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2.過ごす日々

遠くから物がぶつかり合う音が聞こえてくる。


「うるさぃ」


ぼくは毛布を引き上げ耳を塞ぎ、ベッドの上で丸くなる。

だが、そんな思いとは裏腹に音は徐々に大きく、近づいてくる。

仕方なく毛布から出て起き上がり、扉の方を寝ぼけ眼で見る。

部屋の扉が大きな音を立て乱暴に開かれる。


「朝だぞー!」


片手に鍋、もう片手にはお玉を手にした母さんが入ってきた。


「なんだ、起きてるの。ご飯できてるから早くおいで〜」


こちらが返事をするよりも前に部屋から出ていってしまった。


「…なんか、いい夢見てた気がするんだけどな」


勿体無い気持ちを置いて立ち上がり、部屋を出る。

寝室を出るとすぐそこに食卓がある。

既にそこに父がいた。

あくびを噛み締め、僕も食卓に向かう。


「おはよう、父さん」


「おはよう、今朝も母さんは元気だね…」


「本当にね」


さっきの目覚まし代わりのうるさい音のことだろう。

毎朝こんな調子だから少しは慣れてはいるが、それでもうるさいことには変わりない。


「なにー?」


奥の台所から母さんの声がする。

ぼくの朝食を用意している所のようだ。


「なんでもないよ」


そういって父さんの対面に座る。

ふぅ、とぼくがため息をつくと、父さんが思い出したかのように聞いてくる。


「そういえば、そろそろ収穫祭の季節だね」


確かに最近は心地の良い気温が続いている。

暑苦しい季節が過ぎ、収穫の季節が近づいていると感じた。


「楽しみかい?」


「もちろん、美味しいご飯もいっぱい出るからね」


現金なぼくの答えに父さんは笑う。


「ねぇ、ノル。今日も教会に行くのかい?」


思い出したかのように聞いてくる。


「うん。手伝いが終わったら行くよ」


「そうかぁ、ならさっさと食べて終わらせようか」


「うん」


ちょうど、目の前に、朝食が置かれる。


「はい、お待たせ!」


母さんがぼくの分と自分の分を持って食卓にやってくる。


「美味しかったよ、母さん。じゃノル、外で先にやってるからね」


先に食べ終わった父さんは玄関に向かった。


「うん」


「いってらっしゃーい!」


母さんが大声で言う。


「感謝を」


お祈りを簡素に済ませ、早く父さんを追うためにために食べ始める。


「ノルー?」


「ふぁい」


「汚い」


バツの悪い顔をしながら口を閉じる。


「教会行く前に、お昼とか渡すから一回帰っておいでね」


口に入っていたものを温かいお茶で流し込む。


「うん、ありがとう母さん」


立ち上がり、玄関に向かう。


「いってきまーす」


「はい、いってらっしゃい!」


外に出ると、朝方の少し冷たい風がまだ残っていた眠気を完全に吹き飛ばす。

足早に父さんがいる、裏の物置小屋に向かう。


「早かったね、ノル」


「急いだからね」


「それじゃあ始めようか」


父さんはそう言うと、左手に持った斧で薪を割り始める。

ぼくの仕事は父さんが割った薪を運ぶことだ。

父さんの薪割りは少し変わっている。

両手用の斧を左手だけで扱っている。


「相変わらずだけどすごいね」


思わず声に出る。


「そう?」


褒められて嬉しいのか、父さんは器用に斧を回してみせる。

父さんは上機嫌に薪を割り続ける。

ぼくは薪が割られていく小気味良い音を聞きながら黙々と薪を積み上げていく。

その間今日見た夢を思い出そうと試みる。

ぼんやりと光景は浮かんでくるが、詳細はわからない。

そんなことを考えていると音は止み、薪はぼくの背丈程まで積み上げられていた。

朝日はもうすっかり登っており、村全体が起きてくる気配を感じた。


「それじゃ、僕は畑のほうに行くけど、ノルはもう教会に向かうのかい?」


「うん、もう教会も空いてる時間だろうし」


「そっか、そういえば今は何を習ってるんだい?」


「昨日までは簡単な計算とか歴史について教わってたけど、今日からはまた別のことを教えてくれるらしいよ」


「別のこと?」


「なんか魔術のことらしい」


「へー、魔術ね、僕には縁のない話だなぁ」


「ぼくもだよ」


「まだわかんないよ〜、意外とね」


父さんの目は昔を思い出すように話す。


「やっぱり男の子っていうのはさ、どこかで憧れみたいなものを持ってる物なんだよ。僕もノルぐらいの歳の頃、昔話の英雄みたいになれるんじゃないかって思ってたよ。今はしがない農民だけどね」


思えばぼくもそんな夢を見ていた気がする。


「まぁ、いってきます」


「いってらっしゃい」


父さんは微笑みながら送り出してくれた。

小屋を後にし、一度家に帰る。

居間に母さんは居らず、机の上にはお弁当が置いてあった。

それを手に取り家を後にする。

少しぬかるんだ道を転ばない程度に小走りで向かう。


「ノル君、おはよう」


他の畑から声が聞こえる。

近隣のおじさんだった。


「おはようございます!」


声のした方を向いて挨拶を返す。

止まることなく、中央の広場に向かう。

途中の十字路に差し掛かった時、


「よーう!ノルー!」


少し遠くからよく通る声が聞こえ、足を止める。

左を向くとぬかるんだ道を気にも止めず一人の男子が走って来ていた。


「危ないぞー」


「なにー?」


「あーぶー」


そこまで言ったところでそいつは思い切り足を滑らす。


「ないっつの」


頭から滑り込んできたそいつを見下ろす。

動きはない、ただの屍のようだ。


「生きてるが!?」


「声に出てた?」


「出てたぞ」


不満げで答えたそいつは全身泥まみれで跳ね起きる。


「おはよう、アレク」


「今!?それどころじゃないでしょ!」


惨状を見せつけてくるアレクに呆れた様子で返す。


「それで?どうするの。その格好で教会に行くの?」


アレクは自分の姿を見る。


「無理、だなこれは」


「じゃあ、先行ってるから」


「冷たいなぁ。まぁいいや、ちょっと待ってて。飛び込んでくる」


「?何言って」


「それじゃ、少し待てー!」


そう言って畑の方へ駆けて行った。


「…飛び込むってなんだ」


すると、畑から何かが水に飛び込む音と、


「何やってんだ、坊主!」


怒声が聞こえてきた。

そのすぐ後にアレクは戻ってきた。


「お待たせ」


何故か得意げな顔をしたアレクが全身泥まみれからずぶ濡れに変わってやって来た。


「その格好で教会に行くの?」


「泥まみれよりマシだろ」


「いいや、もう。さっさと行こう」


「おう!」


濡れ鼠のアレクと歩く。


「で、何したわけ?」


濡れ鼠の理由をアレクに聞く。


「何って、別に?そこの畑の水路に飛び込んできただけ」


そこ、と指差す先を見ると男性がこちらを睨んでいた。

こちら、というよりアレクをだが。


「君ねぇ、人に迷惑をかけるんじゃないよ」


「まぁ、いいだろ。後で謝りに行くし。そんなことよりさ!」


「なんだよ、耳元で叫ぶな。うるさいから」


アレクは瞳を輝かせながら言う。


「今日の授業!魔術についてやるんだろ!」


「そうだね」


「なんだよ、楽しみじゃないのか?魔術だぜ、魔術!火出したり、雷操ったりってさ!」


「別に出し方を教わるわけじゃないと思うけどね」


「なー、使えるとしたら何の魔術がいい?俺は火系統の魔術!」


「ぼくの話聞いてた?」


「何がいい?」


答えろという圧を感じる。


「…風」


何が嬉しかったのか、元々明るいアレクの表情が一層明るくなる。

返事を返すよりも早く、


「あーーーーー!」


女性の声が広場に響く。

話をしながら歩いている間に、いつの間にか教会のある広場に着いていたらしい。


「アーレークーくーんー!」


広場の石畳が砕けてしまうのではないか思う程、足音を荒げながら一人の女性が近づいてくる。


「何をしでかしたらそんなことになるの!」


「アレクが何かした事が前提なんですね。ロナ先生」


「ホントだぜ、俺から何かしたとは限らないだろ」


変に堂々とした態度で言う。


「え、アレク君がまた何か余計なことしてそうなったんじゃないの?」


ぼくの方を見て先生が言う。


「こけて泥だらけになった後、水路に飛び込んでました」


ぼくの答えにアレクが慌てる。


「おい!言うなよ!」


「アーレークーくーん!」


「やっべ」


先生は呆れたようにため息を吐いた。


「まぁ、いいわ。ケダン神父の所で着替え借りてきなさい」


「うーす」


アレクは小走りで教会の中へ入っていく。

すると、中からすぐに他の子供の声とアレクの声が聞こえてきた。

どうやらアレクが笑われているようだ。


「ノル君も行こう」


「はい。あ、おはようございます。先生」


「ふふっ、はい、おはようございます」


先生が開けてくれた扉をくぐり中へ入る。

中には四人の子供が椅子に座っていた。

ぼくと同じぐらいの歳の女の子が一人と、ぼくよりも歳下の男の子が一人と女の子が二人。


「おはよう、ノル兄さん」


そのうちの一番近くにいた銀髪でどこか落ち着いた雰囲気を出す男の子が、ぼくに気がついて挨拶をしてくれる。


「おはよう、セラ」


その声でぼくが来たと気がついたのだろう。


「「ノル兄、おはよう!」」


髪型以外よく似た二人の女の子が椅子に座りながら振り向き、同時に挨拶をする。


「おはよう、ラト、スズ」


挨拶を返すと二人は椅子から降り、こちらに駆け寄ってくる。


「ねぇねぇ、さっきアレクが来たけど何であんなに濡れてたの?」


長めの金髪を三つ編みに纏め、おとなしめな印象を受ける双子の姉、ラトが聞いてくる。

答えようとした所で


「また、アレクがなにかしたのー?」


姉の長い髪とは対照的に短めに整えられ活発な印象を受ける双子の妹、スズからも質問を受ける。


「あー、えっとね…」


答えに詰まっていると見かねたセラが声をかけてくれる。


「ノル兄さんが困ってるでしょ。どっちかだけにしてあげなよ」


「「セラには聞いてない!」」


だが、間髪入れずに放たれた双子からの一言でセラは黙らせられてしまう。

するとこの現状を見かねたのか、少し遠くに座っていた女の子が声をかけに来てくれる。


「こーら、二人とも。ノルが困ってるでしょ。それにそろそろアレクが来ると思うから。聞きたいことがあるならアレク本人に聞きなさい」


優しい言い方で二人を諭してくれる。


「「はーい!」」


二人は元気よく返事をする。


「ごめんね、ノル兄ー」


「あ、アレク来た!」


ちょうどよく奥の部屋から出てきたアレクの方に二人は走って行った。


「僕には謝ってくれないんだね…」


横を見るとセラが少し落ち込んでいた。


「ありがとね、セラ。それにニーナも」


ニーナは長く淡い水色をした髪をなびかせてぼくの方を見る。


「どういたしまして。で、アレクは何であんなになってたのよ?」


「アレクはまぁ、水路に飛び込んだんだよ」


「なんでよ」


「何でだろうね…もうアレクに聞いてくれよ」


「はぁ。ま、そうするわ。ちょうど戻ってきたみたいだし。あなたも席に着きなさい」


ニーナは自分が座っていた1番前の椅子へ向かった。


「そうするよ」


ぼくも後を追い、ニーナの一つ後ろの席に座る。


「いやー、人気者は辛いぜ」


双子からの質問攻めが終わったようで、修道服を着たアレクが疲れた様子でやってきた。


「絶望的に似合ってないわねその服」


「おう、ニーナ。俺は神父になるつもりはねぇからな。似合ってなくて当然よ」


「そういう意味で言ったんじゃないと思うけど」


「え?」


目を丸くするアレクを尻目に前を見る。

普段は村の人たちの礼拝が行われている場所であるため、そこそこの大きさをした神様の像がそこにある。

その像は窓から入ってくる光に照らされぼくの目には神々しく映る。

この勉強会は先生、ロナ修道女が朝から昼の礼拝の時間まで村の子供達であるぼくらに文字や簡単な計算などを教えてくれるという場だ。

先生が来る前もケダン神父が時折、ぼくらに昔話や、実際にあった歴史について語ってくれる事があった。

だが、一つ前の収穫祭の時期に先生がやってきてこの会を始めた。

先生が言うには『字も計算も出来ておいて損はない!』だそうだ。

実際、字が読めるようになってから教会に置いてある色々な本が楽しめるようになった。

中には読めても理解ができないようなものもあったがそういうものを理解できる範囲で読むのも楽しかった、アレクはそうでもないらしいが。

そんなアレクでも好んで読んでいた本がある。

それは「竜狩りの勇者」という本。

その勇者は様々な魔法を使い数々の竜を倒していく。

誰もが憧れる英雄の昔話。

時には炎を出し、時には雷をその剣に宿し、時には竜を氷漬けにし、時には風よりも早く動いていた。

本というよりは絵本に近かったが、その本にぼくらは憧れた。

その日からアレクはずっとこの本に出てくるような勇者みたいになりたいと言うようになった。

ぼくも同じ憧れを持っていた。


「…ル、おい、ノル!寝てんじゃねーぞ」


アレクのその声で覚醒する。

いつのまにか寝てしまっていたようだ。

神様の像の前には先生が立っておりこちらを見ていた。


「ノル君おきた?珍しいね君が寝てるなんて。まぁでも、先生が話してる最中に寝るようなアレク君よりは全然マシだね」


「俺そんな寝てないけど!?」


急に言われたアレクは立ち上がり文句を言う。


「アレクはよく寝てるわよ。いつもいびきが後ろから聞こえてくるもの」


ニーナのその言葉に観念したようにアレクは黙って席に座る。


「それじゃ、そろそろ始めるわよ。今日は昨日言った通り、魔術について基礎的なことを簡単に教えようと思いまーす」


その言葉にぼくは浮き足立つ。

隣のアレクに至っては普段の数倍以上真剣な眼差しで先生を見ている。


「それじゃあまず、魔術について何か知ってるよって子!誰かいるー?」


「はーい!」


隣なアレクが大声で返事をし手を挙げる。


「はい、アレク君!」


「火を出したり、雷を落としたるできるヤツだろ!」


アレクのあまりに大雑把な答えにも関わらず先生は笑顔で言う。


「大体せいかーい!」


先生が拍手をする。


「でも今日はもう少し詳しく教えようと思います。

みんな、そもそも魔術ってどうやって使っていると思う?」


それは教会にあった本を読んだ時に見た事があった。


「はい」


ぼくは手を挙げる。


「はいノル君」


「体内の魔力を使って出しています」


ぼくの答えに先生は少し驚いた様子だった。


「よく知ってたね!その通り!魔術は体の中にある魔力というものを使います」


「ノルよく知ってたな!」


アレクが驚いた様子で言ってくる。


「この間読んだここの本にかいてあったんだ」


「へー、俺はそういうの読めないからなぁ」


ニーナがこちらに振り返る。


「ノルは本当に何でも読むのね」


「ニーナだって結構読むだろう?」


「あなたみたいに理解できないのに読むなんてことはしないわよ」


パンッとぼくらの会話を遮るように先生が手を叩く。


「はい、そこまで」


そう言われてぼくらは先生の方に向き直る。

それを確認してから先生は話し出す。


「魔術は魔力を使って出します。でもそれだけじゃないの。魔術を使うにはその人の素質が必要とされているわ」


「そしつ?」


アレクが聞き返す。


「そう、素質。わかりやすくいえば才能ね。例えば火の魔術に対する才能があればその魔術を使えるようになるわ」


そこまで先生が言うとアレクが手を挙げる。


「はい、アレク君」


「じゃあその素質?って奴が無かったら魔術は使えないってこと?」


「そうね、それともう一つ魔術を使う上で重要な事があるわ」


「何ですか?」


セラが先生に聞く。


「自覚しているかどうかよ。そうね、もし仮にアレク君が火の魔術の素質を持っているとしましょう」


「先生!俺は素質あると思ってるぜ!」


「とりあえず仮に、ね。でも、アレク君は自分が魔術を使えると知らないの。そんな状態だと使えるものも使えないわけね」


「はーい、はーい」


「せんせー質問でーす。」


「どっちかにしてねー」


「ラト姉いいよ」


「わかった!じゃあ、先生。自覚ってどうやってするの?他の魔術師さんが教えてくれるとか?神様からのお告げとか?」


「いいえ、自覚の仕方は色々あるの。例えば何かしらの危機に陥って命を落としかけたり、大きな怪我から回復したりすると無意識に素質について自覚することがあるわ」


「それじゃあ、死にかけたりでかい怪我したりしなきゃ魔術使えないのかよ!」


絶望したようにアレクが大きな声で叫ぶ。

それを聞いた先生は少し笑いながら首を横に振る。


「そんな危ない方法だけじゃないわアレク君。自分がどんな素質を持っているかわかる検査があるのよ」


「どんな方法なんですか!?」


ぼくは思わず立ち上がって言う。


「それはねー。明日のお楽しみ!なぜなら明日、午前中の礼拝が終わった後に皆さんとやってみようと考えているからでーす!」


その言葉にアレクは興奮した様子で立ち上がり喜びの声を上げる。


「よっしゃー!明日と言わずに今やってもいいんだぜ先生!」


「残念ながらまだ準備が整ってないのでできません。今日はこの後魔術についての歴史について教えます。明日遅れずにくるのよ!」


「はい、先生」


「いやー楽しみだぜー」


その後魔術についての歴史を先生は教えてくれた。

アレクは寝ていた。


「それじゃあ今日はこれで終わり。明日遅れないようにねー」


「はい。ありがとうございました」


そう言い横を見るともうアレクはそこにいなかった。

扉の方から声が聞こえる。

「ノル、いこうぜ!」


「早いなあいつ…先生また明日!」


「また明日」


先生に挨拶を済ませてアレクを追う。

出口で待っていたアレクに追いつく。


「アレク、今日もいつもの場所?」


「もちろん。競争だっ」


アレクはそう言うと一目散に走り出す。


「あ、おい待て!」


アレクは朝に通った道とは別方向、森のある方向に駆けていく。

広場を抜け、畑を通り過ぎ、川に架けられた橋を超えた先の森。

森に入っても止まることなく走り続ける。

根っこが多くでこぼこした道であるのに関わらず、転ける様子はない。

少し奥に一回り大きな木が見えてくる。


「よっしゃー!俺の勝ち!」


アレクはそこで止まり、両手を上げ大声で叫ぶ。

少し遅れてアレクに追いつく。

肩で息をしながら話す。


「せめて、同時に」


「いきなりやるんだから面白いんだろ」


「面白く、ない…!」


ぼくの答えを聞くよりも早くアレクは根の部分にある空洞に入る。


「さっさと昼食おうぜ!」


その言葉にため息をつきながらも続いて中に入る。

中には椅子として使っている小さめな丸太が二本あり、アレクは奥に座っていた。

ぼくも座り、包みを開ける。

中には最近採れた旬の野菜が挟まったパンが入っていた。

一口かじると、硬いが新鮮な野菜の旨味が口の中に広がる。


「やっぱ、収穫祭が近づいてきたって感じがするなぁ!」


アレクも似たようなものを食べていたのだろう。


「そうだね、毎年この味を楽しみにしてるぼくがいるよ」


「よし!ご馳走様!」


「早くない?」


「先外行ってるぜ!」


アレクは入り口付近に置いてある木の棒を持って外にかけていく。

ぼくはその様子を見ながらゆっくりと食べる。


「ご馳走様でした」


立ち上がり、木の棒を持って外に出る。


「ウォーーーーー!」


両手を前に突き出しているアレクが大声を出していた。


「何してんの?」


ぼくは少し呆れながら聞く。


「いや、今日先生が自覚してたら魔術使えるって言ってたからさ。試してた」


「そう言うことじゃないんじゃない?」


「じゃあどうしろってのさ」


「それが明日わかるんだよ、きっと」


「そっか。じゃ、やろうぜ」


アレクは足元に転がっていた木の棒を拾い上げるとこちらに先端を向けてくる。


「切り替え早いなぁ。いいけどさ」


答えるように木の棒の先端を当てる。

カツンと、木同士が当たる音が森に響く。

それを合図に、ぼくとアレクはそれぞれ構える。

アレクは力強く高く棒を構え、対するぼくは中段に構え対応する。

アレクと目が合う。

口元はにやけているが目は一切笑っておらず真剣そのものだ。

息を吸う。

たった一歩で詰められる距離。

アレクが動く。

それを認識した瞬間、ぼくも動く。

上段からの力強い振り下ろし。

アレクが1番よくする攻撃。

体重の乗った棒を正面から受ければ力負けしてしまう。

避ければいいが、目の前で振り下ろされる棒を避けられるほど素早く動くことはできない。

ぼくは棒を横から合わせる。

力を受けるのではなく、その力を利用してアレクを軸に体を横へ流す。

振り下ろして空いているアレクの胴に対して棒を振るう。


カンッ


体に当たったにしては乾いた音が響く。

見るとアレクの体の向きがぼくの方を向いている。

地面が抉れるほど強く蹴ってぼくの攻撃に合わせたのだろう。

防がれた。そう認識した途端に右手の棒が弾かれる。

目の前にはアレクが勝ちを確信した表情で棒を振り下ろそうとしているところだった。

体制が崩れており、棒で受けることはできない。

後先考えず思い切り背後へ飛ぶ。

うまく着地はできず背中から転んでしまったが避けることはできた。

直ぐに起き上がり距離を取る。


「惜っしー、今日は先に一本取れると思ったんだけどなー」


アレクは棒を肩に構え、笑いながらこちらを見ていた。

それを見てぼくも笑みを漏らす。


「そう簡単にはくれてやらないよ」


「それはこっちもそう」


そう言うとアレクは棒を地面に落とす。

引き分けという事らしい。

ぼくも起き上がらずにそのまま寝転ぶ。

アレクの方に目線だけ向けて問う。


「あれ、どうやって防いだの?」


「?あれとは」


「ぼくの一撃、アレクの攻撃流した後のさ」


「あーあれね」


そう言うと落とした房を拾い直す。

さっきの状態の再現をしてくれるらしい。


「まず、振り下ろすだろ、その後…」


アレクは振り下ろしきる前に強引に体を捻り棒を跳ね上げた。

とても常人には、少なくともぼくにはできない芸当だ。

ぼくはそれを見てため息を漏らし空を仰ぐ。


「どーしたー」


アレクが覗き込んでくる。


「いーや、お前はすごいよ本当に」


「しってるー!」


「うるさい」


ぼくらが騒いでいると森の方から物音が聞こえてきた。

ぼくとアレクは黙りその方向を見る。


「よぉーやってんなー、ガキ共ふたりー!」


そこからやって来たのはその辺の木よりも太い腕、顔には無精髭を生やした、少なくとも綺麗であるとはいえない中年の男性であった。


「おっさん!」


「こんにちはハドさん」


ハドさんはこちらに来ると僕らの頭を雑にそれでも優しく撫でる。


「おっさんじゃねぇお兄さんな、まだ二十代だ。ようノルさっきの見てたけどあれはアレクがおかしいだけだ。いい攻撃だったと思うぞ」


「何だよ俺がおかしいって!」


「褒めてんだよ、褒めてんの。だからそんな叩くな普通に痛いから」


アレクは殴っていた手を止め腰に手を当て威張る。


「そうだ!俺は冒険者になんだからな!アンタよりも強い、すごいのにな!」


「そーだなー、アレクがなってくれたら仕事減っていいんだけどな」


その言葉にぼくは苦笑する。


「多分仕事増やしますよこいつ」


「そうだな!」


「おい、ノル!」


今度はぼくを叩いてくる。


「ごめんて、本当に痛いから」


「わかりゃいいんだよ、わかりゃ」


叩かれていた左腕をさすりながらハドさんの方を向く。

ハドさんは定期的にこの森に来て奥の調査を行っている1番近くの街を拠点としている冒険者だ。

村の大人たちが言うには結構強いらしいが真相はわからない。

つい最近ハドさんは来ていたはずだ、その時もここで会っている。


「そういえばハドさん、何でいるんですか?最近来たばっかりでしたよね」


「あー、あれだ。なんか荷物届けてくれっていう依頼が出されててな」


「もしかして教会に?」


ぼくがそう言うとハドさんは少し驚いたようにこちらを見た。


「何だ知ってたのか。そうだよ教会のお前らが言う先生にな」


その言葉にアレクが食いつく


「明日のアレじゃん!そうだよなノル!」


「だろうね。ハドさん、その荷物って」


言い切る前にハドさんは首を横に振る。


「残念ながら教えられないぞ。子供達には特にお前らには教えないようにって言われたからな。明日のお楽しみってやつだ」


それを聞いたアレクは落ち着かない様子で素振りを始める。


「あーダメだ、明日が楽しみすぎる!ノル!早く明日にするためにも動きまくってさっさと寝て明日にすんぞ!」


「んじゃ、俺はこのまま奥の様子見に行くからまたな」


「うん、またねハドさん」


「おう、アレクもなー!」


「おーう!」


そのままハドさんは元来た道を戻り奥へ進んで行った。


「ノル!もっかいやんぞ!」


「えー、もうちょい休もうよ」


「いーから。やんぞ!」


―――――――――――――――――――――――


「あー流石につっかれた!」


「そりゃぶっ続けで5戦もやったらね」


「2勝2敗1引き分けか…ノルお前本当後半行くほど動き良くなるよな」


「そっちが飛ばしすぎなんだよ、ぼくは体力残してるだけ」


「何だよ、始めから全力で行こうぜ」


「これがぼくの全力なの」


「あーそうですかー」


と、ぼやいているアレクを置いて棒を中へしまう。

空を見ると太陽が沈みかけていた。


「もう帰るよアレク。そろそろ怒られる」


「りょーかーい」


棒を置きにアレクがぼくに背を向けたのを見て、


「それじゃ、競争な!」


ぼくは全速力で駆け出す。


「な!おい!」


アレクが何か言っているが無視して走る。

森を抜け川を越えると朝アレクに会った十字路が見えてくる。


「はい、到着」


後ろを向くと予想よりもアレクが近かった。


「くっそ、いきなりは、」


「卑怯とは言わせないぞ」


昼間のことがあったんだからと顔を見ると何も言い返せず悔しそうな顔をしていた。


「にやけてんじゃねぇ!」


アレクはそのまま十字路を直進して行った。


「また明日なー」


アレクからの返事はなかったがいつものことなので気にはしない。

家に着くと父さんと母さんが食卓についていた。


「おかえり、ノル」


父さんがぼくの帰宅に気づいた。


「遅かったわねー」


そう言うと母さんはぼくの目の前に立つ


「お弁当、どうだった?」


「すごい美味しかったよ。新鮮で」


「ふふーんそうでしょう。晩御飯はその野菜に追加して、貰ってきたお肉も一緒よ!」


食卓を見ると野菜のサラダに、大きな葉が何かを包んでいるような物もある。


「ノルも座りなさい、頂こう」


父さんがぼくに座るように促す。


「今日も無事に過ごすことができたこと、夕食を家族で取ることができることに感謝を」


父さんが神への祈りを捧げる。

父さんの祈りが終わったことを確認すると食器を手に取り食べ始める。

気になっていた大きな葉で包まれたものに噛みついてみると、中に何層も重ねられた肉が入っておりそれが野菜の旨味と重なり何倍もの旨味となりぼくを襲う。


「おいしぃー」


「そうでしょう。そうでしょう」


「本当だおいしいね」


満足そうに頷く母さん、美味しそうに食べる父さんと話しながら夕食を終えた。

風呂を終えて寝巻きに着替え、ベッドに寝転がる。

明日の午後。

自分に素質があるのかどうか。

少し不安になりながらも眠りに落ちた。

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