第五話
僕がネーミングライツの能力で大量生産した聖剣は、兵士たちに配られた。いまや聖剣騎士団というものができている。彼らの活躍は、めざましいものだった。
魔物たちに王都まで攻め入られていたというのに、あっという間に巻き返し、魔物たちの領土に攻め込んだ。
僕はぽっちゃりしてきたお腹の肉を気にしながら、日々の食事にありがたく手を合わせ、さまざまなものに名前をつけた。美味しいものはもちろん好きだけれど、決して豪華とは言えない毎日の食事だって、とても美味しいものだ。
この世界にやってきたときに初めて食べた、ほんの少しだけ固いパンと、干し肉とタマネギのスープの温かみを、僕は忘れなかった。
「オラァ! 行くぞ、お前ら!」
トニーは聖剣騎士団の団長となり、僕やアイリスと共に、前線で戦っている。
聖剣コッペパンを振り回しているトニーを少し離れたところから見守りながら、僕はアイリスにたずねた。
「いまだに、ネーミングライツの法則がわからないんです。食べ物の名前をつけたら強くなる……んですかね」
トニーの聖剣コッペパンの衝撃波が近場の岩に当たって、ごろりと落石が起きる。魔物の上に落ちていく大きな岩に、僕は「サトイモの煮っ転がし!」と名付けた。サトイモの煮っ転がしと名付けられた岩は、何匹もの魔物の上を転がっていった。
「あれ?」
僕がサトイモの煮っ転がしと名付けた落石は、魔物にダメージを与えてはいる。けれども、これまで名前をつけてきた他のものよりは、さほど強くない気がする。
「なんで?」
モツ煮込みやコッペパン、焼きそばパン、チュロスやアイスバーバニラ味は強かったのに、サトイモの煮っ転がしはダメなのか? サトイモの煮っ転がし、美味しいじゃないか!
ほくほくに煮たサトイモに味が染み込んで、ほんの少しとろみがついて、食べるとねっとりとした食感が口の中に広がる……その美味さは、ほっとするおふくろの味である。
僕がそう考えた刹那、サトイモの煮っ転がしと名付けた落石が、猛スピードで転がり出した。魔物たちが巻き込まれて断末魔の悲鳴をあげている。
「……どういうことだ?」
目の前の光景は、ネーミングライツの能力を解明するヒントになりそうだった。
ただ名付けるだけでは、効果が薄いのだろう。トニーと実験した雷神剣だって、僕が名付けたのには違いないけれど、聖剣焼きそばパンには敵わなかった。
ずっと、食べ物の名前をつければ強くなるのだと誤解していた。食べ物の名前をつければいいのなら、サトイモの煮っ転がしだって最初から十分に強いはずだ。なのにどうして──。
ふと、あるひらめきが僕の脳裏をよぎる。
──もしかして、ネーミングライツの能力は、思い出と関係しているのではないだろうか。
「アイリス。ネーミングライツの能力って、思い出や記憶と関係があったりします?」
「わかりません。文献に残る伝説の勇者は、その能力をくわしくは明かしてくれなかったそうです」
──だったら、思い入れのない名前を敵につけたら、逆に弱くなるかもしれない。
空を飛んでいる魔物に、僕は試しに「チュン太」と名付けてみた。羽が生えているから、鳥のように見えたのだ。チュン太という名前に、特に思い入れはない。
チュン太は僕が名前を付けたとたんに、近場の木のてっぺんに留まって、小鳥のように首を傾げはじめた。
「……魔物にも名前、つけられるんだ」
僕はごくりとツバを飲み込んで、魔物の群れに切り込んでいくトニーを見た。おそらく大型の魔物を狙っている。ゴーレムがモツ煮込み砲で援護射撃をして、小型の魔物の足止めをしている。魔物たちは羽を広げて宙に飛び、トニーに今まさに襲いかかろうとしていた。
「ヒヨコ! アヒル! ニワトリ! ガチョウ! ドードー!」
僕は次々と飛べない鳥の名前を魔物たちに付けていく。魔物たちは飛べなくなって、ゴーレムのモツ煮込み砲に飲み込まれていった。
大型の魔物の爪を、トニーが聖剣コッペパンで受け止めている。鍔ぜり合いのたびに火花が散った。
「カピバラ!」
僕はトニーと鍔ぜり合いをしている魔物に名前をつけた。カピバラと名前を付けられた魔物は、とたんにきょろきょろと辺りを見回して、湖の中へと飛び込んで行った。
僕が知っているカピバラについての知識は、温泉に入って気持ちよさそうにしている姿くらいのものだ。湖に浸かってのんびりしている魔物を見て、僕はほんの少し、ネーミングライツという自分の能力を理解した。




