12
城の中にある食堂で私とベルベルト様は向かい合わせで座っている。
普段からアイリス姫の護衛騎士と侍女長という組み合わせのために私たちを変な目で見る人は誰一人いないものの意識をしてしまう。
ベルベルト様の顔を見ると心臓がドキドキして治らず微妙に顔を逸らす。
「リシェ嬢に異性として見られていると言うことは期待をしていいのかな」
ベルベルト様の言葉に私は顔が赤くなる。
何年もともにいて今更意識してと思うが、ベルベルト様を異性として見るとこれほどの素晴らしい男性がいただろうかと思わずにいられないのだ。
「何度も言いますけれど、私なんかより素晴らしい女性はたくさんいますよ」
何も35歳の私と結婚しようなどと言い出さなくていいだろう。
私が言うと、ベルベルト様は微笑んだ。
「君ほどの素晴らしい女性はいないと思うよ。あくまで俺基準で申し訳ないけれど」
そう言いつつじっと私を見つめてくる。
ベルベルト様の青い瞳は全く嘘をついている様子ではなく、熱のこもった瞳で見つめられるとドキドキする。
「……明日にでも噂が広がりますよ。ベルベルト様が私なんかに結婚を申し込んだって」
フェイナとララーが噂をばら撒くに違いない。
私が言うとベルベルト様はニヤリと笑った。
「あの場でわざと言ったからね。明日と言わず2時間後には広がっているよ。そうなれば俺とリシェ嬢が一緒にいても誰も疑問に思わないだろうね」
「なんでそんなことを?」
「それは君に逃げられないようにするため……と、俺の愛がどれほど深いかを知ってもらうため……かな」
愛という言葉に私は食べていたものを吹き出しそうになる。
「い、今、なんて言いました?」
「愛と言った。俺の愛をわかってもらうにはこうして時間をかけて話し合う必要があると感じたんだが違うかな?」
「いや、なんていうか、ベルベルト様は私なんかを選ばなくても素晴らしい女性を選べるのに何も自ら未来を捨てなくてもいのにとは思いますよ」
自虐的にいう私にベルベルト様は軽く頷く。
「未来を捨てるというのは君と結婚できないことだよ」
そこまで言われて私は口をつぐんでしまう。
ベルベルト様はあくまで真剣に私との未来を考えてくれている。
ここで聞くような話ではないが、私は小声でベルベルト様に聞いた。
「ベルベルト様が真剣なのは分かりました。ただ、お家は大丈夫なんですか?私みたいな行き遅れの女性なんかと結婚したいって言ったらさぞや怒ったでしょう」
「まさか。俺に愛する人ができたと喜んでいたよ」
ベルベルト様の言葉に私は眉を顰める。
そんな都合のいい話があるだろうか。
私がベルベルト様の親なら若い女性と結婚を勧めるだろう。
ベルベルト様は私の顔を見て微笑んだ。
「疑問に思っているようだから、今度我が家に来るといい」
「……機会があれば」
困り切っている私をベルベルト様は楽しんでいるようだった。
ベルベルト様と別れて仕事へと戻る。
フェイナとララー、いつもそっけないはずのクリスティーナが笑顔で私を待っていた。
「で、どうでした?何を話したんですか?」
様子を探ろうとキラキラした瞳を向けてくる新人達に私は軽く首を振る。
「あなた達に話すことなんてないわよ」
「えーなんでですか。でも、いいお話ですよね」
ハンカチを畳みながらララーは恋する乙女の顔をする。
フェイナもアイリス姫のドレスを整えながら頷いた。
「だってあのベルベルト様に求婚されるなんて夢のようですもの。私だったらすぐ頷きますよ。……歳が離れていても」
おじさんという言葉を飲み込んだのがわかり私の眉がピクリと動いた。
ベルベルト様がおじさんなら私はおばさんだ。
そんな私が結婚という言葉だけで揺れ動いているのだ。
ベルベルト様の未来を考えるのであれば断るべきだということはわかる。
だが、どうしても断れないのだ。
私の何かが邪魔をしている。
「はぁ」
ため息をついた私に、クリスティーナが珍しく話しかけてくる。
「悩んでいるならお受けすればいいじゃないですか」
「クリスティーナに指摘されるとは思わなかったわ」
「私、悩んでいる時間って人生で一番無駄だと思うんですよね。だからディオンとも二つ返事で付き合ったんです」
珍しく自分のことを言うクリスティーナ。
「とてもいい人生観ね。ディオンとは仲良くやっているの?」
私が聞くとクリスティーははにかんで笑う。
「はい。結婚の話も出ているんです。だから多分もうすぐやめると思います」
一瞬だけ可愛いと思ったがやはりクリスティーナはクリスティーナだ。
クリスティーナは意地が悪い顔で微笑んだ。




