14
アイリス姫のお部屋に戻ると侍女控え室から手が伸びてきてフェイナとララーに連れ込まれた。
2人は涙を流しそうなほど戸惑いながら震えている。
「た、大変なんですよ。クリスティーナが消えました」
「ほ、宝石が無いんです。気づいたら無いんです」
パニックになっているのか2人は言葉に詰まりなが訴えてくる。
私は頷いて落ち着くように2人の背を叩いた。
「大丈夫。今ベルベルト様が取り返しているはずよ」
クリスティーナが持っていた宝石はアレン王子の贈り物だ。
明日はその大きな宝石のネックレスをつけて調印式に出る予定だった。
もし紛失したとなれば私たちの首が飛ぶだけではなく、アイリス姫の結婚問題にまで発展する。
「このことはアイリス姫には伝えないように」
注意をする私に、二人は何度も頷いた。
すぐに扉がノックされて音もなく入ってきたのはベルベルト様と騎士一名。
ベルベルト様は私たちの様子を確認しながらハンカチに包まれたものを私に差し出した。
「ディオンから取り返してきた」
ベルベルト様から受け取ったハンカチをゆっくりと開くと確かにアレン王子から送られた宝石だ。
大きなサファイアがキラキラと輝いている。
傷がないことを確認してホッとする。
「ありがとうございます。しかし、なぜ?売ろうと思ったのかしら」
不意に私が呟くとベルベルト様は首を振った。
「違うだろう。間違いなく明日の調印式の妨害だ」
「……クリスティーナとディオンがそれを狙っていたということ?」
確かに仕事を真面目にしていた様子がないが、クリスティーナが進んでやっていたとは思えない。
ベルベルト様は腕を組んで私たちを見つめる。
「聞いた話では、クリスティーナはディオンと結婚できると喜んでいたそうだ。こんな犯罪をして結婚なんてできるはずがないだろう」
「確かにそうね。誰かから指示されたってこと?」
「そう考えるのがいいだろうね。ディオンに唆されて宝石を盗んだというところだろう、今事情を聞いている」
ベルベルト様はフェイナとララーを鋭い瞳で見つめる。
「悪いが、二人にも事情を聞くことになる」
フェイナとララーが頷く。
私はベルベルト様を見上げた。
「調印式は予定通り行いますか?」
「今のところは行う予定だ。ディオンの後ろの誰がいるか明日までに分かればいいか……」
誰が後ろについているのかわかっているだろう。
含みを持たせた言い方に私は頷いた。
「危険があるのであれば、アイリス姫にもお伝えします」
ベルベルト様は少し考えた後頷いた。
フェイナとララーが護衛騎士に事情を聞かれている間、私はアイリス姫の元へと向かう。
明日の調印式を終えたらすぐにアレン王子の国へ立ち、結婚式を上げる予定だ。
少し前までは5歳から支えていたアイリス姫とのお別れが辛いと思っていたが今は状況が違う。
お茶を飲んでいたアイリス姫は私の顔を見てかすかに微笑んだ。
「何かあったのね」
「分かりますか……」
長年使えているだけあってアイリス姫は私の異変に敏感だ。
「何があったのかしら」
「……クリスティーナがアレン王子から送られた宝石を盗もうとしていました。新人騎士ディオンに命令されたようです」
正直に言うとアイリス姫は綺麗な指先を口元に当ててしばらく考えている。
「大臣が怪しいわ。確か新人騎士のディオンは大臣のゴリ押しで採用したそうね」
さすがアイリス姫だ。
ただ美しいだけでなく、身の回りの人物を把握されている。
「ベルベルト様もディオンには疑問を思ってましたね。新人騎士が王族の護衛騎士になるなんておかしいって」
「ただ、ディオンが証言しなければ大臣を拘束できないわね」
ため息をつくアイリス姫に私も頷く。
ディオンが正直に白状するとは思えない。
彼の背後を洗い出すには時間がかかるだろう。
田舎の男爵家の出身というのも怪しいものだ。
「しかしなぜ大臣が?我が国を滅ぼしたいんですかね」
アレン王子とアイリス姫とのご結婚はお互いの恋愛というよりは国同士の協定のようなものだ。
お二人は奇跡的に気があい、ほのかな恋愛をしているが大臣が二人の結婚に何の異議があるのだろうか。
首を傾げる私にアイリス姫はクスリと笑った。
「リシェも知らない暗い内輪の話なのだけれどね。大臣の息子と私を結婚させたかったようよ」
それを聞いて私は納得する。
大人とは直接話したことはないが、確かに野心が高いおじさんのイメージだ。
「それの恨みですか?いや、そんな個人的なことで?」
首を傾げる私にアイリス姫は小首を傾げた。
「他にもあるでしょうね。それはベルベルト達が解明するでょうけれど、明日には無理ね」
動機が何かわからないのなら防ぎようがない。
私はため息をついた。
「とにかく明日は気をつけてくださいね。私も常におそばにおりますので」
「リシェがいれば大丈夫よ」
美しく微笑むアイリス姫に期待がすぎると首を振る。
「私を評価しすぎですよ」
「正直に言っているのよ」




