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翌日、私は計画表を新人侍女たちに配った。
「これがアイリス姫の数日のスケジュールよ。それぞれ担当をするところに名前を書いているからその通りに動いてね」
丁寧に割り振り前でしたのに新人たちは不満そうだ。
「えーこれだと私たちがお茶する時間がありませんよ」
フェイナの不満に私はまた頭を抱えたくなる。
「遊びに来ているんじゃないのよ」
私が新人だった頃は隠れて休憩をして居たものだ。
それをわざわざ侍女長である私に不満を言うなんて最近の若い子はよくわからない。
隠れて休憩をするのよなんて言えるはずもなく私が注意をすると3人は不満そうだ。
「だって私たち結婚相手を探しに来ているんですよ。城で働いていれば出会いがあるって聞いたから親に用意されたお見合いは無理だからできれば騎士とか、官僚の方とかお相手お見つけたいんです。このスケジュールだと無理ですよ」
ララーの言葉に残りの二人が頷いている。
私はため息をついて頷いた。
「大丈夫よ。しっかり真面目に働けば騎士や城の人と会話をすることもあるわ。私以外の侍女はほとんどそれで結婚できているから安心してちょうだい」
少しでもこれで新人たちが安心してくれるのならと自分で言っていて寂しくなってくる。
新人達は信用していないようで特にフェイナとララーは疑いの目を向けてくる。
「本当ですか?それならどうしてリシェ侍女長はまだ結婚していないんですか?」
最近の若い子ははっきりと聞き過ぎだろう。
ムッとしながらも平静を装って私は笑みを浮かべる。
「私の意思で結婚していないのよ」
引き攣った顔をしている私をクリスティーナは面白そうに見つめて労わるような声を出す。
「私聞きましたよぉ、若い時に結婚をしようと思っていた相手に振られたんですよね」
バカにするように言われて私は笑みを深めた。
「振られたんじゃないの。振ったのよ」
婚約を破棄したのは今から15年ほど前だ。
その事件を知る人は15年も経てばほとんど居ないはずだがどうやら噂として流れているらしい。
クリスティーナが真実を知ったらどういう顔をするのだろうか。
それよりも15年という年月も経ったのかという事実とそれを若い時と言われたことがショックで顔が引きつる。
私の神経を逆撫でするようなクリスティーナの態度に流石の新人2人もやばいと思ったのか急に立ち上がった。
「私、アイリス姫のお部屋の掃除をしてきます」
「あっ、私はお茶をご用意します」
フェイナとララーはそれぞれ報告するとさっさと部屋を出ていった。
残ったクリスティーナは長い金髪の髪の毛を指で弄んでいる。
「クリスティーナ。侍女の服装の規則は知っているでしょう?髪の毛は結んで。それからサボるなら私の見えないところで解らないようにしてちょうだい」
私が注意をするとめんどくさそうにクリスティーナは肩をすくめて部屋を出ていった。
私は1人残された侍女室で額に手を当てる。
「新人を育てるのってこんなに大変だったかしら……」
年に数回新人が来ることがあるが、その辺の女性を雇っているわけではない。
選ばれた貴族のお嬢様がくることが多く、みんな素直でいい子達だった。
ここまで捻くれた対応をされたこともなければ私に対して結婚できなかった女などと言われたことはない。
陰で言われていたかもしれないが、聞こえるように言われたのは初めてだ。
あんな態度でそれこそお嫁に行けるのだろうか。
王家の侍女として働いていたということは礼儀作法は完璧だということになる。
そのために嫁入り先には困らないので王族の侍女をやりたいという女性は後を絶たないのだ。
今回選ばれたのがあの三人とは……。
「あー、頭が痛いわ」
新人2人にアイリス姫を任す事はまだできない。
重い気分のまま私は立ち上がった。
廊下を歩いていると前からベルベルト様が歩いてきて私に手を振ってくる。
「お疲れ様。昨日の夜見回りをしていたらまた姫様のハンカチが落ちていたんだけれど、何か思い当たることがある?」
「またですか?」
ベルベルト様は黒い手袋をした手のまま懐から白いハンカチを取り出して私に渡してきた。
不恰好なアイリスの花の刺繍がしてあり姫様のハンカチで間違いない。
確認をして私はベルベルト様を見上げた。
「昨日と同じハンカチですよ。姫様も探していたようでした」
「だろうね。それがなぜまた庭に落ちているんだ?それも夜中に、誰かが意図的に盗んで捨てたのかな?」
不思議そうなベルベルト様に私は肩をすくめる。
「そんなハンカチなくなった方がありがたいですけれどね。アイリス姫も大切になさっていてお嫁入りに持って行くそうですよ」
私が言うと、ベルベルト様は微笑む。
「そうか。リシェ嬢は嬉しいだろう?」
優しく言うが私は首を振った。
「全然嬉しくないですよ。それより、姫様の物が勝手に捨てられるのは問題ですね」
「そうだな。警備を強化しているが、犯人は不明。アイリス姫のご結婚が近いから少し気をつけてほしい」
ベルベルト様の言葉に私は頷く。
「アイリス姫のご結婚をよく思っていない国もありますしね」
アイリス姫の婚約者はアマンド王国の王子だ。
我が国がアマンド王国と手を結ぶと困る国が結婚を反対しているのは知っている。
また頭痛の種が増えたとこめかみを撫でている私にベルベルト様は爽やかに微笑んだ。
「ハンカチの件もあるから昨日から警備も強化している。何か異変を感じたらすぐに報告してくれ。あと、できれば新人侍女にはこのことは伝えないでほしい」
私は頷きつつため息をついた。
確かにハンカチを盗んだとしたらあの三人以外考えられない。
他に犯人がいるとしたら姫様の寝室に出入りできる事になる。
私は眉を顰めてベルベルト様を見つめた。
「アイリス姫の護衛騎士も怪しいですよね」
「まぁね。でも流石にタンスの引き出しを開けるコトはしないだろう」
「それもそうですね」
新人三人を疑う事になるとは思わず私はため息をついた。




