危ういバランス(完結)
「ご紹介に預かりましたヨシオと申します」
一瞬の静寂を切り裂くようにヨシオが深々と一礼する。
工場時代、数千人規模の工場で管理職として培った"場の空気を変える技術"が今ここで試される。
「元は国内有数の大手工場で責任者をしておりまして……まぁ俗に言う"職人気質"ってやつです(笑)」
意外にも軽快な語り口に会場から忍び笑いが漏れる。
最初に見せた困惑顔が少しずつ解けていく。
「今は縁あって雅也様と同居させていただいております」
柚希の肩にそっと手を添えながら続けた。
「何せ天才肌の柚希さんですから……勉強を教えると『おじさんの説明分かりにくい!』と言われてしまいます(笑)」
会場から本物の笑い声が沸き起こる。
雅也の頬も緩んでいた。
「でもね、彼女が素晴らしいのはそう言いながらもちゃんと理解してしまうところなんです」
ヨシオが大仰に身振りを加える。
「まさに次期総理大臣の娘にふさわしい才能の持ち主ですよ」
柚希の顔が真っ赤に染まる。
周囲の政府関係者たちも次第に頬を緩めていった。
「そして雅也様」
ヨシオが正面を見据える。
「あの威厳の中に秘められている人情味こそが支持を集める最大の理由だと思います。今日もこうして我々家族を大切にしてくださって……」
ついに会場全体が温かな空気に包まれた。
先程までの疑念は霧散している。
(やれやれ……)
ヨシオが安堵のため息を漏らした刹那—背後で異様な気配を感じた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
振り返ると若者が数人立っていた。
全員がブランドもののスーツに身を包み、その顔には嘲笑が浮かんでいる。
「ずいぶん大したものですね」
中央の青年が冷笑した。
「職人気質どころかホームレス出身だと噂されてますが?」
会場が凍りつく。雅也の表情が硬直した。




