嵐と平穏の間
**翌朝・リビング**
「おはようございます」
珍しく早起きしたヨシオがテーブルに並んだパンをかじる。
テレビからは既に雅也に関する報道が流れていた。
『与党幹事長の突然の出馬宣言により……』
「うるさいわね」
柚希がイヤホンをつけたまま通り過ぎる。長い髪がふわりと靡いた。
「今日も学校だろ?」
「うん」
「遅刻しないようにな」
「わかってますぅー」
階段を駆け上がる柚希を見送ったヨシオが新聞を広げる。
一面記事には堂々と雅也の写真が載っている。
(マスコミの攻勢も激しさを増すだろうな)
肩の傷がズキンと痛んだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
**午後・リビングルーム**
「ヨシオ君」
突如声をかけられ顔を上げると雅也が立っていた。
彼の背後にはカメラマンと思われる人影。
「今日からしばらく忙しくなる。家事を任せてしまってすまない」
「ああ、俺のことは気にすんな」
「それともう一つ」雅也が一歩近づく。
「柚希のことなんだが……」
「柚希がどうかしたか?」
「最近変な男に絡まれていると聞いてな」
「はぁ?」
「用心してくれないか。万が一のことがあっては困る」
ヨシオが困惑した表情を浮かべる。
「用心って言われても……俺はただの居候だぜ?」
雅也の眼差しが鋭くなる。
「居候などと卑下するのは辞めたまえ。今や君は我が家の一員だ」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
**夕刻・玄関**
「ただいま〜」
柚希が制服のスカートを翻して帰宅する。
リビングには掃除機をかけるヨシオの姿。
「またやってるの?」
「家事ぐらいやらせてもらわないと肩身が狭くてな」
「それより聞いてよ」彼女がソファにバッグを投げる。
「数学のテスト範囲変更されたんだって」
「ほぉ?」
「あと明日提出のレポートが……」
喋りながら柚希の視線が泳ぐ。
ヨシオが気づいて尋ねた。
「なにかあったのか?」
「なんでもない」
「嘘つき」
「うっさい!」
彼女が突然踵を返す。「とりあえず晩御飯作るからどいて!」




