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 ベルベルト様と一緒にアイリス姫の部屋へと向かうべく廊下を歩く。

 太陽が差し込んで寒い空気がすこだけ穏やかだ。

 

「夜勤だったんですね」


 護衛騎士隊長のベルベルト様はほとんど夜勤を行うコトはない。

 偉くなると夜勤の回数が減るらしい、ベルベルト様も夜勤をするのは珍しい。

 朝にアイリス姫に挨拶へ行くということは夜勤が終わったということだ。

 私が聞くと彼は頷く。


「ハンカチのことが気になってね。俺もこれから夜勤を増やしていくよ。仮眠をしたらすぐ戻るつもりだ」


「なるほど。確かにお嫁入りまで心配ですよね」


 私が頷くとベルベルト様は言いにくそうに私をチラチラと見つめてくる。

 気遣うような青い瞳に不審に思いながら見上げた。


「なんですか?」


「いや、リシェ嬢はアイリス姫の嫁入りについて行くのかなと思って」


 心配そうに言うベルベルト様に疑問に思いながら私は首を振った。


「アイリス姫からお誘いはありましたし、心配ではありますが。おじいさまが許さないです」


 ベルベルト様は思い出したように微笑んだ。


「あぁ、バルダー騎士団長は君を可愛がっているからね。おじいさまはお元気かい?」


「バルダー前・前・騎士団長ですね。元気ですよ。毎日大きな声を出しながら剣を振っています。私もたまに付き合わされて最悪です」


 うんざりしている私にベルベルト様はますます微笑んで柔らかい瞳で見つめてくる。


「そうかな、俺は羨ましいけれどね。あの伝説のバルダー殿に稽古をつけてもらえるなんて」

 

「そんな人いるんですね、それならぜひウチに今度遊びに来てくださいな。おじいさまは喜んで相手をしてくれますよ」


 私の祖父バルダーは騎士団長を務めていたが歳をとって隠居生活をしている。

 実家にいる私は毎日顔を合わせているのだが、孫の私からみてもむさ苦しい筋肉質の大きな体を持ったただの迷惑なお爺さんだ。

 騎士団長をしていた時も圧倒的な筋肉のパワーでウザがられていたと聞いている。

 たまに我が家に稽古をつけてもらいにくる人もいるが、祖父は叩きのめしている姿を何度も見ている。

 私の言葉にベルベルト様はますます微笑んだ。


「それはありがたい申し出だな。今度本当に伺うよ?」


「ぜひ来てください。おじいさま本当に喜ぶわ。最近の若者は骨のある奴がいないって言っているから……」


 そこまで言いかけて私は口を注ぐんだ。

 ベルベルト様が不思議そうに見つめてくる。


「何か?」


「いや、私おじいさまと同じことを思っていたなと気づいたんですよ。最近の若者はって文句を言っているから……」


 むさ苦しいお爺様と一緒の考えになってしまったかとショックを受ける。

 あんな風になりたくないと思っていたが実際今の私がおじいさまにそっくりだ。

 項垂れている私にベルベルト様はかすかに声を上げて笑った。


「大丈夫だよ。俺だって同じことを思っているから。最近の若者はってね、ほらアイツ最近入ってきた騎士なんだけれどどうしたことか推薦で護衛騎士に抜擢されたんだよ」


 そう言ってベルベルト様が指を刺した方向を見る。

 窓の外、裏庭で女性と話している若い騎士の姿が見えた。

 若い騎士が微笑みながら話しているのはウェーブがかかった金髪の女性クリスティーナだ。

 私はうんざりして頷いた。


「クリスティーナの彼氏かしら?早く結婚したいようだから彼ができてよかったわね。今までできれば辞めてほしくない侍女ばかりだったけれど、さっさと結婚してやめて欲しいと願うのは初めての経験だわ」


「リシェ嬢がそこまで言うのはよっぽどだね。俺もあの新人の騎士ディオンが来てから最近の若者は……って思っているからね」


 苦笑しているベルベルト様に私は驚いた。


「ベルベルト様もそんなこと思うんですね」


 いつも冷静な彼が珍しいこともあるものだ。


「思うよ。俺なんか貴族だからと言って階級を上げてもらうこともなく努力で王族の護衛騎士まで上り詰めたが、ディオンは初めからなぜか王族の護衛騎士だ。しばらくは補佐的な役割で様子見だけれどね。剣の力はあるようだが、下積みは大切だろう?」


 チラリと横目で見られて私は頷いた。


「そうですね。彼の身元は確かなんですか?」


「大臣のご推薦だから確かだよ。デ・ピュール男爵家の3男坊のようだ」


「聞いたことがありませんね」


 首を傾げる私にベルベルト様も頷く。


「俺も初めて聞いた。なんでも田舎の男爵家らしい」

「なるほど。……田舎の男爵家にクリスティーナは嫁に行きたいのかしら」


 あのプライドが高く何度注意しても身なりを整えない彼女が田舎に行くと思えない。

 

 私の疑問にベルベルト様は肩をすくめた。


「それこそ、最近の若者はって奴じゃないか?ほら、彼よく見ると整った顔をしているし意外と気さくに話してかなり人当たりがいい」


「なるほど。クリスティーナが楽しそうに話しているのはそう言うことね」


 確かによく見るとディオンは可愛らしい顔をしている。

 ニコニコと愛想よく笑っている様子がクリスティーナの心を溶かしたのかもしれない。

 意外なカップルを見つめているとベルベルト様が私に問いかけてきた。


「リシェ嬢はディオンみたいな若い子に興味はないのかい?」


「まさか。さっき若い子たちに私が“昔“婚約破棄をされたって言われから“私が婚約破棄をしたの“って言いましたよ」


 思わず私が言った言葉にベルベルト様は声を出して笑う。


「あの事件を昔って言われるとかなり時間が経ったんだなと思うね。もう15年も前か……」


 しみじみ言うベルベルト様に私は頷いた。

 私が婚約破棄をした事件からもう15年も経っているのだ。


「15年も経つと誰もあの事件を覚えている人なんていなかったのに……」


「俺は覚えているよ。かなり痛快な事件だったしリシェ嬢は素晴らしい女性だと再確認をしたね」


 素晴らしいと言う部分を強調されて私は馬鹿にされた気分になる。


「思い出したくもない出来事だわ」


 そんなことを言い合っていると気づけばアイリス様の部屋の前に来ていた。

 ドアをノックして部屋に入るが侍女が2人もいるはずなのに誰も出てこない。

 私は額に手を当てる。


「あれほどドアがノックされたら直ぐ出て来いって言っているのに……」

「新人教育も大変だね。特に今年はひどいね」


 ベルベルト様が理解してくれているのが唯一の救いだ。

 私はため息をついて頷いた。


 

 


 


 

 

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