16
調印式が行われる大広間には招待されている貴族や重鎮が集まっていた。
アイリス姫と共に控え室へと向かうとすでにアレン王子御一行の姿があった。
アレン王子の姿を見ると緊張していたアイリス姫の表情が綻んだ。
「お久しぶりです」
ドレス姿のアイリス姫を見つめてアレン王子も微笑む。
「お久しぶり。今日は一段と綺麗だね。その宝石もとてもよく似合っているよ」
宝石という言葉に私と新人次女達の間に緊張が走る。
何かを言いそうになるフェイナとララーを睨みつけると彼女達は頷いている。
このまま何もおこらなければいいと思いつつふと窓の外を見ると黒い影が見えた。
目を凝らす私にベルベルト様も気づいて私の肩を叩く。
ベルベルト様は無言で後ろを振り返ると部下の護衛騎士に視線で指示をする。
若い護衛騎士は頷くと音を立てずに部屋を出ていった。
そういえば疑惑の大臣は来ているのだろうかと疑問に思い私はベルベルト様に囁いた。
「あの大臣は来ていますか?」
「来ているはずだ」
そういいつつベルベルト様は眉を顰めている。
私は頷いた。
「ちょっと確認してきます」
そう言って部屋を出ようとした途端窓ガラスが割れる音がした。
「侵入者だ!」
ベルベルト様の大きな声が部屋に響き私はアイリス姫の前へと飛び出す。
アイリス姫を背で庇いながらフェイナとララーに指示を出す。
「早くこっちにきなさい!」
窓ガラスから覆面の黒ずくめの男性達が入ってくるのが見える。
アイリス姫を壁際に押しやっているとフェイナとララーが震えながら走ってきた。
「いい、命懸けで姫様と王子を守るのよ」
私の言葉にフェイナとララーは涙目になりながら頷くと姫様に抱きついた。
彼女達なりの守り方なのだろう。
いつの間にかドアが蹴破られており大広間がチラリと見えた。
大広間でも貴族や城の兵士たちが敵と揉み合っているのが見える。
「どうなっているの。侵入してきたのはどこの誰なの?」
呟く私にアレン王子が教えてくれる。
「僕の国の武器商人とこちらの大臣が通じているという噂があったがその2人かもしれない」
「なぜですか?」
「武器商人の娘と僕を結婚させたかったようだ」
アレン王子は自らも剣を抜いて一応備えているがベルベルト様達の邪魔にならないようにと私たちの前へと立ってくれる。
私は呆れて首を振った。
「たったそれだけでこんな大騒ぎしますかね。どちらもお子さんを王家に嫁がせたいからって……」
「それが叶わないとこうして腹いせをしてくるんだろうね」
「信じられません」
私たちが話している間も目の前では戦闘が続いている。
侵入者の剣を受け止めながらも次々とベルベルト様は拘束をしてく。
その間にも蹴破られたドアから黒ずくめの敵が入ってくる。
敵が振り上げた剣をベルベルト様は受け止めた。
ベルベルト様の後ろを守ってきた騎士が悲鳴をあげ崩れる。
その隙に新たな敵がベルベルト様を後ろから剣で切り付けようとする。
「ベルベルト様!後ろ!」
私の声にベルベルト様は後ろを振り返るがすでに遅く肩を切りつけられた。
「ぐっ」
低い声を出すロベルト様の肩から血が流れポタポタと床に落ちる。
右腕を負傷しなお剣を振ろうとするベルベルト様に護衛騎士が加勢をする。
「ヒィぃ、リシェ侍女長!」
ララーとフェイナの悲鳴でベルベルト様に気を取られていた私は前を向くと剣を振り翳している敵が居た。
私の後ろに居るアイリス姫を切ろうとしているようだ。
アイリス姫を標的にしている敵は私のことは見ていない。
私は振り向きざまに、剣を振り上げている敵の腹に蹴りを入れた。
私の渾身の蹴りを受けて敵が仰向けに倒れた。
「さ、さすが侍女長です」
ララーとフェイナは姫様にしがみつきながら命拾いをしたとばかりに私を褒めてくれた。
ベルベルト様が負傷したことによって敵の勢力が強くなる。
一気に逆転して護衛騎士達が押され気味になっている。
アイリス姫とアレン王子を守っていた騎士達が手薄になりこちらに向かってくる。
敵が目の前まで迫り姫様に剣を振り下ろそうとしている。
姫様を守らないと。
アレン王子とアイリス姫の前へと出で身を挺してでも守ろうと私は両手を広げた。
それを察したベルベルト様がうめきながらも落ちていた剣を手に取って私に視線を向ける。
「リシェ!」
強く名前を呼ばれて剣を投げられる。
投げられた剣を受け取り切りかかってきた騎士の剣を受け止める。
ギィンという金属音が部屋に響いた。
女である私が剣を扱うことに驚いたのか切り掛かってきた敵が一瞬怯んだ。
そのすきに敵の男の肩を切りつける。
悲鳴をあげて倒れた敵の剣を遠くへ蹴り飛ばして私は剣を構えた。
「フェイナ、ララー姫様を守るわよ」
「は、はぁい」
敵に震えながらもフェイナとララーはアイリス姫を左右から抱きしめて返事をする。
「うぉい!無事か!」
壊れたドアを蹴り飛ばしながらバルダー騎士団長が大量の騎士を連れて入ってきた。
バルダー騎士団長は剣を構えている私を見てニヤリと笑う。
「結構危ない状況だったってことだな!」
部屋の中には数人の敵と肩から血を流しているベルベルト様を見て騎士団長は状況を把握すると動き出す。
騎士団長は敵を蹴り倒してすぐに場は制圧された。
「アイリス姫様、アレン王子ご無事ですか」
私が真っ先に確認をすると、アイリス姫は微笑んでくれる。
「えぇ、大丈夫。ありがとう。リシェ、それにフェイナとララーも」
そう言って抱きついて身を守っていた2人の新人侍女の背中を撫でた。
フェイナとララーは無事に生き延びた安心感からか震えながらも涙を流す。
「こ、怖かったです」
「生きててよかったですぅ」
大泣きをしている二人をあやしながらアイリス姫は私を見上げる。
「リシェが大活躍したわね」
「アイリス姫、ご無事で」
ベルベルト様はアイリス姫の元部屋とやってくると片膝をついて私たちの無事を確認をする。
彼の右肩からは血が流れてポタポタと床に落ちいてく。
「ベルベルト、早く傷を医者に診てもらった方がいいわ」
心配するアイリス姫にベルベルト様は首を振った。
「いえ、大した傷ではありません。お側を離れるわけにはいきません」
そういいつつもベルベルト様の顔色は良くない。
バルダー騎士団長はヅカヅカと歩いてくるとベルベルト様の怪我をしている肩を掴んだ。
眉を顰めてベルベルト様はバルダー騎士団長を見上げる。
「何をするんですか」
「結構な怪我じゃねぇか。さっさと医者に診てもらえ。俺がここにいるから」
騎士団長に命令をされてベルベルト様は仕方なく頷いた。




