第3話 【円町ブルース 〜三日遅れの恋文〜】
「京都に三日遅れで便りが届く町があるらしい」
そんな都市伝説みたいな話を耳にしたのは、大学の昼休み、学食のうどんをすすりながらだった。
「ホンマかいな」とツッコミを入れる前に、友人がドヤ顔で言い放った。 「それがな、円町やねん」
円町。なんやそれ、名前からして丸くてのんびりしとる。 しかも続けてヤツが言うには——
「都はるみが生まれた町やねん」
なんやねんその流れ。急に演歌やん。 三日遅れの便りをのせて歌われても、こっちは講義に三日遅れとんねん! 「アンコ椿は恋の花……」とか歌い出す始末。
それでも、なぜか心のどこかが動いた。 都はるみ。演歌界のディーヴァ。レコードでしか聞いたことないその歌声に、なぜか胸の奥がチリチリした。
その日から、ヒマさえあれば円町をウロウロするようになった。
まるで昭和の探偵気取り。駅前の喫茶店、商店街、果てはどぶ板の下まで——いや、マジで覗いた。 「ここに都はるみが……おるわけないやろ!!(笑)」 自分で突っ込みながらも、どこかに“あの人”が立ってる気がしたのだ。
そういや、先輩が言ってたっけ。
「オレ、円町で都はるみ見たことあるで」
“見た”という記憶だけが一人歩きし、ミーハーな若者が円町に群がったとか群がらんかったとか。
でも、どこにもおらんかった。 きっと、堂島あたりでスズメになってしもたんやろ。
「噂並木の堂島スズメ〜…」とか、…
それでも、学生時代、わけもなく、会いたかったんや。都はるみに。 この気持ち、なんやろな。恋でもない、ファンとも違う。
演歌のこぶしに巻き込まれて、どこか遠くへ連れて行かれるような——そんな感覚。
「アンコ椿は恋の花……」「あ」を「ま」に変えたら下ネタになるやて?アホ言え、ワシの青春を汚すな!!
今も三日遅れで便りが届いてくるような、のんびりした空気が漂っている。 あの頃の僕も、きっとまだその空の下、ヒマそうに歩いている気がする。
そしてふと、口ずさんでしまうのだ。 「アンコ椿は〜恋の花〜……」 ……歌うなっ!!(笑)




