コンビニ勤務初日(前編)
控室の壁時計が13時を指す頃、ヨシオは渡された制服に袖を通していた。
ポリエステル製のエプロンが肌に張り付く感触に違和感を覚えつつも襟元を整える。
**制服支給品**
- 白ワイシャツ(サイズLL)
- 黒色エプロン
- 青色帽子
- 防水スニーカー
- ICカード付きネームプレート「春野(研修中)」
着替え終わった瞬間、控室のドアが勢いよく開いた。
「おい!」
甲高い声と共に桜木という名札を付けたヤンキー風女性店員が姿を現す。
ピンクゴールドのインナーカラーが入った茶髪を指で弄びながら近づいてくる。
「遅せーんだよ」
(え?約束通り来たはずなのに……)
混乱しつつ腕時計を確認する。
針は確かに13時をわずかに超えたばかり。
「時間通りだと思いますが」
精一杯穏やかに答えると彼女の細い眉が跳ね上がる。
「ウチのルールじゃ15分前行動が基本なんだけど?」
嘲笑混じりの言い方だった。
「すみませんでした。次から気を付けます」
深々と頭を下げる。
ホームレス生活を続けていれば社会規範から逸脱するのは致し方ないことだ。
それを責められても文句は言えない。
「まぁいいや」
ヤンキー風女性が腕組みをしながら言った。
「とりあえず名乗れよ」
目線だけで促された。
内心で(やっぱり睨まれている……なぜだろう)と自問自答しつつ挨拶する。
「春野といいます。本日からよろしくお願いします」
「フン」
「桜木咲蘭だ」
鼻を鳴らす音が返事代わりだった。彼女がテーブルの上に広げたマニュアルを見せる。
「これが基本作業だ。見て覚えろ」
示されたA4用紙にはコンビニ業務の流れ図が印刷されていた。
**① レジ操作基本
② 商品陳列方法
③ 品出し/品切れ管理
④ 清掃マニュアル**
「まずレジ打ちは簡単な商品から教える」
指示されてレジカウンターに向かうと桜木が商品サンプルを並べ始めた。
チョコレートバー・カップ麺・ペットボトル飲料等の定番アイテム群。
「これを入れてみろ」
示されたのは10円玉が2枚と50円玉が5枚。
レジスター横の硬貨投入口に慎重に入れると電子音と共に機械が吸い込んだ。
「次はこれを打て」
サンプルのガムパッケージを差し出される。
バーコードリーダーを手に取る指が震えた。




