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「私が古いんですかね?どうも侍女として注意をするとすぐにいじめられたと言われます」
ため息がちにいう私にアイリス姫は微笑んだ。
「どうかしら。私も彼女たちと同じ歳だけれど、そうは思わないわよ。昔のリシェだったら私を放置して侍女長のところに行かないじゃない」
「確かにそうですね」
私が新人として入った頃の恐ろしい侍女長を思い出しながら頷いた。
恐ろしい侍女長もお仕えしている人を優先しろと言われてきた。
侍女長が怖いから姫様を放置してそっちに行きますなんて事は絶対にあってはならないし、許されないことだ。
姫様の朝のお支度を放置して私の悪口に花を咲かしている侍女たちを思い出して私は何度目かわからないため息をついた。
アイリス姫は鏡越しに私の制服のポケットからはみ出ているハンカチに気づいて微笑んだ。
「あら、そのハンカチ昨日から無くなったから探していたのよ」
アイリス姫は私のポケットからハンカチと取る。
皺が寄っているハンカチは薄いピンク色で端っこに青い花の刺繍がしてある。
「こんなハンカチ探さなくても新しいものをいくらも差し上げますよ」
眉を顰める私にアイリス姫は首を振った。
「他にも欲しいけれど、これは特別よ。リシェからもらった大切なものですもの」
姫様の手にあるハンカチの一部にされている青い刺繍はアイリスの花をイメージしたものだ。
姫様にせがまれて刺繍をしたがあまりに不恰好なのでいい加減捨てて欲しい。
「そのハンカチ庭に落ちていたそうです。ベルベルト隊長が見つけてわざわざ届けてくれました」
私がいうとアイリス姫は嬉しそうに微笑んだ。
「よかったわゴミと間違われなくて。昨日までは確かにあったのよ、とうとうリシェに捨てられたかと思ったわ」
あまりの言われように私はムッとする。
確かに時が立っており古臭いハンカチは一見するとただの布だ。
それに加えて不恰好な刺繍がしてあるので誰かが捨てたと思っても不思議ではない。
「確かに処分するよう姫様に言っていますが、私が勝手に捨てるわけありませんよ」
「そうよね。でも、どうして庭に落ちていたのかしら……」
不思議そうにしているアイリス姫に私も頷く。
「そうですね。ベルベルト隊長も不思議そうでした」
アイリス姫の支度を終えて疲弊しながら歩いていると、女官長に声をかけられた。
「リシェ侍女長。聞きましたよ」
バーバラ女官長は私が侍女として働き始めた頃のアイリス姫の侍女長をしていた方だ。
現在は、王妃の侍女長をしているが家庭があるためにたまにしか仕事に出ていない。
私はまた怒られるのかとうんざりしながら背筋を伸ばした。
「お疲れ様です、バーバラ様。聞いたって何をですか?」
丁寧に挨拶をする私にバーバラ様はすっかりシワになった顔を顰めた。
白髪混じりのバーバラ様を見つめて、私と初めて会った時は金髪の綺麗な髪の毛だったのにと時の流れを感じて切なくなってくる。
「新人教育ができていないようですね。好き勝手にやらせて、あなたは舐められているんですよ!」
耳が痛い言葉に私は頷く。
「最もです。私が注意をするといじめだと言われてもうお手上げです」
「しっかりしなさい。あなたは王家に使える侍女なんですよ。新人教育もできないようでこの先どうするんですか」
久々の前侍女長からのお叱りに私は項垂れながら頭を下げる。
「申し訳ございません」
「まったく、結婚していないからとか影で言われているそうじゃありませんか。そんなことも言われないぐらいしっかりと教育をしなさい!」
「はい。おっしゃる通りです」
すっかり項垂れている私を見て前侍女長はため息をついた。
「他の人に少しだけ侍女長を務めてもらうことを考えたのですが、リシェほど長く務めている人がいないのよ」
「でしょうね」
20歳から15年、休まず侍女をしているのは私ぐらいだろう。
言いたいことを言えてスッキリしたのかバーバラ様は頷いた。
「しばらく様子をみます。教育ができていないようなら新人の入れ替えを考えましょう」
「はい」
本来ならすぐにでも入れ替えて欲しいが、まだ彼女たちは入ってきて半年も経っていない。
私が何を言ってもいじめられたの一点張りなのでバーバラ様も様子見なのだろう。
バーバラ様は煩いがあの時しっかりと教育されたことで今があるのだ。
私は心を入れ替えて侍女控え室へと向かった。
「あっ、やばい帰ってきた」
私が帰ってきた気配を察知したのか、部屋の中で新人の侍女の声がした。
私はため息をついてドアを開けると部屋の中はお菓子の匂いで充満している。
「お菓子を食べるのはいいけれど、仕事はちゃんとしてちょうだい」
「やってます。ティーポットを磨き終わりました」
ピカピカに磨き上げたティーポットを見せてくるのは新人侍女3人組の一人フェイナだ。
決まりに従ってフェイナは髪の毛を1つにまとめていおり礼儀正しい子だ。
どうもクリスティーナに吹き込まれて悪いことを一緒にしているようだ。
「あれだけ時間があってティーポットを1つだけ磨いたの?」
「だって言われてないですもん」
唇を尖らせるフェイナに私は大きなため息をつく。
私のため息にクリスティーナが意地悪な笑みを浮かべた。
「またいじめですかぁ?私たち言われないとわからないんですよ。昔と違って察しろとか言われても困ります」
間延びするような人を揶揄う言い方をするクリスティーナにイライラしながら私は平常心を装う。
「なるほど。それなら私はいちいち指示をしないとダメってことなのね」
「そうですよ。私たち、何もわかりませんし。先輩の侍女はリシェさん以外みんな妊娠して居なくなりましたし教えてくれる人いないんですよ」
わざと揶揄う様な言い方をするのは仲良し3人組の新人侍女の一人ララーだ。
ララーも規則に従って身なりはきちんとしているが、クリスティーナに引っ張られて私にいじめられたと訴える一人なのだ。
この3人が集まると私のため息が多くなる。
「それなら言わせてもらうけれど、アイリス様のお世話は第一です。何があっても放り投げてはいけません。あと部屋にお一人にすることは本来ならあってはならないことなの」
「今一人じゃないんですか?アイリス姫の侍女って私たちだけですよね」
ララーの至極真っ当が疑問に私は頷く。
「そうね。今、アイリス姫は授業中だから教師と一緒です。この後昼前に一度休憩があるからお茶を出しにいくの。それは理解している?」
私が確認すると新人3人組は首を傾げる。
「アイリス姫の行動は常に頭に入れておいてね。毎朝一緒に確認をしているでしょう?今度から時間ごとに担当する仕事を割り振ります」
いじめだと言われないよう丁寧に言う私に3人は渋々頷いた。




