危ういバランス(前編)
**夜九時半・エントランスホール**
豪奢なシャンデリアの下、柚希が煌びやかなドレスに包まれていた。
深いブルーの光沢のある生地が彼女の白い肌を際立たせている。
特に胸元はV字に大きく開かれており—
(これは……)
思わず目を逸らすヨシオだったが、柚希の視線に気づいてしまう。
「どうしたの?」柚希が首を傾げた。ワインレッドの口紅が艶やかに輝いている。
「あ、いや」言葉に詰まる。
「綺麗だな……と思うよ」
「ホントに?」彼女の頬がピンク色に染まった。
「実はコレ……ちょっと恥ずかしくて」
確かに彼女の小さな胸が強調されたデザインだった。
羞恥心を隠しきれない様子が妙に可愛らしい。
「似合うかな?」
「ああ。すごく大人びて見える」
「良かった」安堵の表情を浮かべた柚希が袖を引っ張る。
「でもやっぱりドキドキする……」
**エレベーターホール**
「でもさ」ヨシオがエレベーターのボタンを押しながら言う。
「さっきの奴ら見てたら分かるだろ? 俺が一緒にいると余計目立つんじゃないか?」
柚希が小さく首を振る。
「そんなことない。パパが言ってたもん。『何かあった時には絶対にヨシオ君の側を離れちゃいけない』って」
「雅也さんが?」
到着したエレベーターのドアが開き、二人が乗り込む。
鏡張りの内部に映る自分たちの姿にヨシオは苦笑した。
高級タキシードと豪華なドレス——あまりにも不釣り合いだ。
「それに」柚希が声を落とす。
「本当は怖いの。あのパーティ会場……知らない人がいっぱいだし」
「当たり前だろ。お前はまだ高校生なんだ」
「でもパパの娘だし……」彼女が両手をぎゅっと握り合わせる。
「うまくやらなくちゃって」
チン、と音が鳴り最上階に到着する。
重厚な扉が開くと——
「お待たせしました」
柚希専属の女性スタッフが笑顔で待っていた。
「お嬢様、準備はよろしいですか?」
ヨシオに向かって軽く会釈し、そのまま柚希の手を優雅に取ろうとする。しかし—
「あの」
柚希がその手を払いのけた。
「わたし叔父さんと一緒に行きます」
スタッフの表情が一瞬固まる。
「しかし予定では先に会場入りと……」
「俺が案内するよ」
ヨシオが割って入る。




