1.3 狩り、そして。
「全軍配置につけ!」
現れた。目の前にスコルの群れ。迎撃体制に入り、魔法隊が集中砲火を浴びせる。
だが、何かがおかしい。
「ハティが...いない。」
「ハティを探せ!」
魔法攻撃によってスコルの半数を討伐したが、目の前にはまだスコルが残っていて、残党の一部が既に西門へと向かってしまっている。
まずい。忘れていた。
ハティは確かに大きな魔獣であるが、巨大化することで大きくなっているだけ。
その巨大化のタイミングを自由に操れるとしたら...。
「アスタ!ここでスコルの相手をしている場合じゃない!西門にハティが向かっている!」
「え!?でも、ハティは大きいから見たらわかるはず!」
「ハティはおそらく巨大化するタイミングを決められるんだ!」
急げ
急げ
急げ
目の前のスコルをその場にいた兵士たちに任せ、半分の魔法隊を連れてスコルの一群を追撃する。
「あれだ!ハティだ!」
スコルの中に少しだけ色の違う魔獣を見つける。巨大化する前のハティだ。
「撃て!!!」
アスタの掛け声とともに魔法隊がハティに向かって集中砲火。さすがのハティもバレていることに気づいたようで、その場でそのまま巨大化する。
「下がれ!下がれぇ!!!!」
すぐに部隊を下がらせる。巨大化しているということはその分距離が近づいている。
危なかった。もし気づいていなければ死んでいただろう。ともかく、こいつを倒せば俺らの勝ちだ。
「炎を使え!やつの視界を潰すんだ!」
魔法隊が炎魔法で一気にハティへ攻撃し、周りを炎と煙で覆う。そしてここで...魔砲の出番だ。
「ありったけをぶち込め!!!」
魔砲が轟音とともに巨大な魔法弾を放つ。試作品であるのかはわからないが、昨日に続き二回目の砲撃で魔砲の砲身が壊れてしまった。つまり、この一撃で仕留めなければもう攻撃手段はないと言っても良い。
「弾着......今!!!!」
爆音とともに大きな爆発が起こる。昨日よりも魔力を込めた分、その威力も絶大なものだ。何より、平野喉真ん中で近くに味方がいないの慣れば躊躇する要素はない!
自らが巻いた炎と煙でよく見えない。少し待って煙が晴れてきた時...そこには依然としてハティが立っていた。一切効いていない、というわけではなさそうだが、倒せたわけではない。身体の表面はぼろぼろになっているように見えるが、それが内部までダメージを与えているのかはわからない。
直後、ハティが咆哮。あまりの轟音に皆が耳をふさぐ。だが、その咆哮が最後の光だったのか、ハティはその場で倒れた。大きな音を上げ、土煙を上げながらハティは横に倒れ、力尽きた。
「倒...した...のか?」
「や...った!」
「やったぁ!!」
皆が声を上げ、喜んだ。多大な犠牲を払い、魔砲をも犠牲にしながら、勝った。勝ったのだ。
「ルイドさん...ありがとう...。」
アスタはルイドに抱きつきながら、涙を流していた。それだけ彼女にとってその一撃はプレッシャーだったのだろう。
魔砲というのは優秀だ。あの火力は久方ぶり、稀に見ることができない。魔力が足りないのならば複数人で運用できるようにすればいいじゃないか、なんてこの國の技術者が考えそうだなぁ。
そうして、俺達は凱旋。西門ではゲレントがしっかりと務めを果たしてくれた。戦闘の最中で把握できていなかったが、残っていたスコルの4割が西門に流れていたようだ。置き去りにしてしまった兵士たちもスコルを討伐してくれ、無事に魔獣を掃討できた、というわけだ。
「みんな、聞いてくれ。今回の戦いは最初から想定外で始まった。私の考えが甘かった。必要のない犠牲を産んだことは否定できない。だから、謝る。すまなかった。」
アスタの言葉はまずは謝罪から始まった。昨日の夜、確かに彼女は納得していたが、だからといって皆に詫びない理由にはならない、と言っていた。
「だが、そんな想定外の中、ルイドさんの指揮や、ゲレントの提案、魔砲の超火力もあって魔獣を無事に討伐した。無論、この裏には皆の勇気や、努力があった。感謝する。そして、今日は祝おう。我々の勝利を。我が国の勝利を!」
アスタの言葉には多くの兵士が、住民たちが賛同し、声を上げた。
それから3日間、祭りが行われていた。兵士たちは街に残り、祭りを楽しんだ。王都からは食事や褒美の品が送られてきていた。
アスタには俺の名前は王都に報告しないでくれ、と伝えておいたので俺への褒美はないが、問題ない。この街で人々と暮らし、幸せな毎日を送れること。それが俺にとっての最上級の褒美だ...なんて、カッコつけてはいるが、正直褒美とかいらない。有名になりたくない。
「はい、ケーキとパフェ。」
「ありがと。」
祭り二日目、アスタとともに店に戻り、街を眺める。相変わらず賑わいの音が響き、人々が楽しそうに酒を酌み交わす。
「ねールイドさん。」
「うん?てか言い忘れてたがルイドでいい。さん付けはやめてくれ...なんか気持ち悪い。」
「じゃあ店主さん。」
「なんで戻るんだよ!」
「恥ずかしいから?」
意外と可愛い理由だった...ってのはともかく。彼女の話を聞いてみると、それは俺を連れて王都へ行く。という話だった。
「王都にね、私の師匠?みたいな人がいるんだけど、その人のところに一緒に行きたいなーって。師匠に話しておけばルイドさんも指揮官のお仕事できるし...。」
「昨日も言ったが、俺はそういう仕事に興味はないんだ。この店もあるし...。」
「ルイドさんがいないとまた失敗しちゃいそうだし...ダメ?」
「―――」
やめてくれ、その目。断れなくなるから。
「...わかった。わかったから!その目やめて!」
「やった〜!!」
「で、その会いに行くってのはいつだ?」
「祭りが終わった次の日!」
え?
[今日は休業します。また明日。]
店の前に張り紙をして、今日はアスタとともに王都へ向かう。アスタの言う師匠とやらに会いに行くのだ。
この前王都に行った時は商人の馬車に便乗したが、今日は公共の馬車に乗る。朝ではあるが早い時間ではないので、この時間ならわざわざ手段を探す必要もないわけだ。
「で、その師匠ってのはどこにいるんだ?」
「騎士団の本庁の...たしか東側?に建物があってね、名前は忘れたんだけど、道場みたいな所なの。」
「そこにいるってわけ...か。」
嫌な予感がするが、まあ良い。
「お待ちしておりました、司令が奥でお待ちです。」
「ありがとうございます。」
アスタが門番と軽く挨拶を交わし、中へとはいる。
「待っていたぞ。」
「すみません、少し遅れてしまいました。」
嫌な予感は当たっていた。あの時の記憶が、痛みが、苦しみが。
「アスタリア...少しだけ、少しだけでいい。二人にしてくれないか。」
「え?司令、知り合いなんですか?」
「あぁ、ちょっとな。」
「と、とりあえず了解しました!じゃあ、お二人で。」
その司令...フリムがアスタを外へと行かせ、俺と二人きりになる。
「運命とは面白いものじゃな...まさか貴様が再び私の前に現れることになろうとは。」
「俺も...まさかとは思っていたが。」
「それで、なぜここへ来た?と聞いてもお前には状況がわかっていないじゃろう。質問を変える。なぜあの子を助けた。」
その言葉を聞いても、答えは出ない。
わからない。なぜ、あの子...アスタが俺に決断する一歩を踏ませたのかはわからない。分からないんだ。
『ねぇ...ルイ...。私が死んだあと、どうするつもり?ずっと独り?』
『だって...お前以外、見つけられないよ俺には。』
『ふーん。たまにはかっこいいこと言うじゃん。でもさぁ天国からルイのこと見た時に一人ぼっちだったら悲しいからぁ、ちゃんと相手見つけてよ?』
「まだ...立ち直っておらんのか。いい加減、あの子のことは忘れろ。あれは仕方のない犠牲だ。アスタリアももう立ち直っているであろう。」
「無理だよ、俺には。何年経ってもさ。」
「それは困ったものだな。相変わらず...お前は弱っちいのう。」
ほんとだよ。いつまでも弱っちい。それが俺なんだ。
「で、お前は戻ってくるつもりはあるのか?」
「ない...と言いたいところだが、どうもあいつには好かれちまったみたいでさ」
「なるほどな...それで私のところへ...か。わかった。根回しはしておこう。貴様の名が騎士団に出ることはあるまい。安心せい。」
その後、アスタが部屋へと戻ってきて、三人で話をした。改めて名前を名乗ったフリムは相変わらずの態度だった。俺のことをアスタには内緒でいてくれたし、アスタもそこは深く疑ってはいなかった。
フリムの言う通り、アスタがここへ来た理由は俺を表に立たせずに自分のもとに置きたいという願いを伝えるためだったようで、フリムは快諾。そうして俺はアスタのもとで参謀?的な立ち位置に収まった。
「師匠、ありがとうございました。」
「そんな、感謝されるようなことじゃないさ...弟子の頼みなら何でもする。また困ったら来ると良い。」
「フリム、ありがとう。」
「おっと?フリム様と呼んでもよいのだぞ。」
「誰が呼ぶかよ!」
懐かしいな、この会話は。
「ルイド、一つだけ言っておく。二度目はないからな。」
「あぁ...わかってるさ。」
アスタは不思議そうに見ていたが、あえて詮索するようなことはしなかった。
こちらとしても、その方が助かる。
「ルイドさん、この後時間ありますか?」
「あぁ...店は閉めてきたから今日は暇だよ。」
「じゃあ、ご飯食べに行きませんか?」
「いいよ。王都はあんまり来る機会ないし...たまには。」
そうして、アスタの提案で王都で昼食を取ろう、ということに。普段自分で作ってばっかりの俺には外食ってのは新鮮なものである。ヴェラーテと違い、街にレストランがいくつも並んでいる。
「ここです!いつも来るお店!」
アスタの案内で小さな店に入る。こじんまりとはしているが、めちゃくちゃいい匂いがする。
「ルイドさん、何にします?」
「じゃあ...まぁサンドイッチにしようかな。」
一口。美味い。
二口。美味い。
「ごちそうさま。」
俺がサンドイッチをあっという間に食べ終わり、アスタは驚いていた。
「ルイドさん、早いですね...。」
「すまない、あまりにも美味しかったもので。」
「それなら良かったです!」
食後のデザートにと二人でケーキを食べる。ほんのりした甘みがありつつもすっきりとした後味でくどさを感じさせない。敵ながらあっぱれ...といったところだろうか。
「ここは私が奢ります!ルイドさんにはついてきてもらったので!」
「いやいや、俺が払うよ...いい店紹介してもらったわけだし、着いてきたのは俺だしな。」
「いえ、ルイドさんに払わせるわけには行きません!」
結局押し負けた。おい、何負けてんだよ。
まぁ、値段はそこまでだったので少しだけダメージは減った。
「ルイドさん、奢った代わりに一つだけ聞いてもいいですか?」
そう言われて俺は頷いた。奢ってもらったというよりは...なんて言うのはやめておこう。
「ルイドさんと師匠は知り合いなんですか?」
「まぁ...なんというか、アスタみたいな関係になった子が昔いてさ。その子を助けた時に会ったのがあいつだったんだよ。」
「なるほど...じゃあ、ルイドさんはユリシアという名前に覚えがありますか?」
ユリシア...か。
「いや、知らないな。」
「そうですか...やっぱりかぁ。」
「アスタの知り合い?」
「まあそんなとこです。」
そうして談笑しながら街を歩いていき、その後も散策を楽しんだ。
帰り道の馬車、アスタは疲れたのか、寝てしまっていて。
「ったく...しょうがないやつだな...。」
昔も同じようなことをした記憶があるぞ?まったく...どいつもこいつも帰り道でぐっすりなんだから...。
アスタをおぶって店へと戻ってきた。裏の家に入り、アスタを降ろす。本当なら着替えさせてやりたいとこだが、さすがにそれをやると牢屋行きになりそうなので大人しく汚れても良い布団を持ってきてアスタのベッドに引き、寝かせてやる。
「おやすみ、アスタ。」
そっとドアを閉めた。
その後、起きてきたアスタが申し訳なさそうに部屋を出てきてドタバタと布団の移動をしていたのは言うまでもない。
「昨日はごめんなさい!久しぶりの休日で色々はしゃいでしまいました!」
「謝ることはないよ、アスタは軽いからね。ここまでおぶるのはそこまで大変じゃないさ。」
「いやいや、それでも変えの布団まで用意してもらって...。」
「じゃあ、アスタ。謝罪しなくていいから今日はお仕事を休んでなさい。」
「え?えーっと、今日は訓練があるので...」
「連絡しとくから。寝てな。」
「アッハイ」
さて、連絡するか。
「フリム、今日はアスタ休むから!よろしく!」
「いきなり連絡してきおったと思ったら、何を言い出すんじゃ。」
「しょうがねえだろ、アスタがお疲れなんだよ。どうせ前線じゃないんだから一日ぐらい、良いだろ?」
「はぁ...お前らはほんとに相性のいいコンビじゃな...わかった、私の方で取りなしておく。アスタを休ませておくと良い。」
「ナイス!じゃあな!」
「おっと、最後に一つだけ伝えることが残っておる。今から私もお前のところに行くとしよう。では、また後でな。」
は?あいつ最後なんて言った?うちに来るって?
おいおい、勘弁してくれよ。




