家紋の力
「な……何だと?」
若者の顔色が一変した。
額から汗が噴き出し、震える手で仲間を制する。
「まさか……」
紫苑が薄く微笑んだ。
「この家が潰えたからといって血筋までは消えませんのよ」
指輪が再びきらめく。
その図柄は古びた家紋—三枚の桐の花びら。
(古い家か……)
ヨシオが悟った瞬間、青年が跪いた。
「申し訳ありません!」
「謝るべき相手が違うわ」
紫苑の声が透き通るように澄んでいた。
「柚希さん……」
彼女が振り返ると、壁際に崩れ落ちる柚希が小さく呻いた。
「柚希!」
ヨシオが駆け寄る。その背中越しに紫苑の視線を感じた。
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**同時刻・メインホール**
「おや?」
野村哲夫がグラスを置く。
「VIPルームに出入りがあったようですが」
雅也が眉を寄せた。「まさか……」
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**VIP控え室**
「もう大丈夫よ」
紫苑が柚希の肩に触れると、強張った身体が僅かに弛んだ。
「この方たち……何をしようと?」
問いかけに答える代わりに柚希の手が震えた。握りしめたハンカチが血で染まっている。
「殴られたのか?」
ヨシオの声が刃のように冷たい。
「違います」紫苑が静かに遮った。
「彼女の手紙を見てしまったのです」
「手紙?」
紫苑が懐から一枚の封筒を取り出す。宛先欄には『父上殿』の文字。
「親への告白文……自分の弱さや悩みを綴ったものです」
その瞬間、ドアが勢いよく開かれた。
「柚希!」
雅也が駆け込む。続いて警備員数名。
「何があった!」
「お父さま……」柚希の声が掠れていた。
「ごめんなさい……私が悪いんです」




