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「私、明日若い男の人たちとお食事会なんですよ」


 せっかく手にした姫の侍女という素晴らしい仕事を失ってはならないと新人三人組は以前より働く様になった。

 そのおかげか私にどうでもいい報告をしてくる。

 食器を磨きながらララーが楽しそうに私に言ってくる。


「そうよかったわね」


 私は彼女たちが磨いた食器をチェツクしながら頷いたが心ここに在らずという状態だ。

 なぜなら私も明日は重大な任務があるからだ。

 姫様とアレン王子を街の食堂で会わせるのだ。

 うまくいくだろうかという心配ばかりが襲ってくる。


「明日こそいい相手を見つけてすぐに結婚して仕事を辞めます」


「そう」


 気のない私の返事にフェイナとララーは顔を見合わせている。


「リシェ侍女長、何か心配事でもあるんですか?」


 彼女達なりに心配はしてくれるようだ。

 私の心配を彼女たちに言えるはずもなく私は首を振った。


「全くないけれど。そうね、アイリス姫のご結婚が近いからかしらね」


「あーわかりました。アイリス姫が小さい時からお世話をしていたから寂しいんですね。お母さん気取りをしていたんじゃないですかぁ?結婚できないから」


 余計なひと言を言うフェイナを私は睨みつけた。


「アイリス姫を娘の様になんて思ったことはないわ。失礼でしょう」


 妹の様に思ったことならあるが敢えて教える必要もない。

 確かにアイリス姫が嫁いいってしまうのは寂しいがそれよりも明日のことであ頭がいっぱいだ。


 明日、新人三人組はお休みだ。

 私が夜までアイリス姫に付き添う予定になっている、あとは王子と会うことを知っている侍女長クラスの人たちが手伝いに入る予定だ。


「アイリス姫がお嫁に行ったらリシェ侍女長はどうするんですか?」


 純粋に聞いてくるララーに私は軽く眉を上げる。


「普通に勤務するわよ。侍女という仕事は嫌いじゃないから。きっと教育の方に回ると思うけれど、あなた達みたいな新人を見ると自信がなくなってくるけれどね」


 ため息がちにいうとフェイナとララーはお互い顔を見合わせる。


「別に私たちは普通ですよ。ご実家でゆっくりしようとか考えないんですか?」


「ゆっくりなんて、おじいさまが生きている限り無理ね」


 私が言うとフェイナが手を叩いた。


「あっ、私知っています。お祖父様って騎士団長だったそうですね」


「そうよ。今も元気に剣を振っているわよ。毎日、毎日、嫌になるわ」


 うんざりしている私にフェイナとララーも頷いてくれる。


「それは大変そうですね。今の騎士団長も筋肉質で大きくてうざいですもの。あんなのが家に居て毎日剣を振ってたら嫌ですよね」


 同情的に言われて私は思わず吹き出してしまう。


「確かに、お祖父様は今の騎士団長と背格好はそっくりよ。……うざさ加減もそっくりね」


 私の言葉にフェイナとララーは同情的に顔をしかめた。

 彼女達もはじめはなんて新人だろうかと思ったが話せば意外と理解し合えるものだ。

 磨き上げた食器を確認し終わって私は2人を見つめた。


「クリスティーナはどこにいるの?食器を磨きにこいって言ったのに」


2人は肩をすくめた。


「護衛騎士のディオン?という人といい感じになってからサボってばかりなんです」


「きっと今も会っているんだわ」


 仲良し3人組だと思っていたが告げ口をされている。

 自分たちが働いているのに男と会っていれば当たり前だろう。

 私はため息をついた。


「そろそろ半年が経つけれど、クリスティーナは以前より働くようになったと言っても勝手に男と会っている様では考えないといけないわね」


「えっ」


 私の言葉にフェイナとララーはお互い顔を見合わせてから慌てたように仕事を探し始めた。

 首を切られまいと仕事をする2人に好感が持てる。


「はぁ、クリスティーナには困ったわね」


わたしは呟いて窓の外を見る。

庭にはクリスティーナと噂のディオンが楽しく話しているのが見えた。


「クリスティーナがいたわ。ちょっと連れ戻してくるわね」


 遊んでばかりのクリスティーナに注意をするのも私の役目だ。

 にこやかに言う私に、フェイナとララーが頷いた。



 階段を降りて庭へと向かう。

 アルセ王国の城、その庭は手入れが行き届いており冬だというのに落ち葉ひとつ落ちていない。

 外の冷たい空気を吸い込んで私は肩をさすった。


「寒いわね。あの2人よくこんな寒いところで話していたわね」


 騎士のディオンは冬用の厚いマントを纏っていたが、クリスティーナは私と同じ侍女の制服だ。

 一枚羽織ってくればよかったと肩をさすりながら歩いていると大きな石につまづいた。


「うわっ」


 危うく転びそうになるところを力強い腕に支えられた。


「大丈夫か?」


 ベルベルト様が私を支えてくれていた。

 転ばなように後ろから支えてくれている手が一種だけ強くなった。

 

「ありがとうざいます」


 驚く私にベルベルト様は微笑んで手を離してくれる。


「君が石につまずいて転ぶなんてめずらしいね」


「クリスティーナがおたくのディオンと会っていて仕事をしないんですよ」


 嫌味っぽく言うとベルベルト様も頷いた。


「奇遇だな。俺も同じことを注意しに来たところだよ」


「新人のディオンも困ったものですね」


「全くだよ。今までの新人で一番仕事を放棄している。そもそも護衛騎士になるには数年かかるはずなのにどうして入りたての坊やが入隊できたのかが不思議だ」


 珍しく文句を言うベルベルト様を私は見上げる。


「普通試験をしますよね?それはどうしたんですか?」


「内務大臣のコネだ」


「そういえば以前も言っていましたね」


 私は頷きながらため息をついた。


「全くお互い困ったもんだね。ほら、噂の2人がいたよ」


 ベルベルト様が指差した先にディオンと楽しそうに離しているクリスティーナが立っていた。

 私たちの姿を見るとクリスティーナが不機嫌になった。


「何しに来たんですか?私に彼氏ができたから嫉妬しているのかしら」


 揶揄う様に言うクリスティーナにベルベルト様の方が私より驚いている。


「嫉妬?仕事をしない君たちに?」


 本気で驚いているベルベルト様にディオンは申し訳なさそうに頭を下げる。


「すいません。休憩時間すぎて居ましたか?」

「集合時間は守ってくれないと困る。もし、彼女と一緒にいたいのならそのままでもいいけれど」


 ベルベルト様が言うとディオンは真面目に頭を下げた。


「いえ、すぐ仕事に向かいます。すいませんでした」


「クリスティーナは仕事に戻る?それとも退屈だったら違う部署に移動もできるけれど」


 私が聞くとクリスティーナは不満そうに髪の毛を指先でいじり答えようとしない。

 答えないクリスティーナの背をディオンが叩いた。


「クリスティーナも謝った方がいい。先輩の言うことはちゃんと聞くんだよ」


「わかったわ」


 ディオンの言うことはしっかりと聞くようだ。

 にっこりと笑って頷くクリスティーナに私は何度目かわからないため息をついた。


「私にもあれぐらい素直になってほしいわね」





 




 



 


 

 

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