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「はぁ」


 ベルベルト様とどうなりたいのか答えが出ないまま数日が過ぎた。


 あっという間にベルベルト様が私に結婚を申し込んだという話は城中に伝わり今や時の人だ。

 毎日ため息をつきながら仕事をこなす。

 とうとう明日はアイリス姫の結婚の調印式とその後婚約披露のパーティが予定されている。

 やることが多く自分のことなど考えることができないまま仕事に追われている。

 ベルベルト様とすれ違うことはあっても話すことはほとんどなく数日昼を一緒に食べたぐらいだ。


「リシェ侍女長、アイリス姫のドレスや宝石の準備は大丈夫ですか?」


 城の廊下を歩いていると女官長に声をかけられた。

 彼女も忙しいようで目の下にクマができている。


「はい。問題ありません」


 何度も確認をされて毎回私は同じ答えをするが、それほど女官長も心配なのだろう。

 女官長は私をじっと見つめてそっと息を吐いた。


「あなたもプライベートで大変でしょうが、アイリス姫をお嫁に出すまでは頑張りなさいね」


 ベルベルト様と私のことを言っているのだろう。

 私が頷くと、女官長は軽く微笑む。


「結婚だけが女性の幸せとは限りませんが、この人となら一緒に過ごしてもいいと思えるのなら私はリシェ侍女長の背中を押しますよ」


「……ありがとうございます。実は、まだ迷っておりまして」


 自分のことなど今まで話したことは無かったが弱々しい声を出すと女官庁は頷く。


「それはそうでしょう。とにかく、一番はアイリス姫のご結婚です」


「そうですね。あと数日頑張ります」


 私は軽く頭を下げて女官長を背に歩き出す。

 アイリス姫のご結婚の調印式の準備を朝からしていたが、気づけば日も暮れている。

 窓の外は暗く警備をしている騎士が歩いているのが見えた。

 明日はアレン王子一行も城にくる予定だから警備は厳重だ。

 ベルベルト様も忙しそうだ。


 数日会話という会話をしていないベルベルト様の姿をそれとなく探している自分に気づく。

 廊下の窓から庭を見ていると薄暗い木の間で話しているカップルが見えた。

 薄暗くてもクリスティーナだとわかり、私は足を止めて窓に張り付く。


「またサボっているわ」


 明日は本番だというのに、クリスティーナにはアイリス姫の明日の準備を確認しろと言ってたはずなのに。

 目を凝らしてクリスティーナとディオンの2人を見つめていると後ろから肩を叩かれた。


 驚いて振り返るとベルベルト様が立っていた。


「お疲れ様です」


 驚きながらも久々に話すベルベルト様になんて言っていいか分からず無難に挨拶をする。

 ベルベルト様は微笑みながら頷くと庭にいる2人を指差した。


「またサボっているね」

 

「困りますね、忙しいのに」


 ため息をつく私の顔をベルベルト様は後ろから覗き込んでくる。

 フェイナやララーからしたら年上のおじさんという部類かもしれないが、若い時よりも渋みを増して色気が感じられる。

 今までにないぐらいの顔の近さに後退りをしようとするがベルベルト様が後ろにいるために一歩も下がれない。

 寒い廊下でベルベルト様の体温を感じる距離感に私の顔が赤くなる。

 意識している私を見つめて、彼は笑みを深くした。


「これは、期待をしてもいいのかな?」


「ど、どういうことですか」


「俺を異性として見てくれていると……」


 ベルベルト様は私の耳元で囁くと筋肉質な腕で抱きしめられた。

 一瞬の出来事で硬直する私の耳元で再度囁く。


「正式に結婚を申し込んだんだ。俺がこうして君を抱きしめても問題はないだろう」


「いや、でも今は仕事中ですし……」


 嫌ではない。

 仕事中にこんなことをしていたらクリスティーナと同じだ。


「ずっとリシェを抱きしめたかった。愛している」


 彼の言葉に私の心が揺れた。

 なんて答えていいか分からずアワアワと口を開いたり閉じたりする私にベルベルト様は微笑んだ。


「返事は気長に待つ。ただ、その間は俺の愛を伝えるつもりだ。もう遠慮しない」


 ドキドキと胸が高鳴ってどうにかなってしまうのかと思っているとベルベルト様は笑みを引っ込めた。

 鋭い瞳で下を見つめている。

 先ほどまでの甘いやりとりとの違いに驚きながらも私も下を見た。

 相変わらず、クリスティーナとディオンが話している。

 クリスティーナはディオンの胸に体を預けるとポケットから何かを取り出した。

 暗闇の中でも僅かな光でクリスティーナーの手にしていたものが輝く。

 大きな輝きをするものを見て私は叫びそうになりベルベルト様の大きな手のひらに口を塞がれた。


「気づかれる。……あれはアイリス姫の宝石かな?」


 ベルベルト様に耳元で囁かれて背筋がゾクゾクする中で私は頷く。

 クリスティーナが持っている宝石は最多アイリス姫が身に着ける宝石だ。

 それも王子から送られた大切なものだ。

 大きな声は出さないとジェスチャーで伝えると口元を塞がれていた手を離してくれた。


「クリスティーナに言って磨くようにと伝えたのに……」


 不思議そうにしている私に、ベルベルト様は頷いている。


「なるほど。リシェ嬢は普段通り仕事に戻ってくれ。俺は2人を確保する。残念だがクリスティーナは仕事に戻れないだろう」


 早口に言うとベルベルト様は走って去っていった。


 

 

 

 

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