8.疲労
森から十字路までぼくらは一言も話すことなくただ歩いた。
行きはあれだけはしゃぎながら走っていたのに今は足を引きずりながら、息も絶え絶えに歩いていた。
足の関節が石のように硬い。
これ以上動かせば割れてしまうのではないかと思う。
森を出たときはまだ高い位置にあった太陽が十字路に着いた頃にはもう沈みかけていた。
「着いた、な」
疲弊しきった顔でアレクが言う。
アレクも呼吸が浅く、足取りが重い。
「それじゃ、また明日。そういえば明日、収穫祭の準備があるらしいけど...」
ぼくの言葉にアレクは心から嫌そうな顔をして首を横に振る。
「いかん」
「だよな、それじゃまた」
アレクに背を向け、帰り道のほうを向く。
「ノル!」
アレクからの大声で向き直る。
アレクの顔はいつも通りの笑顔になっていた。
たがその中に何か覚悟のようなものがあると感じた。
「強くなろうぜ、一緒にな」
何を言うかと思えばそんなことか。
ぼくは帰り道の方を向く。
手を振りアレクに言う。
「当然」
そのまま歩き始める。
後ろでもしばらくして足音が聞こえ始める。
後ろは見ず、歩き続けようやく家に着いた。
もう周りはすっかり暗くなっていた。
「ただいまー」
戸を開くと母さんが仁王立ちで待ち構えていた。
「おかえりー、何してたのかな?」
思えば普段なら遅くても夕方、こんな風に日が落ちきってから帰ることはなかった。
それにはっきりと言われていたわけではなかったがそれとなく夕方までには帰ってくるように聞かされていた。
助けを求めるように視線を彷徨わせる。
奥を見ると父さんが苦笑いを浮かべてこちらを見ていた。
『頑張れ』
声には出さず父さんは言う。
覚悟をしよう。
「すみませんでした」
「ねぇ」
「なんでしょうか?」
石造りの部屋の中、椅子に座り書類の山に埋もれている女性と、その側に立っている女性の2人がいた。
書類に埋もれている女性が怨嗟の声をあげる。
「あと八つで終わりって聞いたんだけど」
「言いましたっけ?」
その言葉に書類の山が大きく盛り上がり弾け飛ぶ。
机と椅子以外、大した装飾のない部屋に紙が舞い散る。
壁にかけられたランタンで紙が燃えないよう、側に立つ女性がそっと避ける。
「言ったわよ!言った!本当なら今日の昼には終わって!明日にはここ出てたわよ!」
「そうですか」
激昂して机で暴れる女性を見下すように側に立つ女性は冷静に言う。
「もーう、いいわ」
机の中を漁ったかと思うと、一つの便箋を取り出す。
「手紙なんて書いてないで仕事してもらってもいいですか?」
「うるさいわね、これも仕事よ仕事」
側の女性に便箋を見せる。
便箋には巨大な木とその両端に鳥の印が描かれていた。
「特別入学書、ですか?まだ会ってもいないのに送るつもりで?」
不思議そうに言う女性に対して手紙を書きながら不満気に言う。
「だって会ってから決める時間なんでないんだもの。だからこれを送って、村から学園に迎えに行くときに会うってわけ」
側に立つ女性に対してしてやったりと得意げに言う。
「これなら『仕事』でしょう?」
「ですが」
意見しようとする女性に対し手に持ったペンの先を突きつけて言う。
「試験なんて要らないわよ。そのためにあの方法を広めたんだから。わかってるでしょう?」
側の女性はため息をついて不満げ、と言うよりは不安げな表情を浮かべる。
「わかってはいるのですが...」
「大丈夫よ、私を誰だと思ってるの?」
部屋は紙で散らかっており、部屋の主であろう女性は椅子の上で偉そうにふんぞり返っている。
「自分の言うとおりに物事が進まなくて癇癪を起こした...」
「えーい!うるさいうるさい!」
遮るように叫ぶと、手紙を勢いよく書き切り、蝋で封をした便箋を押し付ける。
「速達で!」
「この時間ですと追加料金が」
「いいから!」
ベッドに力無く倒れる。
あの後小一時間ほど説教を食らっていた時父さんが助け舟を出してくれたことで何とかご飯を食べることができた。
食べている間も体中に痛みが走っていたし、気を抜いたら寝てしまいそうだった。
「もうだめだぁ」
色々と考えていたが思考がまとまらず頭の中で霧散していく。
父さんに何か聞きたいことがあった気がするが何を聞こうとしていたのかすらもう考えられない。
せめて掛け布団ぐらいは被らなくてはと思いながらも上半身のみをベッドに乗せた状態のまま、眠りに落ちていった。




