第37話テレビの幕が開く夜 ― 力道山とサーチンの白パッチ
昭和三十年代。
まだテレビが 「ある家」 が町の名所だった頃。
染屋のサーチンの家には、
町内でちょっとした 文化遺産 みたいなテレビがあった。
大きな家。
前栽。
やたら長い廊下。
そして――
どこか異国ムードの応接室。
その真ん中に、
家具みたいな顔をして
どっしり座っているテレビ。
僕はいつものように
「見せてくださいな」と入り込む。
すでに
近所のおっちゃん、おばちゃん、子どもたち
十人ほどが集合済み。
部屋の空気は
ソワソワ ソワソワ
ワクワク ワクワク
まるで
芝居が始まる前の小屋みたい。
やがて
サーチンのおっちゃんが
テレビの前に立つ。
そして――
幕を開ける。
そう、
あの頃のテレビには
ほんまに 幕があった。
舞台みたいに
シャーッと開く。
しばらくして
画面の中に現れたのは
力道山。
ドーン!
「袈裟斬りチョップ!」
「水平チョップ!」
「逆水平チョップ!」
チョップ!チョップ!チョップ!
……あれ?
ボークチョップに
ラムチョップ?
それは食べ物やないか!!
でも
力道山の強さは本物。
子どもたちの胸の中では
完全に 世界最強の男。
もちろん
サーチンも影響を受ける。
力道山のタイツを真似して
白パッチを
黒に染める。
さすが
染屋の息子。
妙に完成度が高い。
そして町では
こんな噂まで流れていた。
力道山は
日本で
天皇の次に有名な人物。
……ホンマかいな。
でもあの夜、
テレビの幕が開いた瞬間だけは
みんな本気で思っていた。
この小さな画面の中に
世界一強い男がいる。
そして
それを見ている自分たちは
ちょっとだけ
時代の最先端にいる。
そんな
昭和の
ワクワクする夜だった。




