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「私、アイリス姫のお部屋の掃除に行きます」
「私は姫様が授業を終えた後にお出しするお茶を用意しておきます」
テキパキと動いているフェイナとララーを見つめる。
ハンカチの事件からこの2人はよく働くようになった。
結婚相手を探すまでは侍女を頑張ろうと心を入れ替えたようだ。
ただ結婚をしたらこの職場を離れていくのが見えてなんとなく寂しい気持ちにもなる。
「早く結婚相手を見つけないとお局に部署移動させられるわ」
「そうよね。アイリス姫の侍女ってだけでかなり好印象なんだからお互い行き遅れないように、がんなりましょうね」
フェイナとララーはお互いガッツポーズを取ると廊下を歩き出した。
せめて私が見て居ないところで励まし合うべきだろうに。
最近の若いものはお局と呼んでいる人の前で悪く口がよく言えるものだ。
もしかしたら最近の若い子はお局という言葉が悪いと思っていない可能性もある。
私はハッとして眉を潜めた。
それならば言葉遣いから指導をしないといけないという事だろうか。
また1つ頭痛の種を見つけてしまい頭を抱えたくなってくる。
クリスティーナの態度は相変わらずだが、それでも以前よりは動くようになっている。
私への悪口は相変わらずだ。
ゆっくりと時間をかけて茶器を磨いているクリスティーナに私は声をかけた。
「クリスティーナ。私は護衛騎士の方々と会議だから後よろしくね」
「はい」
にっこりと素直に微笑んでいるクリスティーナ。
お局のいない間にお菓子を食べて休憩をしようという内面が見えた。
案外分かりやすい子だ。
私も若い時はそうだったのだろうかと首を傾げながら護衛騎士の詰め所へと向かった。
「お疲れ様です」
護衛騎士の詰め所へ行くと、王族の護衛のみならず騎士団長も同席していた。
普段の会議には出席することがないので私は驚きながらも席に着く。
「遅くなりましたか」
焦る私にベルベルト様は微笑んでくれる。
「まだ時間前だよ」
細長いテーブルには騎士団長と王族の護衛騎士、それぞれの侍女長クラスの女性たちが座っていた。
私はアイリス姫の侍女長と言う立場だが集まっている侍女の方達を見て少しだけ安心をする。
結婚出産を得て仕事に復帰した人たちだ。
私も昔の人と言われるほど年長ではないのだ。
出席者が集まったことを確認して騎士団長が口を開いた。
「さて今日緊急で集まってもらったのは、アイリス姫のご結婚が近いので警備の見直しってことと、重大発表がある」
「重大発表?」
ザワザワする一同を騎士団長は睨みを利かせて黙らせる。
騎士団長は舌打ちをする。
「非常にめんどくさいことになっている。なんとアイリス姫のご結婚相手のアレン王子が極秘で来られるそうだ」
「……極秘とは?」
不思議そうに聞く年配の侍女に騎士団長は答えた。
「その名の通り正体を隠してやってくるってことだ。姫に会ったら満足だそうだが、できれば外で会いたいらしい」
非常に面倒だというふうに騎士団長は顔を顰める。
「ただ姫に会いたいだけなんだそうだ、それも城の外で非公式に。そんなことは無理だって言ったらなんとかしてくれって言う。あいつわがまま王子だわ」
説明を放棄したような騎士団長の後に続いてベルベルト様が説明をしてくれる。
「仕方ないので話を端折りますが、お互い譲歩をしまして。一晩、夜だけならスケジュールが取れることになりました」
私は手を挙げる。
「何故夜なのですか?アイリス姫はご存じなんですか?」
アイリス姫は知っているはずがないと希望を込めて聞くとベルベルト様が答えてくれる。
「アレン王子が外交で戻る途中、我が国に身を隠して立ち寄れる時間が夜なんだよ。まだアイリス姫はご存知ない」
「なるほど」
私は頷きながらアイリス姫と外に出たことを思い出す。
教会などの視察や、お忍びで街へ出ることはあるが夜は一度もない。
「そこで、城の横の食堂を一晩貸し切った」
「なるほど。お二人で会うんですか?」
広い食堂にアレン王子とアイリス姫がポツンと座り壁際に立っている騎士を想像する。
あまりにシュールな光景に私は眉を顰めた。
騎士団長は首を振った。
「そんなことしたらアレン王子が気を遣って話せねぇし、誰かに王族が来るとバレたらまずい。その晩は騎士団の打ち上げってことにしてある」
「なるほど……。それは王子と姫はご存じなんですか?」
私が聞くと騎士団長は肩をすくめた。
「言っていない。食堂にいる人が全員城の関係者だと知ったら気味が悪いだろうが」
「まぁ、そうですね」
私は頷くと、騎士団長は大きく息を吐いた。
「と、言うことでアレン王子とアイリス姫が会うことは決定済みでこれは公表されない。したがって、我々だけの極秘プランだ」
警備の不安を残しながら会議はお開きとなった。
また頭の痛いことが多くなり思い気分で部屋を出るとベルベルト様が声をかけてくる。
「面倒なことになったね」
そう言いつつベルベルト様は微笑んでいる。
この人はいつも微笑んでいるなと思いながら私は頷いた。
「全くです。成功する気がしませんが……。ベルベルト様の部下はみんな存知なんですか?」
「その日は特別に食堂を貸し切ったら好きに飲み食いをしていいと言ってある」
「……経費で出るんですか?」
眉を顰める私にベルベルト様は楽しそうだ。
「まさか騎士団長の奢りだよ。ただ、そこで俺たちは姫様と王子を彼らに勘付かせないようにご案内しないといけない」
「えっ?」
当たり前の様にいいわれて私は固まった。
人並外れたオーラと美しさを持っているアイリス姫を食堂にお連れするだけでも大変なのに、食堂の中でも勘付かせない様にしないといけないのか。
「大丈夫だよ。食堂に王子と姫が来たら俺たちの部下は馬鹿じゃないんだから気づくし意図を理解するよ。きっとみんな見て見ぬふりをしてくれると思うよ」
簡単に言うベルベルト様に私は腕を組んで首を傾げる。
「まぁ、確かに姫と王子だーって大騒ぎはしませんよ……ね?」
今時の若者はわからないから不安が残りベルベルト様を見上げる。
ベルベルト様も肩をすくめた。
「大丈夫だと思いたいけれど、最近の若い子はわからないからなぁ。それで僕たちはアイリス姫を無事に食堂まで送り届けて帰ってくるという重大任務が待っているわけ」
ベルベルト様の言葉に私はため息をついた。
「重大任務ですね」
確かに姫を送り届けるの侍女長の私と護衛騎士隊長のベルベルト様になるだろう。
大勢で動いても目立つだけだ。
ベルベルト様は軽く笑うと頷いた。




