舞の成果
「おい見たかあの頭領!」
「あのお披露目の時の人の子だろう?
いやぁ、あそこまで化けるとはねぇ…!」
「あの力だ…こちらの出方も変えねば…」
舞が終わり、宴が始まった。
周囲の喧騒に紛れて聞こえる凛桜への言葉に
雅は緩む頬を引き締めながら酒を口に含む
……まぁそうだよな
あんなの見せられちゃ凛桜への対応を変えざるを得ないだろう。
現在武力の最高峰である烏天狗の頭領が
古くからこの付近の重鎮として名を馳せる白狐の里で舞を舞った。
それも豊穣の舞だけでなく剣舞……犠牲になった同士を弔い次の闘いへの鼓舞を意味する舞だ
雅は猪口を高足膳に置き、
凛桜の位置を確認した後静かに首を振る
「まったく……末恐ろしいな」
凛桜は現在他の妖達に挨拶回りをしているらしい…
それも鬼との戦いで協力してくれた者たちに。
あの戦いで銀が呼んだ応援は主に鎌鼬と女郎蜘蛛。
あの時の作戦的にも相性の良い妖だが、
基本二種族とも他の妖と群れる事を好まない。
凛桜はそんな妖達を仲間につけて楽しそうに会話をしている
雅は猪口の中身を全て空にし、隣で水のように酒に流し込んでいる銀へと目を向けた
「どうせ銀様なのでしょう?
あんな政治事の駆け引きなんて俺教えてませんし…」
「まぁ半分はな。あとの半分はあの子が自分で考えて行動している。例えば今回の座席だな、鎌鼬と女郎蜘蛛は敢えて見晴らしの良い場所に座ってもらっている。
…ほれ、その向かいの席を見てみろ」
銀に言われた席を見ると、なにやら険しい顔の河童と猫又が黙々と御膳に箸を運んでいる
「実はな、鬼との戦いであいつらにも応援要請はしていたんだ。それをあの馬鹿共は"人の子に手を貸す訳にはいかん"とか言ってな?
変なプライドなど持っておるからだ阿呆め!
まったく良い肴だ!」
そう言って楽しそうに徳利を空にしてせせら笑う銀。
雅も隣で少し笑いながら凛桜を優しく見守っていた
――――
数十分後、凛桜は各妖達への挨拶を終えて自身の席へと向かっていた
歩く度に後ろからの視線の圧が強くなる。
そこまで注目してくれている……舞は成功だったと言い切って良さそうだ。
………これだけを除いて。
「あの……先程の舞、実に美しく…!」
「と言いますか、まさかここまで神秘的な方だとは…」
「あー…はは、ありがとうございます…」
凛桜は笑顔を貼り付けて軽く頭を下げる
これで何回目だ…?
雪が言っていたのはよくわかる。
これだけおめかしして、あれだけ注目される状況で舞えばこうなるだろう……それを"モテる"と言って良いかは別として。
凛桜は一歩前に踏み出すが、行先を塞いでいる男性達がどいてくれる気配は無い。
ならばここは大人しくしておこう、…私は。
「失礼、主には別の務めがありますので…」
男達の背後から良く聞き慣れた声が聞こえる
「速やかに道をお開け願います。」
雅の声にサッと目の前が開ける
「お迎えにあがりました。」
ニコニコと笑う雅が恭しく礼をするが、
目の奥が笑ってなくて怖い。
「では…失礼いたします」
凛桜は両端の男達に会釈をして
雅の後に続いて歩いていった
「良く気付いたな?」
「そりゃあんなに殺気出してたら誰でも気付くでしょ」
凛桜の言葉に軽く笑う雅
「仕方ないだろ、ずっと隣が空席なのも飽きてきてな。
そろそろ俺にも構ってくれるか?」
「それが"別の務め"?なら喜んでやりますよ!」
ニコニコの凛桜を見て雅は歩みを止める
「……意味わかってんのか?」
「ん?隣に座ってろってことでしょ?
皆御膳美味しいって言ってたし、私も早く食べたかったんだよね!いやぁ助けに来てくれて感謝感謝!」
そう言って嬉しそうに微笑む凛桜
「……まぁいいや」
雅は軽くため息を吐き、前を向いて再び歩き始めた
雅といるといつも通りの凛桜に戻ります。
やっぱり凛桜がリラックス出来るのは……ってことなんですかね?




