第二章レグルス編 9話 王女に降る雪
ヴィーラとシンの連携。
雷雪が溶かす心。
レジュの運命は……?
神話×魔法×ファンタジー物語
第9話楽しんでってください。
コウ、アラン、バウスが激闘を広げている中
シンとヴィーラもまた
姉のレジュの暴走を止めるため城の屋上へ向かっていた
シン「ヴィーラの姉ちゃんはこっちに行ったよな?!」
ヴィーラ「お姉ちゃんが飛んで行った先は屋上です!なのでこの階段を上がれば…」
そこにはギュスターヴの血の魔法によって暴走する姉のレジュ
レジュ「ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」
苦しそうな声をあげ
息を切らしていた
その顔は涙を流し
苦痛を訴えていた
ヴィーラ「お姉ちゃん!!!」
その瞬間レジュがヴィーラ目掛けて一直線で襲ってくる。
シンはヴィーラを庇いレジュから打撃を受けた
ヴィーラ「シン様!大丈夫ですか!?」
シン「ヴィーラの姉ちゃん強すぎだろ…コウ兄の蹴りと同じくらいつぇーぞ…」
レジュ「ガアアアア!」
その咆哮は百獣の王を彷彿とさせる
ヴィーラ「シン様!私の光魔法で援護します!」
ヴィーラ「祝福聖典!」
シン「おぉ!すげぇ!なんか体の底から力が湧いてくる!」
ヴィーラ「防御力、攻撃力、反射力をあげる魔法です!」
シン「よし!まずはヴィーラの姉ちゃんを落ち着かせないと!」
ヴィーラ「シン様…お姉ちゃんをどうかお願いいたします!」
レジュ「グァァァァァ!!!!!」
轟音。
屋上の床が砕け、
レジュが獣のような速度でシンへ突っ込む。
シン「はっや…!!」
ドゴォン!!
シンは咄嗟に腕を交差し防御。
だがーー
シン「ぐっ…!!」
そのまま数メートル吹き飛ばされ、
石壁へ激突した。
バキィ!!
壁に亀裂が走る。
ヴィーラ「シン様!!」
シン「……っへ。マジでバケモンだな…!」
口元の血を拭い、
シンは笑う。
だがその目は真剣だった。
目の前のレジュから感じるのは、
怒りではない。
――苦しみ。
シン「……助け求めてる顔してんじゃねぇか。」
レジュ「ア゛ア゛……ア゛ア゛ア゛……!!」
レジュの全身から黒紫の魔力が噴き出す。
ギュスターヴの血の魔力が、レジュの身体を無理やり暴走させていた。
ヴィーラ「お姉ちゃん…!」
ヴィーラは胸元で両手を組む。
ヴィーラ「神速典!」
淡い金色の粒子がシンを包む。
シン「っ!!」
次の瞬間。
シンの姿が消えた。
レジュ「!?」
ガァン!!
シンの拳がレジュの腹部へ放たれる。
しかしーー
シン「かっっっっっっってぇ!?」
まるで鋼。
レジュの肉体は暴走した魔力によって異常強化されていた。
レジュは咆哮し、
シンの顔面へ蹴りを放つ。
だが。
シン「見えてんだよ!!」
ギュン!!
シンは紙一重で回避。
神速典によって反応速度が大幅に上昇していた。
シン「ヴィーラ!!もっといけるか!?」
ヴィーラ「はい!!」
ヴィーラの瞳が強く輝く。
ヴィーラ「祝福神典!!」
光の紋様がシンの身体へ刻まれる。
更に強く力が強くなる感覚。
ドクン。
心臓が脈打つ。
筋肉が熱を帯びる。
シン「……すげぇ。」
拳を握る。
空気が震えた。
シン「力が溢れてきやがる…!!」
レジュ「ガァァァァ!!」
レジュが両腕を振り上げる。
黒紫の魔力が爪となり、
屋上を切り裂いた。
ズガガガガガッ!!!
シン「危ねぇ!!」
シンは跳躍。
空中で身体を捻る。
その瞬間。
ヴィーラの声が響いた。
ヴィーラ「シン様!!右です!!」
シン「!」
反射的に振り向く。
そこには既にレジュ。
恐ろしい速度。
だが――
シン「見えてるッ!!」
バチィン!!!
シンはレジュの拳を真正面から受け止めた。
衝撃で床が陥没する。
ヴィーラ「……!!」
シン「ヴィーラの魔法がなきゃ今ので終わってたぜ…!」
レジュ「ガア゛ア゛ア゛!!」
シン「……悪ぃな。」
シンの瞳が鋭くなる。
シン「あんたを止める。」
その瞬間。
シンの魔力が爆発した。
ドォォォォォン――!!!
金色の魔力が屋上を駆け抜ける。
砕けた床石が宙へ舞い、
暴風がレジュの髪を揺らした。
ヴィーラ「……!!」
シンの身体から溢れる圧倒的な魔力。
だがその目は、
怒りではなく真っ直ぐだった。
シン「ヴィーラの姉ちゃん。」
シンはレジュの拳を押し返す。
バキィッ!!
レジュ「ガァッ!?」
シン「苦しいんだろ。」
レジュ「……ッ!!」
一瞬。
レジュの瞳が揺れた。
黒紫に染まり切った瞳の奥。
そこに僅かに、
“理性”が見えた。
ヴィーラ「お姉ちゃん…!!」
しかし次の瞬間。
ギュスターヴの血が強く脈動する。
ドクン。
レジュ「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
黒紫の魔力が爆発。
ズガァァァァァン!!
衝撃波がシンを吹き飛ばした。
シン「ぐぉっ!?」
空中で回転しながら着地。
靴底が屋上を削る。
シン「チッ…!」
レジュの右腕が異形化していく。
筋肉が膨張し、
黒い獣のような腕へ変貌。
ヴィーラ「そんな……!」
レジュ「ガァァァァァァ!!!!」
ドン!!!
レジュが地面を砕き、
再び突撃。
速い。
先程より明らかに。
シン「うおっ!?」
ドゴォ!!
拳がシンの頬を掠め、
背後の塔を粉砕する。
シン「マジかよ…!!」
ヴィーラ「シン様!!」
ヴィーラは両手を胸の前で重ねた。
ヴィーラ「もう一度…!神速典!!」
淡い光がシンを包む。
瞬間。
シンの身体がさらに軽くなる。
視界が澄む。
魔力が研ぎ澄まされる。
シン「……ッ!!」
レジュの動きが見える。
筋肉の収縮。
重心移動。
次の攻撃。
全て。
シン「いける…!!」
レジュの拳。
シンは最小限の動きで回避。
そのまま懐へ潜り込む。
シン「おぉぉぉぉッ!!!」
ドゴォン!!!
強烈な拳がレジュの腹部へ放たれる。
レジュ「ガハッ――!!」
衝撃でレジュの身体が浮く。
だが。
黒紫の魔力がレジュを包んでいく。
シン「これでもだめなのかよ…!」
ヴィーラ「ギュスターヴの血の力です…!」
レジュは空中で体勢を立て直すと、
獣のように四つん這いで着地した。
そして。
涙を流しながら、
苦しそうに呟く。
レジュ「……ヴィ……ラ……」
ヴィーラ「!!」
レジュ「……ごめん……」
レジュ「逃げ……ろ……」
ヴィーラ「嫌です!!」
ヴィーラ「私はもう逃げません!!」
ヴィーラ「今度は私がお姉ちゃんを助けます!!」
ヴィーラ「お姉ちゃん!!!」
だが直後。
ギュスターヴの血が再びレジュを蝕む。
黒紫の紋様が全身へ広がる。
レジュ「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
シン「……っ。」
ヴィーラは涙を流しながら叫ぶ。
ヴィーラ「シン様!!」
ヴィーラ「お姉ちゃんを……!」
ヴィーラ「お姉ちゃんを助けてくださいッ!!!!」
その叫びが、
城中へ響いた。
シンは静かに拳を握る。
シン「……任せろ。」
ドクン。
全身の魔力が脈動する。
レジュ「ガァァァァァァァ!!!!」
レジュが咆哮。
次の瞬間、
屋上の床が爆ぜた。
凄まじい速度。
シン「ッ!!」
ガギィィィン!!!
レジュの蹴りとシンの拳が激突。
衝撃波で周囲の瓦礫が吹き飛ぶ。
シン「ぐっ…!」
重い。
まるで巨大な魔獣。
だがシンは笑った。
シン「……燃えてきたぜ!!」
シンはレジュの足を掴むと、
そのまま屋上へ叩きつける。
ドゴォォォン!!!
床が陥没。
しかし。
レジュは着地と同時に跳ね起き、
獣のような動きでシンへ爪を振るう。
ズガガガガッ!!
シン「うおっ!?」
シンの肩から血が舞う。
ヴィーラ「シン様!!」
シン「大丈夫だ!!」
そう叫ぶが、
レジュの猛攻は止まらない。
拳。
蹴り。
爪撃。
暴走した魔力が嵐のように襲い掛かる。
シン「くっ…そ…!!」
押され始める。
ヴィーラは唇を噛んだ。
ヴィーラ(このままじゃ……!)
だが。
ヴィーラの脳裏に、
幼い日の記憶がよぎる。
泣いていた自分。
優しく抱き締めてくれた姉。
レジュ『ヴィーラは私が守るからね』
ヴィーラ「……っ。」
ヴィーラの瞳に強い光が宿る。
ヴィーラ「私は……!」
両手を前へ。
魔力が溢れる。
ヴィーラ「もう、お姉ちゃんに守られてるだけじゃありません!!!」
金色の魔法陣が展開。
風が吹き荒れる。
シン「ヴィーラ!?」
ヴィーラ「祝福星天!!!」
瞬間。
無数の星のような光が大空へ舞い上がる。
そして。
光がシンへ降り注いだ。
ドクン。
シンの魔力が跳ね上がる。
身体能力が爆発的に上昇。
シン「……はは。」
シンは拳を握る。
空気が軋む。
シン「すげぇなヴィーラ。」
レジュ「ガァァァァ!!」
レジュが突撃。
だが。
シンの姿が消えた。
レジュ「――!?」
次の瞬間。
シンはレジュの背後。
シン「終わりだ。」
ゴッッッ!!!!
強烈な一撃。
シンの拳がレジュの背へ叩き込まれる。
レジュ「ガハァッ!!」
衝撃でレジュが吹き飛び、
屋上の壁を破壊した。
しかしシンは追撃しない。
ゆっくり歩く。
シン「……もうやめろ。」
レジュ「……ッ。」
シン「ヴィーラ泣いてんぞ。」
その言葉。
レジュの身体が震える。
ヴィーラ「お姉ちゃん……!」
レジュの瞳から、
大粒の涙が零れ落ちた。
レジュ「……ヴィー……ラ……」
黒紫の魔力が揺らぎ始める。
ギュスターヴの血の魔力が崩れ始めた。
それを、
シンは見逃さなかった。
シン「もう大丈夫だ。」
シン「雷雪祈……」
光る雪がレジュを包む。
その瞬間レジュが正気を取り戻した。
黒紫に染まっていた魔力が消え、レジュの髪と顔色が元に戻っていく。
そこにいたのは、赤と金の髪を揺らす、美しく気高い王女だった。
レジュ「ヴィーラ…?」
ヴィーラ「お姉ちゃん!!!」
思い切り飛びつくヴィーラ。
レジュ「よかった!無事だったのか!」
レジュ「ギュスターヴは…?!」
シン「もう大丈夫だ!最後ヴィーラの姉ちゃんにかかってたギュスターヴの血が弱まった!きっとコウ兄が勝ったんだ!」
ヴィーラ「よかった…本当に…!」
ヴィーラ「ところでシン様の最後の魔法は…?」
シン「へへっ!あれはヴィーラの支援魔法を受けてた時に思いついたんだ!」
シン「母さんが雪ってのは人を癒して安心させてくれるって言ってた。」
シン「だったら雪属性もある俺なら使えると思ったんだ!」
ヴィーラ「戦闘中に思いついた…?」
レジュ「はっ…恐るべき戦闘センスだな…暴走状態とはいえ私を抑えるとは…大した実力だ」
シン「ヴィーラの姉ちゃんだからな。ぶっ飛ばす訳にもいかないし、技なしはキツかったよ!」
ヴィーラ「お姉ちゃん相手にそんなことできるなんてさすがですね!」
レジュ「フハハ!面白い少年だ。名はなんという?」
シン「シン!シン・サンダラだ!」
レジュ「サンダラ…?オウコ様の血縁か?!」
シン「それは俺の父さんだ!」
レジュ「そうか…であればその力も納得だ…」
レジュ「いい人を見つけたじゃないかヴィーラ」
ヴィーラ「他にもアラン様やバウス様、シン様のお兄様であるコウ様もお姉ちゃんを助けてくれるために戦ってくれたんです!」
レジュ「父上もオウコ殿の息子であれば許してくれるだろう」
ヴィーラ「…?何の話ですか?」
レジュ「なんだ?婿候補ではないのか?」
ヴィーラ「ち、ちがいます!シン様達はそんな…」
赤面し恥ずかしそうにするヴィーラ
シン「ヴィーラは大切な仲間だ!」
レジュ「仲間…か。」
優しそうな笑顔を見せるレジュ。
レジュ「それより…」
城の下やあちこちで倒れる兵士達
傷ついた城壁
砕けた床
傷だらけのシンとヴィーラ
レジュ「本当に迷惑をかけたみたいだ…」
空には大きな太陽が昇り
暖かな光が差し込んでいた
シン「行こう!コウ兄達が待ってる!」
ヴィーラ「はい!」
______
シン「コウ兄!」
コウ「お。シン!無事で何よりだ。」
シン「コウ兄も勝ったんだね…!」
コウ「あぁ…少し後味はわりぃけどな…!」
玉座の間ではギュスターヴが安らかに眠るように息を引き取っていた。
シン「……そうか。やっと終わったんだな。」
シン「きっとゲンヤおじさん達も喜んでるよ!」
コウ「どうだろうな笑」
コウ「でも。あいつもあいつなりに苦しかったんじゃねぇかな」
レジュ「貴殿がコウ殿か?」
コウ「レジュ第1王女。お初にお目にかかります。オウコ・サンダラの義息で長男のコウ・サンダラです。」
レジュ「堅苦しい挨拶はいい。それよりも国を救ってくれたこと、感謝する」
アラン「おーい!」
大きく手を振りバウスと共にやってくる
アラン「終わったんやな。」
コウ「あぁ。アランもバウスも激しい戦闘だったみたいだな」
アラン「そんなことないで!バウスはこの通りボロボロやが笑」
バウス「うるせぇ…」
シン「バウス!なんか雰囲気変わってねぇーか?!」
バウス「俺にもよく分からない…戦闘中に体の底から湧き上がる獣のような力を感じた…」
アラン「それが獣力や。」
レジュ「その歳で目覚めるとは…恐れ入るな…」
シン「そういえば獣力ってコウ兄も言うけど、なんなんだよ!」
コウ「身体の中に眠る魔力とは別の野生の力みたいなもんだ。シン。先を越されちまったな!」
シン「くそー!俺もバウスに追いつく位強くなるからな!」
バウス「ふん。俺はさらに強くなる。」
レジュ「獣力とは普通9割の人間が覚醒しないままなんだがな…」
ヴィーラ「お姉ちゃん…この人達は規格外です…」
ヴィーラ「でも、だからこの国を救ってくれました!」
レジュ「あぁ。感謝せねばな。」
レジュ「礼をしたい…と言いたいところだが。まずは国を立て直させて欲しい。民を随分不安にさせてしまったようだしな」
コウ「それなら俺らも手伝いましょう。乗りかかった船は最後まで乗らなきゃ気が済まないですからね」
レジュ「国を救っただけでなく、復興にも力を貸してくれるのか…いい男だな。」
コウ「困ってる人を放っておけないだけですよ。」
コウ「な!シン!」
シン「あぁ!なんでも手伝うぞ!」
レジュ「はっ…変わった男達だな…」
コウ「王女様も操られていた時とくらべるとお麗しいですよ」
一瞬で顔を真っ赤にするレジュ
レジュ「か、からかうな///」
コウ「笑顔も素敵ですしね」
レジュ「…なっ///…なにを言うんだ///」
そのままそっぽを向くレジュ
コウ「ん?俺なんか変なこと言ったかな」
アラン「天然の女たらしやな…」
殺伐とした雰囲気から和やかなムードに変わる城内
城の中には閉じ込められていた家臣や大臣達
まだ無事な兵士達や町から連れてこられた町人達もいた。
全員ギュスターヴの洗脳は解けているみたいだった。
兵士「姫様!」
大臣「おぉ…ご無事でなによりです…」
家臣達「傷だらけではありませんか!」
レジュ「そなたらにも苦労や心配をかけた。」
その日、シン達によってレグルス王国は救われた。
だが、失われた命は戻らない。
王国に残されたのは勝利の歓声ではなく、
静かな祈りだった。
______
アリエルガ国
首都ラグノリア
大臣「女王様!女王様!」
アリス「なんじゃ、騒々しい。」
大臣「先日噂されていたレグルス国が戦争の準備をしている件ですが…」
アリス「あぁ。レオジュライのとこの小娘か」
アリス「どうした?まさか我が国に仕掛けてくるほどバカではあるまい。」
大臣「それが…我が国から送っていた密偵からの情報によりますと、どうやら悪神教が関わっているらしく…」
アリス「…悪神教のぉ…相も変わらず、くだらぬ連中じゃ。悪神教が来ようとレグルスをけしかけようと、妾一人で充分じゃ。」
大臣「いえ…それが…解決したとのことでした。」
アリス「解決?小娘にしてはやるではないか」
大臣「いえ…解決したのは雷神の息子達だと…」
アリス「オウコ坊の息子達か!久々に面白い話が聞けそうじゃ。」
アリス「妾に会いに来るよう伝えよ。」
大臣「…は?いや、しかし…」
アリス「ええい!妾は退屈なのじゃ!それにゲンヤの子も、随分いい男に育ったと聞く。」
アリスは上機嫌で口紅を引いた。
アリス「会うのが楽しみじゃ。」
アリス「妾のよい暇潰しになりそうじゃ。」
アリスの紅い瞳が妖しく細まる。
9話読んでいただきありがとうございました。
10話ではレグルス編堂々の完結。
レジュの運命、アリエルガの新たな動き。
次回もお楽しみください。
岡本煌




