由緒正しき紋章
**パーティ会場・VIP控え室前**
ヨシオがドアノブに手をかけたその時―
「やめてください!」
室内から柚希の声が聞こえた。
ヨシオの全身が一気に緊張する。
「出ていけ!」
男性の怒声とともに何かが倒れる音が響く。
躊躇せずドアを蹴破るように開け放ったヨシオの目に飛び込んできたのは―
「柚希!」
「おじさん……!」
部屋の隅で柚希が壁に追い詰められていた。
その目の前には先ほどの青年と二人の護衛らしき男たち。
彼らの前に立つ一人の少女
「月城さま……」
青年が唇を噛む。
その少女こそ月城紫苑―旧華族筆頭の名家の血を引く15歳の高校一年生だった。
(誰だ……?)
ヨシオは困惑した。
幼い顔立ちと小柄な体格(おそらく150cm足らず)に、
つい小学生かと見間違えてしまう。しかし……
紫苑の髪はまるで春の藤の花のように淡く紫がかっていた。
その毛先が床に触れるか触れないかという長さで、
腰までは確実に届くであろう量感のある髪が彼女の小さな背中を覆っている。
(こんな子が……なぜ?)
「公衆の面前でこのような蛮行……次期総理候補のお嬢様を相手に何をするおつもりかしら?」
凛とした声が部屋に響く。
子供のような外見とは裏腹に、その姿勢は背骨が一本鋼でできているかの如くぴんと伸びている。
まるで千年もの歴史を持つ一族の代表者のように。
「お前こそ部外者だろがガキ!」
護衛の男が詰め寄る。「子供の遊び場じゃないんだよここは」
「ならば遊び場でなければ大人は何をしても良いということになりますわね」
紫苑の声は一層澄み切っていた。
「暴力こそ最も幼稚な手段。それを行使する方はどちらかしら?」
彼女の双眸が一瞬だけきらりと輝いた。それだけで場の空気が変わる。
「月城家の紋章を拝見しなさい」
紫苑が左手をそっと掲げる。薬指にはめられた銀の指輪が照明を受けて鈍く光った。
(紋章……?)
ヨシオは混乱した。
自分の生まれ育った社会と全く異なる世界が目の前にあることに気づき始める。
この小さな少女が持つ威厳は紛れもなく本物だ。




