第42話ハルキストの秋と、ノーベル飴の味
僕と同世代に、村上春樹という作家がいる。
そのファンは“ハルキスト”と呼ばれるらしい。
……なんやそれ、ハルのストライキみたいやないか(笑) あるいはキリストの親戚か何かか?(笑)
秋が近づくと、風が少しだけ文学くさくなる。
そして決まって、ハルキストたちがざわつきはじめる。
「今年こそノーベル文学賞!」
「いや、今年は確実や!」
「来る、これは来るで!」
まるで秋祭りの前夜みたいな高揚感。
屋台もないのに、胸だけが騒がしい。
けれど発表の日——
その熱は、しゅるしゅるとしぼんでいく。
「どうなってるんや…」
「やっぱりなぁ…」
「今年もあかんか…」
「なんか、おかしないか?」
毎年くり返される、期待とため息の往復運動。
まるでブランコみたいに、前へ後ろへ揺れている。
若い頃の僕は、小説ばかり読んでいた。
その中でも『風の歌を聴け』は、やけに心に残っている。
青春の、あのどうしようもない怠惰。
現実の隙間にひそむ非現実。
非現実の奥に顔を出す、妙に生々しい現実。
日常と非日常が、くるりと裏返るあの感じ。
あの不思議な世界の中で、
僕はたしかに、奇妙な恍惚を味わっていた。
さて、あと二ヶ月もすれば、またあの季節だ。
ノーベル文学賞の発表。
今年ももしダメやったら——
そうやな、飴でもなめよか。
もちろん、ただの飴やない。
“ノーベル賞飴”や。
……どんな味やねん、それ(笑)
ほなまた、秋のどこかで。




