第2話「混乱と希望をギターに乗せて運ぶ風」。
あれは大学のキャンパスだった。季節は春か秋か、よく覚えていないけれど、空がやたらと広く感じたのは確かだ。人だかりの中心に、ひとりの男がいた。ギターを抱えて、空に向かって声を放っていた。まるで背伸びするように、高い声で、ちょっと気取って──でも、それが妙に様になっていた。
アイツはまるで、ビートルズの残り香に便乗して、土足でやって来たような奴だった。音楽に、いや、存在そのものに遠慮がない。遠慮なんてしたら、音が死ぬとでも言わんばかりに、身体ごと声を震わせて、こっちの心をひっさらっていく。しかもそれが、優しさでも正しさでもなく、「何か面白いもん見せてやろう」という悪ガキのような好奇心からだと知って、こっちはますます置いてけぼりになる。
「なあ、口のまわり血だらけやんか」
「うん、人食ってきてん」
──そんな会話が成立してしまうくらい、アイツは“人を食ったような奴”だった。冗談なのか本気なのか、本人もたぶん分かっていない。風のように現れて、雲のように形を変えて、稲妻のように心を撃ち抜いてくる。
でも、決して「まとも」ではない。
まともの反対は“おもしろい”ってことかもしれない。
アイツはまさに、ペテン師よりもペテン師らしい。ナンセンスのなかに、真実みたいなものをチラッと覗かせてくる。本人はふざけてるつもりでも、聞いてるこっちは人生観を変えられかねない。
はじめてアイツの歌を聴いたとき、僕は驚いた。呆気にとられた。唖然とした。笑ったあとで、少し泣きたくなった。
そんなアイツの名は──
はしだのりひこ。
一言でいえば、ついこう言いたくなる──
「なんやねん、こいつ。好きやわ。」




