第三話
まずはネーミングライツというスキルについて、調べることにした。
ゴーレムの必殺技になった「モツ煮込み」から考えてみても、名前をつけるスキルだということはわかっている。
気になるのは「名前をつけるとどうなるのか?」という点だ。
アイリスによると、以前にも同じスキルを持った人がいたらしい。伝説の勇者が、ネーミングライツの使い手だったのだそうだ。
「おう! ササキ! 俺の剣にも名前をつけてくれよ!」
王立図書館に向かう道で、トニーに出くわした。トニーは僕のスーツの襟首をつかまえると、ばんばんと背中を叩く。あとから知ったのだけれど、トニーは凄腕の剣士らしい。ちょっと痛い。
「えぇ……じゃあ、コッペパンとか、どうですか」
「なんだよそれ! なんだか力が抜けそうな名前だな」
面倒くさくなって、僕はトニーの剣に適当に名前をつけた。背中が痛かったし、ちょっとした仕返しのつもりだ。
「コッペパンをバカにしちゃいけません。コッペパンはすごいんですよ。切れ目を入れて、間に色々なものをはさんで食べられます」
「食べ物の名前だったのかよ! ササキは本当に食い意地がはってるな!」
トニーには笑われたが、休日のお昼ご飯と言えばコッペパンだろう。ソーセージやキャベツを入れて、ほんの少しだけカリッとなるように温める。僕は魚焼きグリルで焼くのが好きだ。焦げやすい点には注意しないといけないけれど、カリッと焼けて重宝している。焼いたコッペパンにケチャップとマスタードをかけて食べれば、休日のお昼ご飯にぴったりだ。
僕は元いた世界のコッペパンをしみじみと懐かしみながら、王立図書館に行き、伝説の勇者について調べた。壁一面に本が並んでいる王立図書館はさすがの品ぞろえで、その分ちょっとだけ、調べるのに苦労する。
メガネをかけた司書らしき老人に案内されて、僕は分厚い本をぱらぱらとめくった。
「コッペパン……」
コッペパンのことが、頭のはしっこにこびりついたまま、僕は伝説の勇者のスキル……ネーミングライツについて調べた。
「王都の空をおおうほどの魔物の群れを一掃した……本当かよ」
僕がつぶやいたとき、突然大きな音がして、図書館のガラスがカタカタと激しく揺れた。本棚から何冊かの本が、はみ出している。
「勇者様! 魔物が!」
あわててやってきた兵士に連れられて、図書館の外に出る。
魔物を探す僕の目の前で、トニーの剣が巨大な衝撃波を生んで、魔物を吹っ飛ばした。
「いけ! 聖剣コッペパン!」
トニーが跳躍して、上段に構えた剣を振り下ろし、次々と魔物を倒していく。
着地したトニーは剣を自分の身体の後ろに隠すようにして構える。身体のひねりを加えて魔物をなぎはらうトニーを見ていると、僕の出番はどうやらなさそうだった。
「トニー、前から強かったが、急に強くなったな!」
「おうよ! 俺には聖剣コッペパンがあるからな!」
魔物を追い払ったトニーが、顔馴染みらしい兵士と話している。トニーは聖剣コッペパンをぬぐうと、満足そうに鞘に収めた。
──っていうか、聖剣コッペパンってなんだ。僕が休日の昼ご飯によく食べてたコッペパンとは全然違うだろ。
異世界に転移してきた僕は、今コッペパンを食べられないことが悔しくてたまらなくなった。モツ煮込みやコッペパンを食べるためにも、早く元の世界に戻らなくてはいけない。




