第10神 保健室
保健室の扉を叩くと、中から女性の声。
「はぁーい」
「…あの、気を失った友人がいて…」
「はいはい」
ガラリと扉が開く。
目線を下に向けたまま、申し訳ない思いを胸に、ゆっくりと上に視線を上げる。
淡いピンクの髪に、アホ毛がひょこんと跳ねた少女が立っていた。
花びらを散らしたような髪の毛を赤いリボンで後ろに一つで結んでいる少女は俺を見るなり嫌そうな顔をする。
『えっ…』
何故か聞こえてきた火雷の驚く声を聞きながら、改めてその少女の顔に目を向けると、ぶつかる赤い、目。
キラキラと輝くその目には本来、人の目には入らないバツの形をしたハイライト。
まるで宝石のような輝きをした赤い目を持つ目の前の美少女がそこにはいた。
赤い目は、この国では呪われた色だと言われてる。
だから、風伯が赤い目をしていることに対し、制約があると聞いた時に、だからか、と納得するくらいには。
「まっっぶしっ誰やお前」
「えっ??」
その美少女に顔を顰められた上そんな罵倒をされるなんて誰も思わないだろ。
「ちょいサングラスかけるさかい、待っといてな」
「…いや、え??」
「マリリーンお客さーん」
「もぉ、ちゃんと案内してください乙女。あら、こんにちは」
養護教諭の、マリアンヌ先生を気安いあだ名で呼んだ美少女は、目をしばしばと瞬かせてグッと顔の向きを変えた。
「あかん、あたしにはそいつが眩しくて顔も見えへん」
そんな乙女の言葉に対して意も介さずマリアンヌ先生は微笑む。
「まあ…背負ってる方がご友人ですか?こちらのベッドが空いてるのでこちらに。」
ベッドに横になった一馬を見て、ようやくホッとする。
音があっても不安なものは不安だったので、こうしてベッドという安全な場所に一馬を横たわらせることができて本当によかった。
「はー…よかったぁ」
「よかないわ、お前なんやその眩しさは」
戻ってきた美少女はサングラスをかけたことで変質者となっていた。
「あたしにはなぁ、縁が見えんねん」
その目は、確かに輝きを放ちながら、俺と──ポケットの中のスマホをじっと見ていた。
「は?」
シャッ
カーテンを閉める音で会話が止まる。マリアンヌ先生を見るとマリアンヌ先生は微笑みを浮かべていた。
「一馬くん、頭に異常はなかったですよ、安心してくださいね。身体の方は…キツく縛られた跡があったくらいで、骨に異常は見られなかったです」
「…よかった、ほんっとうによかった…ありがとうございます!!」
というか、あんだけみしみし言ってたのに骨に異常がないのはそれはもはや異常なんじゃないのか?一馬の身体が頑丈だとは思ってたけどまさかここまでとは…。
「…それじゃあ俺先生に伝えてきます」
「ありがとうございます、一馬くんが目を覚ましたらまた連絡しますね」
「はい!」
保健室を出る時、乙女さんに呼び止められる。
「お前、その右手輝きが薄い。まだ契約したてな上に適当にしたやろ。
早めに守護課に連絡して本契約しといたほうがええで」
「えっ、なんで…それを」
「神居政府の人間、紅乙女。学年は2年生や。お前そのままやと記憶が消えてくからはよ動いたほうがええぞ」
「年上!?というか、風伯も火雷もそんなこと言わなかったけど!?」
『言う暇がなかっただろさっき』
『すぐに神居政府に向かうように伝えるつもりだったから別にいいかなって』
「神様の時間感覚わかんねえ〜〜!」
さいなら。バンっと扉を閉められる。
扉の向こう側では、
「こら、乙女。強く閉めたらダメですよ」
「別にええやん学校のものやし」
「ダメです」
なんて日常的な会話がされてる横で俺は項垂れる。
てことは、仮契約から本契約のために、神居に行かなきゃいけないってこと…?
「…どうやっていくんだよぉ〜」
『ああ、お前は帰り方は知ってても行き方は知らないのか』
「学校が終わったら、教えてくれよな…ほんと」
あのあと、みかんに一馬は無事であることを伝えた。
トイレで倒れてたから保健室まで連れて行っていたこと。
保健室に連れてったあと、いろんな不幸に塗れてなかなか教室に辿り着かなかったことを伝えると、先生もみかんも納得していた。
納得すんな頼むから。悲しくなるだろ。




