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「はぁ」


 何度目かのため息をつきながらアイリス姫の寝所を整える。

 皺1つなく綺麗にシーツを整えることができたが私の心は晴れない。

 昨日まさかのベルベルト様の結婚の申し込みを受けたことが衝撃的すぎて他に何も考えることができないのだ。

 ベルベルト様は嫌いではないが好きかと言われるとよくわからない。

 ずっと長く一緒にいた人で、変わらず私を気にかけてくれていつも微笑んでくれる。


 私は手をとめた。

 もしかして、ベルベルト様はずっと私に気遣ってくれていたのかもしれない。

 私が困っているときはいつでも誰よりも早く気づいて声をかけてくれた。

 ベルベルト様は私をずいぶん前から結婚してもいいと思ってくれていたということだろうか。

 思い当たることがありすぎて、自惚れなんかではないと思いたい。


 ベルベルト様が私を好き?そういうことなの?


 認識すると顔が赤くなる。

 心臓がドキドキして胸を抑える私にフェイナが声をかけてきた。


「リシェ侍女長、具合でも悪いんですか?」


「大丈夫。なんでもないわ」


 仕事中だから落ち着こうと大きく息を吸い込んで私は微笑んだ。

 私の微笑みを見てフェイナは顔を硬直させる。


「なんか変ですよ?やっぱり歳だから……」

「失礼ね、私そんなに歳をとっていません」


 ギロリと睨みつけるとフェイナは失言したと気づいたようで慌てて手をふる。


「あ、そうですよね。いくらお局でもまだまだ元気ですよね」


「そのお局っていうのはわざと言っているの?悪口を直接言っているようだけれど?」


「わわっ。すいません。つい……」


 いつも私のことをお局と呼んでいるから癖で出てしまうのだ。

 私は睨みを利かせながら低い声を出す。


「そうやって癖というのは抜けないのよ。言葉遣いや仕草は気をつけなさい」

「はい」


 流石にまずいと思ったのかフェイナは反省をして頷いた。

 私は気を取り直してアイリス姫のベッドの棚からポプリを取り出した。

 アイリス姫が今日もよくお休みできるようにアロマの香りを付け足す。

 調合をしながら私はフェイナに話しかけた。


「そういえばクリスティーナとは最近どうなの?3人組で仲良くなっていたようだけれど、あの子最近仕事もやる気がないし」


 今はララーと食器を磨いている。

 フェイナは唇を尖らせる。


「別に仲は良くありませんよ。男ができたから最近は最悪ですよ。仕事をサボってディオン?と会っているんですよ」


 若い金髪の爽やかな男性騎士を思い出して私は頷く。


「ベルベルト様も注意したけれど、治らないのね」

「ディオンは、なんかすごく出世して護衛騎士に入ったから将来安泰だって、クリスティーナは喜んでいましたよ。仕事なんてすぐやめるつもりなんだわ」


 クリスティーナの文句を言いながらもフェイナは手際よくアイリス姫のドレスを整えていく。

 仕事もだいぶ様になってきたようだ。

 私は微笑みながら頷いた。


「なるほど」


 男と会って仕事をしないようであればこちらから配置を変えてもらう予定だったが、それより早く仕事を辞めそうな気配だ。

 もう少し様子を見るか、ベルベルト様に相談をしてみよう。

 そこまで思い立って私は何かあるとベルベルト様に頼っている事に気づく。

 私よりも上の侍女である女官長に相談をしてもいいものだ。

 いつもベルベルト様に相談をしてから女官長に相談をしていた。


 固まっている私にまたフェイナが顔を覗き込んできた。


「大丈夫ですか?リシェ侍女長、今日おかしいですよ」


「大丈夫。なんでもないわ」


 軽く微笑んで私は仕事を再開した。



 午前中の仕事を全て終わらせて先に新人3人をお昼に送り出す。

 アイリス姫も今日は自室でお昼を召し上がっている。

 姫様がお昼を召し上がってるのを眺めながら不意にため息をついてしまった。

 仕事中なのを忘れてしまいついベルベルト様のことを考えていたからだ。


「どうしたの?何か心配事でもあるのかしら」


 食事を終えてアイリス姫は心配そうに聞いてきた。

 テーブルの上を片付けながら私は首を振る。


「なんでもありませんよ」


 アイリス姫にベルベルト様の相談などできるはずもなく、私は曖昧に微笑んだ。

 姫様の午後の予定は嫁入り先のアマンド王国の歴史の勉強だ。

 お部屋まで付き添うのはフェイナとララーの2人のはずだがまだ昼休憩から戻ってこない。

 侍女の動きはアイリス姫ももちろんご存知で美しく微笑みながら私を見上げてくる。


「新人たちのお昼休憩は長いわね」

「全く困ったものです」


 怒りを秘めている私に微笑んでアイリス姫は美しい瞳を伏せた。


「あちらの国でも私はうまくやっていけるかしら。リシェと離れるのは辛いわ」


 5歳から共に過ごしてきたアイリス姫にそう言われると私も辛くなる。

 また涙が出そうになるとやっと新人三人組が昼から帰てきた。


「遅くなりまして申し訳ございません」


 珍しく頭を下げる三人組に私は頷いた。


「これから気をつけて。アイリス姫のお支度も終わったのでお部屋までお送りしてね」


 私がいうと珍しくクリスティーナも頷いて積極的に働く。


「わかりました」


 文句も言わず別人のような態度になり礼儀正しく頭を下げる。

 その態度の変わりように私とアイリス姫は顔を見合わせた。

 フェイナとララーも不思議そうにしている。


「なんの心境の変化かしら」


 私の呟きにアイリス姫が微かに微笑んだ。


 アイリス姫の移動のために部屋を出るとちょうどベルベルト様と鉢あった。

 見回りをしていた様子で、私の顔を見ると微笑んでくれる。

 結婚を申し込まれてから初めて会うからか妙に意識をしてしまう。

 ベルベルト様を意識したことはなかったが私を好きでいてくれる異性だと思うだけで胸がドキドキと高鳴ってくる。

 あわあわしている私をフェイナとララーが不審がって見つめてくる。


「侍女長、今日少しおかしいですよ?病気ですか?」


 失礼なことを聞いてくる2人にベルベルト様が笑って小さく呟いた。


「なるほど。これは期待をしていいってことかな」


「い、いや、なんていうか」

 言葉に戸惑っている私を見つめてからベルベルト様はアイリス姫に頭を下げた。


「これからお勉強ですか」


「見回りご苦労様」


 アイリス姫はベルベルト様を労うとまだ様子のおかしい私を見つめる。

 ベルベルト様は軽く笑うとまたアイリス姫に頭を下げた。


「失礼ですが、リシェ殿はもうお昼ですよね」


 時間を三十分も過ぎているが予定なら私はとっくにお昼に入っているはずだ。

 珍しく侍女の予定に口を出してくるベルベルト様にアイリス姫は不思議がりながらも頷いている。

 

「そうね」


「ならば良かった。リシェ嬢と共にお昼を取ろうと思いましたお誘いに来たんですよ」


 微笑みながらいうベルベルトにアイリス姫は一瞬驚いたもののなぜか納得したように頷く。


「なるほど。リシェの午前の仕事は終わっているみたいだからどうぞ」


 アイリス姫の承諾を得てベルベルト様は微笑んで私に軽く手を差し出した。


「アイリス姫の許可もいただいたので、お昼を一緒に食べよう」


 微笑んでいるベルベルト様が眩しくて私が固まっているとそれを見ていたフェイナとララーが戸惑いながら囁いている。


「えっ、ベルベルト様が侍女長をお食事に誘っているってどういうこと?」

「ま、まさかリシェ侍女長何か弱みでも握っているんじゃない?それかお金ね」


 2人のひそひそ声にアイリス姫もベルベルト様を見つめた。


「何かあったの?」


 不審そうなアイリス姫にベルベルト様は余裕な表情だ。


「あったといえばありましたねぇ。アイリス姫も長年気に留めていらしたことですよ」


 含みをもたらしたベルベルト様の言葉にアイリス姫は目を見開いた。


「まさかと思うけれどとうとう言ったの?」


「言ったというか、正式にリシェ嬢に結婚を申し込みました」


 胸に手を当てて軽くお辞儀をする仕草をするベルベルト様のかっこよさに私も含めて全員が見惚れる。

 その一瞬後フェイナとララーが黄色い声を上げた。


「ヒエェ、大ニュースじゃないですか!ま、まさか結婚したい人一番人気のベルベルト隊長がお局に結婚を申しこむなんて」


 倒れそうなぐらい驚いている新人三人組を笑ってベルベルト様は私にもう一度改めて手を差し出す。


「ではお昼に参りましようか」


「手はちょっと……流石に職場ですし」


 遠慮をする私に、ベルベルト様は頷いて私の背を押して歩き出した。


 







 

 

 

 

 

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