第6話ざこば、東口に立つ
高3の夏。とにかく暑かった。
蝉がわめき散らし、アスファルトが陽炎のようにゆらめく午後――新宿・東口の広場は、若者たちの熱気でさらに一段と温度を上げていた。
髪はボサボサ、Tシャツは汗と夢で湿っている。
そんなフーテンな僕も、その喧騒の一部として、まるで風景のしみのように広場に溶け込んでいた。
時代はまだ、“フォーク”と“反体制”が、煙草の煙とともに空に舞っていた頃。
吉田拓郎は千葉の寺で修行中、岡林信康は山谷で肉体労働、カルメン・マキはまだ「だまって海を見つめていたい、…」と歌う前――そんな、時代が何かを産み落とそうとしていた不穏な季節。
新宿は、街ごとアドレナリンの塊だった。
若者も、酔っ払いも、警官も、コーヒーを飲むサラリーマンすら、どこかしら戦っているような顔をしていた。
そんな中に、突然現れた一人の男。
頭がまん丸、目がギラリと光り、なんともいえない胡散臭い関西弁で言い放った。
「わて、落語家でおます!」
あ?と思う間もなく、
「どっから来たかって? 髪の型見たらわかりまっしゃろ」
とニヤリ。
「そう、上方(髪型)からや!! 」
とドヤ顔で決めた。
笑う前に、何かにやられたような気分だった。
そのまま彼は、フーテンたちがたむろする広場の真ん中にどかっと座りこみ、堂々と落語を始めたのだ。




