橋下の日常
午後三時。西日がアスファルトを灼く時間帯。
ヨシオは再び駅前の喧噪を後にした。
カレーの匂いが残る胃を抱えながら歩く足取りは重い。
(やっぱりここは落ち着かないな)
都会の息吹が充満した空気が肌に合わない。
人々の無数の視線が針のように刺さる感覚。
ホームレス生活の厳しさに改めて気づかされた。
「……戻るか」
ふと零れた呟きが、行く宛てのない足を橋へと向かわせる。
あの薄暗い橋の下こそが今のヨシオにとって唯一の安息地なのだ。
オフィスビル群が途切れると景色が一変する。
コンクリート壁の冷たい圧迫感と淀んだ川面が目に入ってくる。
かつて慣れ親しんだその風景に懐かしささえ覚えてしまう己が情けなかった。
橋桁の陰に腰を下ろすと大きく息を吐いた。
風通しが良く、日差しを遮れる絶好の場所。
ただし季節によっては蚊の大群に襲われる弱点もある。
オフィス街の照明が徐々に灯り始める頃、ヨシオは拾い集めた段ボールを広げた。
糊付け部分が剥がれたA3サイズのダンボール六枚。これが今のベッドだ。
「クッション性は悪いけど……無いよりマシだな」
夜露に濡れた路面に敷くと肌に伝わる冷たさが和らぐ。
次に大切そうに抱えてきたペットボトルを取り出した。
中には公園の水道水が汲まれている。
(今朝のコンビニの茶は贅沢だったな)
公園の蛇口から流れ出る水は微量の塩素臭を伴うものの飲用には適していた。
昔読んだニュースによれば都市公園の給水管は家庭用とは別系統だから安全らしい。
「塩素入りだけど……まあ死にはしないだろ」
そう言いながら一口飲んでみる。
舌先に残る微かな鉄錆味。
かつて工場寮の古ぼけた水道で慣れ親しんだ味わいだ。
懐かしさと共に無慈悲な現実が胸を締め付けた。
「柚希は今頃何してるんだろうな」
遠く離れたマンションに思いを馳せる。




