第四話
酒場のおかみさんからジョッキを受け取ると、トニーは「おう、お疲れさん」と乾杯をした。
トニーによると、聖剣コッペパンは僕が名前をつけるまで、ごく普通の剣だったらしい。
「この街の武器屋で買った剣だ。ものはよかったが、あんな衝撃波なんて出たことなかったぜ。だって俺、魔力ゼロだからな。ササキに聖剣コッペパンって名前をつけてもらったおかげだよ!」
トニーは上機嫌に笑って、ビールの泡を口の周りにつけた。僕は剣にコッペパンと名付けただけで、聖剣とは一言も言っていない。さすがに聖剣だなんて仰々しいのではないか。
それでもあいまいにうなずいてしまうのは、人はいくつになっても、聖剣とか魔剣とか、そういうものにちょっとだけ弱いことを身に染みて知っているからだ。僕も小学生だった頃、いい感じの枝を聖剣と言って振り回していたことがある。
トニーの剣が聖剣コッペパンになったのは、おそらく僕の、ネーミングライツという能力が原因だろう。
ゴーレムの必殺技「モツ煮込み」といい、トニーの「聖剣コッペパン」といい、僕が名付けることで何か……おそらく強化が起きている。
そこで、実験をすることにした。
食事を終えたあと、兵舎の横にある訓練場に、三本の剣を用意してもらった。兵士用に大量に仕入れられたもので、剣の性能に違いはない。
一本は名前をつけずにそのまま。他の剣には僕が名前をつける。二本目には雷神剣と名付けた。ちょっとかっこいい。そうして三本目には、焼きそばパンと名付けた。コッペパンの応用だ。コッペパンが強いなら、焼きそばパンだって強いはずだ。
学生時代、よく焼きそばパンを学食で買って食べた。スパイスの効いたソースが絡まった焼きそば。ほんのりふやけた麺に、青のりと紅しょうがが乗っていて、やわらかいパンにはさまれている。炭水化物と炭水化物の組み合わせではあるけれど、焼きそばパンはとても郷愁を誘う味である。
「これを振ればいいのか?」
「お願いします」
僕には体力があまりない。剣を振るうなら、トニーに頼む方がいい。
トニーはまず、普通の剣で、練習用の杭に切りつけた。杭は真っ二つに折れた。切ると言うより、遠心力と体重移動、剣の重さで折るという感じだ。
次に雷神剣を使ってもらった。杭はきれいに真っ二つに切れて、上半分が宙に高く飛んだ。
三番目に、焼きそばパンと名付けた剣を使ってもらった。衝撃波が出て、杭ごと消し飛んだ。
「なんで焼きそばパンが強いんだ!?」
僕は兵士用の訓練場にがくりと膝をついて嘆いた。ネーミングライツの法則が見えてこない。そこは雷神剣じゃん! どうして焼きそばパンの方が強いんだ!? かっこ悪い名前が強いのか? いや、食べ物の名前は決してかっこ悪いわけじゃない! 美味しそうだ!
「落ち込んでるとこ悪いけど、聖剣焼きそばパン、強いな。これ、仲間に使わせてやってくれ。いやー……正直、ちょっと悔しいわ。俺、すげぇ訓練して強くなったんだけどな」
「強い人が強い武器を持てば、もっと強くなります。トニーの剣の腕があってこそです」
「……ありがとよ」
僕は一般論を話したつもりだが、トニーは照れたように笑った。
いつの間にか、焼そばパンまで聖剣にされている。二本の聖剣を生み出してしまった僕は、ネーミングライツの法則がまったくわからず、困り果てた。
コッペパンや焼きそばパンという食べ物があることを、どうやらトニーは知らないようだ。「モツ煮込み」という必殺技を持つゴーレムにだって、モツ煮込みに関する知識はないはずだ。ということは、武器や技の使い手の認識とは、無関係なのだろう。
僕自身も、モツ煮込みやコッペパンや焼きそばパンが好きだけれど、決して強いとは思っていない。
──ネーミングライツの法則が、本当にまったく、これっぽっちも、わからない。どうして食べ物の名前をつけると強くなるんだ?
スキルの法則はわからないままだったけれど、その日以来、兵士たちが武器に名前をつけてくれと僕の元に押し寄せたのは言うまでもない。聖剣チュロスだの、聖剣アイスバーバニラ味だの、よくわからない聖剣が大量生産され、僕は精神衛生と魔力を回復するために、やけ食いをする羽目になった。美味しい食事は癒される。食は生活の基本だ。




