真実の断片
「私は叔父さんの事心配して……」
柚希の声が震え始める。
「あの歩道橋に来ていないか探しに来たのに……」
語尾が消えかかると同時に彼女の目に涙が溢れた。
「柚希、違うんだ!」
ヨシオが必死に呼びかける。しかし―
「嘘つき!もう知らない!」
叫び声とともに踵を返す。
あっけにとられた紫苑だったが、柚希とぶつかりそうになる既の所でひらりとかわす。
その瞬間、団子がポトリと落ちた。
「あっ」
後に残された二人の間に沈黙が落ちる。
みたらし団子の残り香だけが虚空に漂っていた。
「あの方は真実を知らないまま悲劇のヒロインを演じていらっしゃる」
「可哀想なお姉さんですね……」
「月城さん何を言って……」
紫苑の呟きにヨシオの顔が紅潮する。
紫苑がバッグからハンカチを取り出し歩道に落とした団子の串を拾い上げる。
「あの方こそが晩餐会での真相を握っていますわ」
「……まぁ、いいでしょう」
紫苑が肩を竦める。
まるで舞台女優が退場前の挨拶をするように優雅に一礼した。
「わたくしもう行きますね。学校に遅れてもいけませんし」
そう言うと学生カバンからスマートフォンを取り出す。
液晶画面に映るのは間違いなく私立聖条学院の時間割表だった。
「ちょうどお迎えも来ましたところですし」
下の大通りに先日と同じ漆黒のセンチュリーが停止していた。
運転席の窓からは燕尾服姿の老人が小さくお辞儀しているのが見える。
「では、またお会いしましょう」
踵を返そうとした瞬間
「あ、そうだ」
背を向ける寸前に彼女はポケットから小さなカードを取り出した。
振り向きざまにそれを差し出す。
「コレわたくしの連絡先です。何かあればここに連絡下さい」
金箔で縁取られた紫色の名刺には流麗な文字で『月城家総代代理 月城紫苑』と刻まれている。
さらにその下部にはQRコードが煌めいていた。
「ではまた」
エンジン音と排気ガスの匂いを残して高級車が去っていく。
ヨシオの掌中には一枚の名刺と無数の謎だけが遺された。




