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「またお局のリシェ侍女長がうるさく言ってきたの?だから結婚できないのよね」
「絶対そうよ、さっきなんてティーポットの水滴の跡を拭き取れって言われたわよ。私達が若くて可愛いから虐めているんだわ」
隠す気のない私の悪口が聞こえため息をついた。
最近の若い子は……と言う立場になると思わなかったが姫様に出す食器は全て管理して綺麗に管理をするそれが私たち侍女の仕事だ。
私はテーブルの上に置かれた水滴の跡がついているティーポットを手に取って無心に磨き始めた。
少し離れた侍女部屋からまだ私の悪口が聞こえてくる。
「あの人、今年で35歳でしょ?あれ36歳だっけ?すっかり行き遅れじゃない?お嫁に行かれないから私たちをいじめて楽しんでいるのよ」
「あー違いないわ。だからこんな細かい所までいちいち文句を言うのね。さっきなんてアイリス姫のベッドのシーツを取っ替えたのに皺が寄っているって何回もやり直させられたの」
「いゃねぇーだから“お局“って言われるのよ」
私に対する当てつけのように文句を言いながら食器を磨いている音が聞こえてくる。
アイリス姫に仕えている侍女としてのベッドのシーツの皺を指摘するのは当たり前だろう。
それ以前にファルセ王国の城で働きそしてその姫様に仕えているのだ。
プライドを持って仕事をして欲しい。
私が何度目かのため息をついていると、私の仕事部屋に新人のクリスティーナが入ってきた。
金髪の可愛いクリスティーナは真っ赤な口紅で私に微笑みかけてくる。
「リシェ侍女長、昨日からアイリス姫のお気に入りのハンカチが見当たらないんですがご存知ですか?」
「知らないわ。よく探したの?」
私が聞くとクリスティーナは私を馬鹿にした目で見てくる。
「探しましたよ。侍女長なら知っているんじゃないかなと思いまして」
「どうして?」
「私たちをいじめるために隠したんじゃないですかぁ?」
陰で言うだけでなく直接言われて私は言葉に詰まった。
「いじめ?なぜ?」
最近の若い子はよくわからないと思いながら私が聞くとクリスティーナは高飛車に微笑んだ。
「だって私達が若くて可愛いからですよ。リシェ侍女長は私達が羨ましいですよね。いじめたいぐらいに」
最後は囁くように言われて私は顔を顰める。
クリスティーナの悪役みたいな言い方も最近の若い子に流行っているのだろうか。
寄ってたかって私が悪いと言われて、私の方がいじめられているではないか。
「私は、アイリス姫様にお使いする侍女として最低限のことを言っているだけよ。それをいじめと言われたら困るわ」
「最低限ですかぁ?もし、これが基本だったら昔の教え方がやばいですよ。“おばさん“が教わったのは古いんですよぉ」
私の教えを昔や古いと言われてまたため息が出る。
これはもう私がおかしいのか、この子達がおかしいのか理解ができない。
頭痛になりそうになっていると開いたままのドアから声がかけられた。
「失礼、今いいかな?」
顔を出したのは王族の護衛騎士隊長ベルベルト様だ。
爽やかな美形の彼は私より年上の38歳独身。
憧れの護衛騎士という職業に加えて、美形なので女性からの人気も高い。
ベルベルト様は爽やかな笑みを浮かべて私の元までくると姫様のお気に入りのハンカチを渡してきた。
「先ほど見回りをしていたら庭に落ちていたんだ。アイリス姫のものだろう」
「そうです。姫様のお気に入りですから助かりました」
私がお礼を言うとベルベルト様は微笑んだ。
「まぁ、ベルベルト様!お疲れ様ですぅ。ハンカチ探してくれてありがとうございます。探していたんですよぉ」
クリスティーナは甘えるような声色でベルベルト様を見上げた。
媚びるような態度に私はため息をつきそうになるのを堪えた。
私のことはおばさん呼びをするくせに、私より年上のベルベルト様はおじさんだろう。
おじさんの年齢のベルベルト様には嫌味を言わないのだ。
ベルベルト様は軽くクリスティーナをあしらうと、私に笑みを見せる。
「アイリス姫がお呼びだったよ」
「ありがとうございます。すぐに伺いますね」
侍女室を出る私にクリスティーナはついて来ない。
アイリス姫の元に行くと仕事が増えるからだろう。
姫様のお部屋に向かう廊下をベルベルト様も一緒に歩く。
「今度の新人には苦労しているようだね」
ベルベルト様に言われて私はため息をつきながら頷いた。
「私もこんなこと言いたくないんですが、最近の若い子はって感じですよ。私のことをおばさん呼ばわりするのはいいとして、指導をいじめと言われたら困ります」
私の愚痴にベルベルト様は頷く。
「わかるよ。俺のところに入ってきた新人騎士も遊んでばかりだ。先ほどのクリスティーナという女性とよく話しているのを見るね」
「みんな私みたいに行き遅れにならないため必死なんですよ。私みたいになりたくないって陰で言っているのをよく聞きます」
自虐的に言う私にベルベルト様は肩をすくめた。
「それは俺も耳が痛いね。38歳になるのに結婚をしていないからね」
なんの変哲もない私と比べてベルベルト様は美しい容姿に騎士という職業なのに人当たりがいい、女性と縁がないなんて事はないだろう。
私と違ってベルベルト様は人気が高い。
言い寄ってくる女性が多くて選べなかった口かもしれない。
もしかしたら裏で人妻といけない関係になっているのかもしれない。
私はと言えば、今更誰かと結婚したいとは思わないが、裏で結婚していないから性格が悪いとかいじめられると言われるのは勘弁して欲しいものだ。
ベルベルト様は話を変えるように私に微笑みかけた。
「ところで、そのハンカチなんだけれど昨晩は落ちてないかったんだよね。発見したのは俺が勤務する前の時間でちょうど通りかかったら落ちていたんだ」
「はぁ……」
私もなぜハンカチが庭に落ちていたのかは不思議だがベルベルト様も謎に思っているのだろう。
含みのある言い方をしてくる。
「ハンカチはいつからなくなったの?」
「さぁ、報告では昨日と言っていました。クリスティーナが探していたようですが……」
私が言うと、ベルベルト様は軽く眉を顰める。
「なるほど。まぁ、不思議なことがあるもんだね」
そういうとベルベルト様は手を振って護衛騎士の詰め所へと戻っていってしまう。
なんだったのだろうかと首を傾げながらアイリス姫の元へと向かった。
「失礼します。お呼びとお伺いしましたが」
アイリス姫の部屋へと向かうと彼女は一人で化粧台の前へと座っていた。
まだ朝の準備は終わっていない様子のアイリス姫は困ったように私を振り返った。
私は驚いて早歩きでアイリス姫の元へと向かう。
「姫様、お一人ですか?侍女は?」
朝のお支度の時間に姫様を一人にさせることなどあってはならないことだ。
まだ準備途中のアイリス姫様は上品に笑った。
「そうなのよ。お局のリシェが怒っているから行かないとって言われて放置されたわ」
「信じられない。私は侍女みんなを呼んでいません、ただティーポットについた水垢を注意しただけですよ」
頭を抱えている私にアイリス姫は頷く。
まっすぐな黒い髪の毛に、大きな黒い瞳が美しいアイリス姫。
微笑みながら私にブラシを渡してきた。
「わかっているわよ。私が小さい時から一緒にいてくれるリシェだもの。いじめてなんかいないわよね、注意していただけよね」
注意をわざとらしく力を込めていうあたり新人の侍女たちがアイリス姫に何を話していたかが理解できる。
どうせ、注意って言いながらいじめられていると大袈裟に訴えているに違いない。
私はアイリス姫の黒くて長い髪の毛をブラシで梳かし始めた。




