コンビニ勤務初日(後編)
「チッ!」
背後から舌打ちが聞こえた。
ヨシオの手元が狂いすぎて何度バーコードリーダーを当ててもエラー表示が出てしまうのだ。
「もっと力を抜けよオッサン」
桜木の声に棘がある。
しかし彼女に言われてみると確かに肩肘が張り過ぎている。
普段使わない筋肉に力が入りすぎているみたいだ。
「すみません」
深呼吸して再度トライ。
今度はうまくスキャン成功の電子音が鳴り響く。
「ふん……まあこんなもんか」
次の指示はお釣りの計算だ。
「税抜き120円のガムの場合いくら渡す?」
即答を求める視線。
慌てて暗算を始める。
「消費税率10%ですから……税込で132円ですよね?お客さんが千円札を出した場合……868円のお釣りでしょうか?」
自信なげな回答に桜木が呆れたように吐息を漏らす。
「計算は正確だけどさ……」
彼女が手元の電卓で確認する。結果同じ数字が表示される。
「けど?」
恐る恐る聞くと桜木がレジカウンターの引き出しを開ける。
「実際にお釣りを数えてみなよ」
中から取り出された硬貨束を見てヨシオは途方に暮れた。
銀色・金色・銅色……様々な種類のコインが雪崩のように出てくる。
**お釣り計算テスト**
- 目標金額:¥868-
- 在庫硬貨:
* 500円玉×2枚
* 100円玉×9枚
* 50円玉×3枚
* 10円玉×22枚
* 5円玉×6枚
* 1円玉×35枚
(うわ……こんなのどうやって数えるんだ?)
パニックになりかけていた矢先、桜木の声が飛ぶ。
「こういう時は大きい単位から行くんだよ」
彼女が手本を示す。500円玉2枚=1000円。そこでヨシオが気づく。
「あっ……」
「どうした?」
「お客様から千円札ではなくてちょうどをお預かりすればお釣りがゼロになる!」
「そうだよ!それが基本!」
桜木が突然笑みを浮かべた。今まで見せたことがない自然な笑顔だった。
「レジの基本は最小限のお釣り枚数で済ませることだって覚えときな」
(この人……本当は教え方が上手いんじゃないか?)
「ありがとう……ございます」
感謝の言葉に桜木が不意に目を逸らす。
顔がわずかに赤らんでいるように見えたのは気のせいだろうか?
「次は品出しに行くぞ!ついてこい!」
慌てて歩き出した彼女の背中を追いつつ思う。
(何か誤解されてたとしても理由はあるんだろうな……)
控室の隅には小さなダンボール箱が置かれているのが見えた。
中には封筒や着替えらしきものが整理されている。
ふと好奇心が疼いた。
(あの封筒は給与明細かな?それとも家族写真?)
立ち止まって目を凝らそうとした瞬間、遠くから桜木の怒鳴り声が飛んできた。
「遅せぇ!!何やってんだよ!!」




