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危ういバランス(中編)
「分かりました」
スタッフが一礼して退く。
エレベーター内は重苦しい空気に包まれた。
「おい」ヨシオが声をひそめる。
「わざわざ波風立てることはないだろ」
「だって……」
柚希の目に涙が溜まる。
「あの人たちの方がパパと一緒に行った方がいいって言ってて」
彼女の声が震えているのに気づいたヨシオの表情が変わった。
これまでの強がりは単なる虚勢だったのだ。
「怖いんだな」
「……うん」
「じゃあ行こう」
差し出した手を柚希が恐る恐る掴んだ。
その指先は氷のように冷たかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
**最上階廊下**
カーペット敷きの廊下を進むヨシオの足取りは重い。
左右には見知らぬ顔の客たちが談笑しており、皆がこちらを見る。
(場違いすぎる……)
肩の古傷がズキリと痛んだ。
ホームレスだった自分が国会議員の娘をエスコートしているという現実が滑稽すぎる。
「ここから先はスタッフの指示に従ってください」
警備員が敬礼して通す。
ヨシオは深呼吸し、「大丈夫だ」と小声で囁いた。
ドアを抜けるとそこは別世界だった——
広々としたパーティルームに数百人の招待客。
煌びやかなシャンデリアの光が天井から降り注いでいた。




