6.魔力
「さて」
先生がいつも授業を始める時のように言う。
ぼくらがさっきまでの出来事について話している間に前の方に並べられていた検査の道具は片付けられていた。
先生が手を叩きながら前に登場したのを見てぼくらも席に着き始める。
「まさかみんなに素質があるなんて。まだ信じられないよ私」
はぁー、と長いため息を吐きながら項垂れて先生は言う。
声色は明るく、見えづらいが顔も笑っているようだ。
当然ぼくも、隣のアレクだって笑っている。
切り替えるように先生は頬を軽く叩き話し始める。
「さて!みんな後は自覚すれば魔術が使えるようになる訳だけど、それまでみんなが持ってる魔力が使えないってことでは無いの!」
「どういうことですか?」
先生が何を言っているのかわからなかったぼくは食い入るように質問をする。
先生はその質問が来ることがわかっていたかのように笑顔で続ける。
「魔力の使い道は魔術だけでは無いってことよ。例えばそうね…ノル君のお父さん、腕一本で斧を振ってたりするでしょう?」
急に父さんの話をされて驚いたが、考えてみると父さんの体はかなり細い、それに片手一本でそれなりの重さがある斧を毎日軽々と振っている。
「父さんって、魔力使ってたんですか…」
ほぼ毎日隣で手伝っていたが今ままで気が付かなかった。
その事実に愕然と項垂れる。
「そんなに気にする必要はないよ、大体の人は無意識に使ってるものだから。みんなも意識してないだけでってこともあるよ」
そう言われてぼくは自分の手を握ったり開いたりしてみる。
意識してないだけで使ってることもある…。
そんなことがあっただろうかと考えてみるが、特に思い当たることはない。
「自覚するってことが魔術においてはかなり重要なこと。この無自覚に使っていた魔力の使い方が自覚できれば」
「めっちゃ強くなるってことだな!」
立ち上がり前のめりになりながら大声をだして、先生の話にアレクが割り込む。
「はぁ、アレク君は座りなさい」
先生に言われアレクはドカンと座る。
アレクの顔を見ると笑顔でウズウズした様子だった。
先生は気を取りなおすように咳払いをし続きを言い始める。
「さて、どうやってやるかだけど。ノル君、ちょっとこっち来て」
「はい?」
ぼくは言われるがまま先生がいる前へ向かう。
「はい、これ持って」
先生から手渡しで持たされたそれは検査の時に使った石であった。
「これをどうすれば?食べるんですか?」
「お腹壊しちゃいますよ、どう?持ってみて何か感じない?」
思えば石から熱を感じる。
手のひらから腕、体全体へと広がっていく。
徐々に温度が上がっているようにも思えるその石を思わず離してしまう。
床へと落ちる前に先生が拾ってみせる。
「熱かった?」
石を鷲掴みにしてもなんともなさそうな先生が心配そうな顔で聞いてくる。
「熱いというか、なんかジワジワ身体の中に入ってくる感覚が気持ち悪くて」
手を握っては広げるを繰り返す。
手にはまだあの感触が残っている。
ぼくの様子を見て先生がまた石を渡してくる。
「気持ち悪いとは思うけど持ち続けてみて。全身に広がった後、流れがわかると思うから」
「流れ?」
言われるがままに石を手に持つ。
先程と同じ様に石から熱が発せられる。
それが徐々に身体へ浸透していく感覚に身体が不快感を示すがなんとか耐える。
数十秒、あるいは数秒。
浸透する感覚がなくなった。
代わりに身体中を何かが巡っているのを感じる。
それに不快感はなく、川に水が流れている事と同じでそこにあることが当然であるかの様にぼくの身体に馴染んでいた。
「何か、ぼくの身体を流れてます。水…?違うかな、」
「それが魔力よ。一度その感覚を覚えられたのなら大丈夫そうね。みんなもノルくんみたいにやってみよう!」
先生がみんなに石を渡していく。
各々石を持つ手が淡く光り、セラとアレクは目を輝かせ、ニーナは不快そうな顔をしていた。
「ニーナ、大丈夫?」
「平気、これ結構気持ち悪いわね…」
「おいノル!これ面白いな!」
空気を読まないアレクをぼくとニーナは軽く睨む様に見る。
だがそれに対するアレクの不思議そうな顔にぼくらは笑ってしまう。
「みんな出来たみたいね、どう?何か流れてる感覚があるでしょう?魔力を使う時はその感覚を使いたい場所に集める様にして使うの。これに関しては経験するしかないから」
「よし!ノル!稽古行こうぜ!」
先生がため息をつき、続きを話す。
「まぁ、それもいいけどね。日常生活で使える場面が来ると思うからそういう時に今日のことを思い出してみてね。それじゃあ今日はこれでおしまい!また明日…と言いたいところだけど、もう直ぐ収穫祭があるからその準備で収穫祭が終わるまでは無いから、みんな怪我には気をつけてね。特にそこの2人!」
ビシリ!と僕らの方を指差す。
ぼくは苦笑を浮かべるがアレクは妙に自信に満ち溢れた様子で
「怪我なんてするかよ!それよりノル!さっさと行こうぜ!」
アレクは立ち上がったかと思うと一目散に外へと駆けて行った。
「なんかすいません。それじゃあ先生さようなら」
「良いわよ、あれがアレクくんの良いところでもあるから…。本当に怪我には気をつけるのよ!」
「はい!」
ぼくはアレクを追う様に駆けて行った。




