虚飾の宴
「いやいや」ヨシオが自然に笑う。
「確かに一度挫折しましたが……それも含めて今の私を作ってくれた貴重な経験です」
青年たちの表情が一変する。
予想外の答えに言葉を失ったようだ。
「むしろおかげで人間の尊厳ってものを……」
さらに畳み掛けようとしたヨシオの腕を柚希が強く引いた。
「行こ」
小声で囁く彼女の目には決意が宿っている。
「あの人は大丈夫だって言ったじゃない」
「いや……それは」
「行こ!」
突如柚希が大声を上げた。
その迫力に周囲の賓客たちが一瞬怯む。
雅也が駆け寄り、「申し訳ございませんお客様方」と頭を下げた。
「娘とヨシオ君には休憩が必要です」
二人をエスコートしながら退出しようとしたその時—
「お待ちください」
背後から響いた声に全員の足が止まる。
振り返ると老齢の紳士が杖を支点に立っていた。
「野村哲夫と申します」
名前を聞いた雅也が即座に頭を下げる。
「政界随一の実力者……」
「あなたがヨシオさんですね」
哲夫が柔和な笑みを浮かべる。
「娘を救っていただいた恩人だと聞いております」
「え?」
「十年前……当時五歳だった孫娘が海で溺れたところを助けられ」
哲夫の声が朗々と響く。
「その後三年にわたって養育費まで支援してくださったとか」
会場中がどよめいた。ヨシオ本人すら記憶にない出来事だ。
「そうですよね? 雅也君」
「……はい」
全てが計算されていた—そう気づいた瞬間、ヨシオの背筋に冷たいものが走った。
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