17
「大変でしたね」
あれから数日が過ぎた。
隣を歩くベルベルト様を見上げる。
彼の言う通り血の量の割には怪我は大したことがなく今までと変わりなく任務についている。
お互い珍しく早上がりなのでベルベルト様に城の庭を散策しないかと誘われたのだ。
「主犯格は捕まりそうですか」
私が聞くとベルベルト様はため息をついた。
「捕まるといいたいところだが、大臣は証拠を残していないようだ。時間がかかるだろうが、追い詰めて捜査をしていく予定だ」
「大臣は結局降ろされましたけれど、自分はやっていない濡れ衣だって大騒ぎしたそうですね」
大臣が裏で手を引いているのはわかっているのに証拠がない。
大騒ぎをしながら表舞台から姿を消したらしいが、まだ野心は消えていないだろう。
「アレン王子の国でも捜査をしているので時間の問題だろう」
「早く捕まるといいですね。もうすぐアイリス姫がご結婚されますし」
少しでもアイリス姫が彼方の国へ行っても心配がないようにして欲しいものだ。
あの事件のせいでアイリス姫のお嫁入が少しだけ伸びてしまった。
そのおかげと言ってのか、まだ私は姫様と一緒に過ごすことが出来ている。
ベルベルト様は私を見下ろした。
「そろそろ返事を聞かせてもらってもいいだろうか。いつまでも待つと言ったが、俺もいつ死ぬかわからないと気づいてしまった。できればリシェと夫婦になってから死にたいと思うのだが」
ベルベルト様は私の目を見つめる。
心は決まっているが、私の心は不安でいっぱいだ。
「アイリス姫様が襲われた時思わず私は剣を握ってしまいました」
以前、元婚約者をぶん殴った時の記憶が蘇る。
“凶暴な女だな!お前みたいなやつと結婚したい男なんているはずがない“
そう言い切った元婚約者のいう通り、強い女性を好んでいる男性はいないと気づいたのだ。
下を向いている私の手をベルベルト様がそっと握ってくる。
「とても勇敢で素晴らしいと思った。剣を投げたのは俺だが、リシェなら姫を守ってくれると思ったのだ」
「確かに、アイリス姫は命をかけてお守りする人ですから……」
私の言葉にベルベルト様は微笑んだ。
「剣を持って戦える女性などそうそういない」
私は軽く眉を上げる。
「女性騎士だっていますよ」
思わず言った言葉にベルベルト様は苦笑した。
「確かにいるな。しかし、俺が愛しているのは剣も持てて戦えて姫を一番に守るリシェなんだ。もう15年も変わらず愛している。どうか俺と共に残りの人生を歩んでくれないか」
私の手をとって懇願するベルベルト様。
風が吹いて葉が揺れた。
さわさわと葉が擦れる音と鳥の囀りが聞こえる。
大きく息を吸い込んで緊張しながら私はぎこちなく頷いた。
「はい。そこまで望んでくれるなんて嬉しいです。私も、いつの間にかベルベルト様が大切な存在になっていました」
ベルベルト様の手を包むように片方の手を乗せた。
ベルベルト様は目を見開いて驚いた後に、ゆっくりと微笑んだ。
「本当に?俺と結婚してくれるのか」
「はい。こんな私でもいいんですか?35歳で新人にはお局って呼ばれているんですけれど」
ぎこちなく微笑む私をベルベルト様は嬉しいのか思いっきり抱きしめてくる。
力一杯抱きしめられて驚きながらもベルベルト様の背中に両手を回した。
「リシェでないとダメなんだ。ありがとう」
小さく言われて私は頷いた。
「私こそ嬉しいです。こんな私と結婚してくれるなんてありがとうございます」
ベルベルト様の存在を確かめていると、茂みがガサガサと音がなりアイリス姫が顔を出した。
「アイリス姫様、何をなさっているんですか」
驚く私にアイリス姫は微笑んで手を叩いている。
「おめでとう。リシェが幸せになって私も心置きなくお嫁に行かれるわ」
「おめでとうございます。私たちも嬉しいですし、希望が持てます!」
アイリス姫の後ろからフェイナとララーも顔を出した。
「アイリス姫は今お勉強の時間でしょう」
呆れている私にアイリス姫と二人の新人侍女たちは顔を合わせる。
「二人で歩いているのが見えたから気になって」
「信じられません、早く勉強に戻ってください」
私がいうと、アイリス姫は微笑んだ。
「大丈夫よ理由を言ったら今日は授業終了になったから」
「ちっとも大丈夫じゃないわ」
ため息をついている私だがベルベルト様は上機嫌だ。
「まぁ、仕方ない。今日はいい日だから。こうしてみんなに祝ってもらうと嬉しさも格別だな」
噛み締めるように言うベルベルト様が幸せそうで、そんな彼を見ていると私も幸せな気分になってくる。
私はベルベルト様を見上げて微笑んだ。
「そうですね。私も嬉しいです」
相変わらずお局と呼んでくる新人達だが、なんだかんだと今では可愛い存在だ。
心から喜んでくれている彼女たちにも私は微笑んだ。




