コンビニの灯り
朝陽が水面に反射して万華鏡のように煌めく。
雨上がりの湿気を帯びた空気は洗練された香水のようで鼻腔をくすぐる。
しかしヨシオにとっては苦痛そのものだった。濡れた衣服が肌に張り付き体温を奪っていく。
「チッ……」
舌打ちしながら土手を上る。
朝靄が視界を霞ませる中、目指すコンビニの看板だけが浮かび上がっていた。
(お湯だけ貰えばいいんだ……)
店内に入るなり暖房の風が頬を撫でる。自動ドア越しに冷気が入り込むたび店内の客が迷惑そうな視線を送ってきた。
レジ横で店員に声をかける。
「あの……お湯もらえますか?」
若い女性店員は一瞬怪訝な顔をしたが「どうぞ」と事務的に答えた。
カップ麺に湯を注ぎながらポケットを探る。
(あった……)
昨日見つけたキーホルダーを取り出す。
金属製で「Y's」と彫られている。
柚希のイニシャルだろうか。
触っているうちに心が少しずつ落ち着いてくる。
(しかし、この程度の食糧では一日も保たないな。菓子パンでも買いたいが……)
棚に並んだ商品に目をやる。
クロワッサン4個入り210円。
特製メロンパン178円。
しかし現金は雅也から渡されたお小遣い3000円ぽっきりだ。
食費だけでなく寝床確保も考えなければならない。
「これで一週間は持たさないと……」
思わず呟いた言葉に隣の客が怪訝な目を向けた。
イートインスペースに移動し箸を割る。
麺がゆであがるまでの三分間が永遠のように感じる。
蓋の隙間から立ち上る湯気と共に懐かしい醤油の香りが鼻孔をくすぐった。
「うまそうだ……」
一口啜った瞬間、脳天に走る衝撃。
濃厚な出汁と小麦粉の甘みが渇いた喉を潤していく。
無意識に食べかすをキーホルダーに落としてしまった。
(しまった!)
慌ててティッシュで拭う。
Y'Sの文字が光を取り戻す。
指先で金属の冷たさを感じながら思う。
(俺はここで諦めるわけにはいかない)
窓ガラスに映る自分の姿はあまりにも惨めだった。
しかしキーホルダーだけは違う輝きを放っている。
まるで柚希との唯一のつながりを象徴するかのように―――




