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 ベルベルト様と共にアイリス様の部屋へと入る。

 私だけがやってきたと思っていた新人二人組、フェイナとララーはベルベルト様を見ると目を輝かせた。


「わぁ、ベルベルト様がいらっしゃったんですねぇ」

「嬉しいですぅ」


 喜ぶ二人を見て私はまた頭痛がしてくる気がして額に手を置いた。


「あなた達に会いにきたわけじゃないのよ。アイリス姫に挨拶に来たのよ」


 丁寧に注意をする私をベルベルト様は面白そうに見つめて頷いた。


「夜勤明けなもので、アイリス姫にご挨拶にお伺いしました」


 礼儀正しく騎士の挨拶をするベルベルト様に新人二人組は黄色い声をあげた。


「素敵!さすがベルベルト様。素敵ですぅ」


 私のことをおばさん呼ばわりしているくせに、それより年上のベルベルト様はおじさん扱いしないのはおかしいでしょう。

 私が引き攣った笑みを浮かべているとアイリス姫が奥の部屋から出てきた。

 一通りのお支度は終わっている様だが、新人二人組が結ったであろう髪の毛は少し乱れており私はため息をついた。


「ベルベルト、夜勤お疲れ様」


 姫様が声をかけるとベルベルト様は軽く頭を下げる。


「仮眠を取ったらすぐにまた城に戻りますので何かありましたらすぐお知らせください」


「ありがとう」


 アイリス姫は微笑んで何かを言おうか迷っている様子だった。

 私はポケットから一枚のハンカチを取り出す。


「これですか?また庭に落ちて居たそうですよ」

 

「また?どうして私のハンカチがなくなるのかしら」


 不思議そうにしているアイリス姫に私も首を傾げる。


「どうしてですかね?あなた達も何か心当たりはないかしら?」


 後ろの新人二人組を振り返るが二人とも首を傾げている。


「アイリス姫のお気に入りのハンカチですよね?」


 いつの間にか部屋に入ってきたクリスティーナが二人の後ろに立っていた。

 私は彼女を見つめながらもう一度聞いてみる。


「クリスティーナもこのハンカチがどうして外に落ちていたか知っているかしら?」

 

「それって私を疑っていると言うことですかぁ?」


 間延びした言い方をされてカチンと来るが私は冷静に笑みを作った。


「みんなに聞いているのよ」


「それなら一番怪しいのはリシェ侍女長じゃないですか?」


「……私?」


 ニヤリと笑うクリスティーナに私は思わず大きな声が出てしまう。

 疑いをかけられたことよりもクリスティーナの言い方にイラッとしている私を楽しそうに見つめている。

 クリスティーナは長い金髪の髪の毛を指先で弄びながら意地悪な笑みを浮かべる。


「だって、そのハンカチはアイリス姫が大切にして居たものでしょう?リシェ侍女長が私たちのことをよく思って居ないのは知っています」


「何が言いたいのかしら?」


 引きつている私の顔を見てクリスティーナは楽しそうだ。


「私たちのせいにすれば部署移動させられるし。おばさんが長く侍女長として威張っていられますものね」


 私がわざとハンカチを盗んで捨てたと言うクリスティーナの言葉にますます頭が痛くなってくる。

 私が口を開くより先にベルベルト様が間に入る。


「俺は全面的にリシェ嬢の味方なんだけれど、アイリス様のお気に入りのハンカチを盗んで庭に置くのは無理があろうだろう。リシェ嬢が退勤の時は護衛騎士の詰め所に報告するし、朝の出勤時にも挨拶に来る。ちなみに俺がそのハンカチの発見者だが落ちて居たのは2回とも間違いなく夜中だね」


「夜中にリシェ侍女長が忍び込んだんじゃないんですか?」


 クリスティーナは馬鹿にしたように言うがベルベルト様は軽く眉を上げる。


「素晴らしい妄想だね。城の警備は忍び込めるほど簡単じゃないんだよ。誰がいつ入ってきたか記録をされている。ちなみにもし君たちが気に入らなければ侍女長なんだからそんな周りくどいやり方をしなくてもすぐに部署移動はできるんだよ。今は様子見をしているだけだ」


「えっ?」


 ベルベルト様の言葉に顔色を変えたのはフェイナとララーの二人だ。

 クリスティーナは興味なさそうに視線を窓の外に向けている。


「そうよ。まだ新人だからと思って居たけれど仕事をする気がないのなら辞めてもらってもいいのよ」


 私の宣告の言葉に二人は顔を青くする。


「そんなぁ、私いい結婚相手が見つかると思って侍女の面接頑張ったんですよぉ」

「私もです、コネを使いまくって仕事にありつけたのに、このままだとお父様の変な人と結婚させられちゃうわ」


 フェイナとララーは口々に言うのを聞いてベルベルト様も顔を引き攣らせている。


「最近の若い子はとんでもないことを口にするな。普通は裏で言うもんじゃないのか?」


 同意を求める様に言われて私は深く頷いた。

 ララーは思い出した様に私を見つめる。


「あのハンカチはアイリス姫のお気に入りなんですよね。それに嫉妬したリシェ侍女長がハンカチを取って落としたんじゃないんですか?」

 

「私がハンカチに嫉妬?」


 訳がわからず思わずベルベルト様を見上げる。

 ベルベルト様も肩をすくめた。

 ララーが私とベルベルト様を交互に見つめて説明をする。


「だって、そのハンカチはアイリス姫のおばあさまが刺繍されたんでしょう?もう目がお悪いから少し不恰好だけれどアイリスのお花を刺繍されたって私聞きました」


「誰から聞いたの?」


 ララーの話に私はうんざりしてくる。


「噂です。アイリス姫は大事にされている不恰好な刺繍が入ったハンカチだって。小さい頃から大切にされているからきっとおばあさまが刺繍したんじゃないかって」


 それを聞いたベルベルト様が声を上げて笑い出した。

 珍しく彼が笑うのを見てフェイナとララーが顔を赤らめる。

 顔がいいと38歳のおじさんでも若い子には好印象に見られるようだ。


「確かに、アイリス姫が5歳の時にもらったハンカチだからお婆様が刺繍をしたと思ってもおかしくないかもね。本当は違うのにね」


 笑いながらベルベルト様に話を振られて私はムッとしながらも頷く。

 

「……私がアイリス様にせがまれて刺繍をしました」


 私がいうとフェイナとララーそれにくらえて何故かクリスティーナまで驚いている様だった。

 クリスティーナは意地悪く笑う。


「かなり昔の話だからお婆様かと思いました。刺繍苦手なんですか?」


 馬鹿にした様に言われて私はアイリス様を振り返る。


「だからあのハンカチはさっさと燃やしてくださいと言っているんですよ。なんなら私が捨てて差し上げましょうか?」


 私がいうとアイリス様は首を振る。


「やめて。私はそのハンカチがいいの。リシェが初めて刺繍をしてくれたハンカチですもの大切に持っているわ」


 アイリス姫のうるうるとした瞳で見つめられて私はため息をついた。


「今度無くしたら本当に返しませんから。捨てますよ」


 私が言うと、フェイナとララーは信じられない様な目で見てくる。


「リシェ侍女長はそのハンカチが大切じゃないんですか?」

 

「ちっとも。不恰好なアイリスの花の刺繍を見るたびに気分が落ち込むわ。新しいのを作って差し上げますよ」


 アイリス姫に提案をするが首を振ってハンカチを取られてしまった。


「新しいのも欲しいけれど、これはこれで大切よ」


「まったく、これを盗んだ犯人はどうせなら庭に捨てないで燃やしてくれればよかったのに……」


 私が呟くとベルベルト様は楽しそうに笑う。


「実は僕も同じハンカチを持っているんだ。刺繍の練習をしていたリシェ嬢のハンカチを盗んだからね」


 盗んだと言う言い方にまた新人3人組が驚いている。


「どうしても欲しいと言うから差し上げたんですが……まだ持って居たんですか?早く燃やしてください」


 私の言葉を無視してベルベルト様はアイリス姫に向き合う。


「言ってくだされば、数枚は所持しておりますのでどうぞお申し出ください」


「……私にくれたのは一枚だったわ」


 ふてされたアイリス姫に苦笑しながらベルベルト様は頷く。


「よくできた一枚をアイリス姫に差し上げたんですよ」


「私だけしか持っていないと思って居たのに。気分が悪いわ」


 頬を膨らませているアイリス様は可愛らしくて私は怒りを忘れて微笑んだ。

 

 


 

 

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