7.流れと感覚
前を行くアレクを追いかけて森まで走る。
心なしかぼくもアレクも普段より早く走れている気がする。
普段よりも心地いい風を肌に感じながらひたすらに走る。
「ノル!」
着いた途端に棒が飛んでくる。
受け取ると目の前には棒を構えたアレクがぼくに向かって突進してきていた。
「はぁ!?」
驚きながらも正面からアレクの攻撃を受ける。
「ッ!」
予想外に強い力に驚くと同時にぼくの体が宙に浮く。
「うわぁ!」
情けない声を出したのは宙に投げ飛ばされたぼくでは無かった。
宙にいるぼくとは対照的に地面に頭から突っ込んだアレクが出していた。
「いった…」
ぼくは背中に走った激痛に悶絶する。
「すぅー」
息を大きく吸いながら棒を杖にして起き上がる。
直ぐそばにはうつ伏せのアレクがピクリとも動かずにいた。
「大丈夫か」
「ダイジョウフ、んぁ!いってぇ!力加減がむずいわ魔力って奴は」
「急に来るなよ、びっくりするだろ」
「わりーわりー。やってみたくてウズウズしてたんだよ」
「気持ちはわかるけどさ…、お陰様でぼくは背中が馬鹿みたく痛いよ」
「俺も顔がとんでもなく痛い」
アレクの顔を見てみれば鼻先は擦れて血が滲んでいるし所々切れて血が出ている。
「一旦川行って顔洗ってきなよ」
ぼくが提案すると、アレクは自分の顔を触る。
手に着く血から今の状態を理解したらしい。
「そうするわ、ちょっと待ってて」
小走りで川の方へ駆けていくアレクを見送り、ぼくは魔力の流れを意識し始める。
心臓から全身に送る感覚で。
全身が熱を帯びる。
背中の痛みが熱で上書きされる。
「あ、やれそう」
体を軽く動かしてみる。
腕が、脚が軽い。
地を蹴ると一歩でいつもの三歩分は駆けることができた。
試しに腕を前に突き出してみる。
拳が風を切る感覚。
「ハハッ」
おもわず笑いが漏れる。
遠くで草を掻き分ける音が聞こえてきた。
その方向を向くと遠くに人影が見える。
普段なら見えるはずがないが、アレクの金色の髪がしっかりと見える。
「アレーク!すごいぞ、コレ!」
走ってくるアレクに大きく手を振る。
走るアレクが不思議そうな表情を浮かべている。
ぼくの表情が見えたのだろう。
アレクが笑みを浮かべる。
「お前も出来たか!ノル!」
走りながら棒を構えたアレクに合わせる様にぼくも構える。
ぼくもアレクと同じ表情をしているだろう。
アレクの速度が大きく上がる。
遠かったアレクの姿がたった数歩でもう直ぐそこまで来ていた。
「うおーーー!」
力強い掛け声とともに棒が振り下ろされる。
ぼくは魔力の流れを再度確認する。
棒を持つ腕と利き足に流れる魔力を動きに合わせる感覚。
振り上げる棒が聞いたことのない音を鳴らしながらアレクの棒を捉える。
ぼくのだけでは無くアレクの棒も聞いたことのない音を鳴らしている。
棒同士がぶつかる。
斧で石を叩いた時の様な音が響き、ぼくらは弾ける。
間髪入れず攻撃を続ける。
間合いの外にいるアレクに向けて踏み出そうと足に力を入れる。
踏み出す寸前、魔力を足に流す感覚を思い出す。
瞬間、風よりも早く体が動く。
「はっや!」
「セァ!」
驚くアレクに突きを繰り出す。
胴体を狙った突きは当たる寸前のところで体を捻じられて避けられる。
一回転したアレクは回転の勢いそのままに棒を振り下ろしてくる。
突きを放った後の体勢ではどう足掻いても避けることは出来ない。
それならと、全力で体勢を低く取る。
両足に魔力を流す感覚で、地面スレスレを這うように駆ける。
髪をかすめる棒の感覚に寒気を覚えながらアレクの脇を通り抜ける。
「慣れるの早すぎだろ、目で追うので精一杯だったぜ」
「そのくせにしっかり反撃してきただろ」
「ま、あ、なっ!」
地面を抉り、土を辺りに撒き散らかしながらアレクが飛び出す。
「どぉりゃー!」
最初に食らったときは飛ばされてしまったが今なら受け切れる。
足の指先から棒を持つ手まで魔力の流れを意識する。
アレクの動きを見る。
上段からの振り下ろし。
ただでさえ力の強いアレクが魔力の使い方も覚えた訳で、冗談では済まない威力になっているだろう。
大きく棒を後ろに引き、呼吸を整える。
「ハァーー!」
真正面からぼくとアレクの棒が当たる。
強い衝撃が走るが何とか踏み止まる。
棒を介してアレクと目が合う。
アレクの額には汗が流れ、口角は上がっていた。
ぼくも笑いが漏れる。
それでもお互いに力を抜くことはなく、数十秒あるいは数秒、睨み合いが続いた。
この拮抗を破ったのは、ぼくでもアレクでもなく互いの棒が軋む音だった。
ぼくが力を入れるたびにアレクもまた力を入れてくる。
そのたびに軋む音は大きくなっていった。
腕の筋肉がはち切れそうになるほど力を入れた頃、棒同士がぶつかり合っているところからヒビが入り、折れた。
急にかけられていた力が無くなり前のめりに倒れる。
「うわっ!」
「どわっ!」
地面とぶつかるより早くアレクの肩にぼくの肩がぶつかる。
そのまま仰向けに地面へ倒れる。
顔を足の方に向けるとアレクも同じように倒れていた。
その手を見ると握られている棒はぼくのものと同じように中ほどから折れていた。
痛む肩を押さえながら立ち上がり、大の字で倒れているアレクを見下ろす。
「あー、笑うしかねぇなこんなん」
言うとアレクは大声で笑い始める。
釣られてぼくも笑う。
「ハッ、はーあ。そっちも折れちまったんかぁ。それにしてもすごいなぁ魔力ってのはさ、いつもの何倍も力が出たぜ」
「そうだね...それにいつもよりよく見えた感じもしたし。でももう疲れたよ。いつもの数倍は」
「それもそうだな、もう今日は止めるか」
「賛成」




