胸の痛みはズキズキとするし、呼吸するたびにとても苦しかった。
その気持ちをそのままに一つ息を吐く。
「…ふぅ〜〜……」
ふと、俺の目の前にいる色さんの身体が震えていることに気づく。
「……色さん?」
「うぉおおおお!!頼む!近づくな!今の俺はダメだ!」
突然の大声にびっくりしていると、鷺沼さんがああ、と声を出した。
「こいつ女の子ダメなんだよ」
シュバっと近くにいた鷺沼さんの背に隠れる。
「そう!!!!ダメなのごめんね!
アッ蓮は良いよ別に!!
でも今めっちゃ敏感だからできれば正面から声かけて!」
「注文多すぎるだろ」
下崎さんが突っ込むが、色さんの気迫の方が強かった。
色さんは鷺沼さんの肩にもたれかかりながらしおしおと萎んでいく。
「今回、こんなに女の子いると思わなかったんだよぉ」
情けない色さんの声に下崎さんと鷺沼さんと俺でため息をついた。
「いや、守護者で集まった時に見たじゃないですか」
「あの時の俺の記憶はない」
「記憶があれば今回こんなことにならなかったのに…なんて不憫な…」
「嘘だろ、あんなに綺麗に踊ってたのにお前あの時気絶してたってこと?やばすぎ」
鷺沼さんと下崎さんのツッコミに対してうるさいうるさい!と色さんが暴れる。
「お兄!鷺沼さんと下崎さんを困らせないの!」
「色華ぁ…なんでそんな冷たいこと言うんだ…」
さらに情けない声を出す色さんに、そりゃそうだろ。という全員の心の声が一致する。
「そりゃそうだろ」
鷺沼さんはこう言う時普通に言う。
距離感の近さによるものだとは思うがかなりストレートだ。
色さんを肩につけたまま、躊躇いなく鷺沼さんは、桃梛の方を見る。
「…そういえば桃梛、初めてにしてはよくやったな。急な代役だったのに引き受けてくれてありがとう。すごく綺麗に踊れてた」
「へ!?は、はい!!」
……こういう時、本当にストレートに褒めるのが、鷺沼さんの良いところだ。
桃梛が嬉しそうに笑う。
朝梨は自ら近づいていく。
「私は?私はどうでしたー?」
褒められにいくので、素直と素直による褒め合戦が始まる。
「うん、朝梨も初めてだったのに良かったな。ちゃんとタイミングも合ってたし、しっかりと練習した成果が出てたぞ」
うんうんと頷く鷺沼さんに、素直な喜ぶ朝梨。
「いやー!玉さんに怒られながら、頑張った甲斐がありましたねえ!えへへへ〜」
「桃梛ー!俺の代わりに出てくれてありがとう〜」
悪魔戦で死にかけた…らしい、島崎さんがやってくる。桃梛も島崎さんに一言、二言会話を交わした。
「いえ!島崎さん、お腹は大丈夫ですか?」
「なんとか!色華のおかげで」
「お腹に穴が空いてて本当にびっくりしました」
島崎さんは悪魔戦で、悪魔の指で腹を貫かれたのだそうで、思わずお腹をさする。
…前アルバートさんと初めて会った時にお腹に指を置いて、バーンだぞとか言ってたのが洒落にならなくなってきたな、と人知れず怖くなる。
というか指で貫くって何????どんだけ大きい巨体なの?
悪魔に対して恐怖を抱いていると、春雨さんがやってくる。
「おろ、皆様お揃いで〜」
楽しげに尻尾がゆらゆらと揺れている。
「今日はみんなよく頑張ったねぇ、私も今年初参戦だったけどなかなか楽しかった〜」
「あ、そっか春雨さん今年初参加なんですね」
「そうだよー」
「春雨守護者になったの二月からだもんな」
「…今や六月…」
俺も3月からだったっけ、まだ三ヶ月しか経ってないのか。
そのことに少しの衝撃と、怒涛すぎる任務でびっくりする。
七不思議も3月の後半頃に行ったもので、舞の練習は実質ニヶ月しかなかった。
「…日数も少なかったのによく仕上げれましたね俺たち」
「ああ、でも一日の体感長かったろ」
「え?はい」
色さんが鷺沼さんに引っ付いたまま自慢げに笑う。
「玉さんの家と終さんの家は、一応神様のお家だぞ」
その意味がわかるか?と問われる。
え??
「えっ、玉さんの家もしかしてなんかあるんですか?」
「え、うちの家なんかあるんです?」
1番長く通ってる朝梨と実家らしい島崎さんが青ざめる。
「こら、脅かすな」
「ひひ」
鷺沼さんに怒られた色さんは先程までの震えていた姿と異なり、落ち着いている。
「今回の練習期間だけ、簡易的な軽い神域にしてもらったんだよ」
「へ!?」
「本当の神域は入るだけで発狂する。大抵の守護者がキッツイ思いするな。例外もあるけど」
「今回は、それの簡易版。中にいる時間と外にいる時間が全く違うんだぜ?外では数時間しか経ってないのに中では二日になってんの」
「え、えぇ!?じゃあ俺たち神域で練習してたんですか?!」
「しかもあの一週間お泊まり会は………アッ、言われてみればおかしいですね一週間も泊まったのに次の日普通に月曜日だった!」
「あ、確かに!」
「…俺たちはお前達二人がそういうことに関して無頓着すぎるところに最近不安を覚えてるよ…」
朝梨と俺の会話に1番一緒に練習を見てくれていた鷺沼さんが呆れ返る。
「神域の中は時間感覚が違うんですねえ」
「本気の神域だと外の感覚が二週間でも、神域の中じゃ一年なんてザラだからな」
「そこまで普通の人間は生きられねえよ廃人になる」
色さんと鷺沼さんに言われて簡易版神域とはいえだいぶ危ない橋を俺たちは渡らされていたのでは?
少しの疑問が湧くが、まあいいか。と無理やり納得した。
「え〜言ってくれればよかったのに」
「いや、言ったぞ一応」
「え!?いつ」
「初日」
「ええ〜!知らないー!」
「言ったよちゃんと」
鷺沼さんとの聞いてない、言った論争を軽く朝梨と俺と鷺沼さんの3人でするのを色さんが眺める。
「ちなみに、大地には俺は言ってない」
「あ、ですよね?俺も聞いてない。終さんからもなんも聞いてなかったです」
「驚かせる方が楽しいと思ったんだろうな」
「実家だから気づがなかったんだろうね大地」
下崎さんと色さんの言葉に島崎さんは頷き苦笑いを浮かべる。
「まあ、別にいんですけどね」
守護者達のスタンスが割と、全員まぁ、いっか。なせいで、飲み込みが早すぎる!と、
ここにはいない守護神達の声が聞こえた気がした。
────春夏秋冬祭りは、今度こそ幕を閉じた。
祈りを捧げた舞に、込められた想いに、誰もが馳せる。
それはきっと、大切な思い出を守るためのものだったのだと思う。
そんな綺麗な気持ちとは別にして、俺は、母さんへのお土産を買うのを忘れていたことを思い出した。
「まずい、母さんにお土産買おうと思ってたのに…」
「なら、信善寺の海鮮やるよ余ったし」
「おっ、じゃぁ東城の宝石果物もあげる、どうせ後でパーティするつもりだったから」
「ならこれもやろう」
あれもそれもといつの間にか持ってこられた袋に詰められる。
よく見たら他の高校同士でプチ交流会をしていたのか、食べ物の交換をし合っていた。
「屋台側にいるとどうしても食べれないから助かる〜」
「宝石果物気になってたんですよー!」
なんて守護者同士でワイワイと話しているのを見て、ああ、彼らはただの高校生で俺もその中の一人なんだなぁと実感した。
見上げた月は、綺麗な丸を描いて空に浮かんでいたのだった。
本日23時に連続投稿とします。
文化祭も終えたので、幕間のつもりで見ていただけたらと思います。
この世界、まだまだ広いですよ。




