第二章レグルス編 8話 終嵐
コウの決意。ギュスターヴの過去。
明らかになる謎。
2人の決着は…
神話×魔法×ファンタジー物語
第8話楽しんでってください。
――轟音。
崩れ落ちる城壁。
黒い雷のような魔力が空を裂く。
その中心。
コウとギュスターヴが向かい合っていた。
ギュスターヴは静かに笑っている。
ギュスターヴ「やっと二人きりだね♩」
コウ「……。」
コウの右手には二本の短剣。
刃に風が纏わりつく。
シュゥゥゥ……
鋭い嵐の魔力。
ギュスターヴは細い長剣を抜いた。
刀身は黒紫。
まるで腐食した骨のような不気味な剣。
そこから血のような液体が滴っている。
コウ「趣味悪ぃ剣だな。」
ギュスターヴ「気に入ってるんだ♩」
ギュスターヴ「これは喰骨っていうんだよ。」
ギュスターヴ「斬った場所から、内側を腐らせる。」
コウ「……胸糞悪ぃ。」
ギュスターヴ「最高の褒め言葉だねぇ♩」
ギュスターヴは笑う。
だが。
その目は笑っていなかった。
コウの脳裏に浮かぶ。
燃える村。
血。
父の最後。
そして。
笑いながら立っていた男。
ギュスターヴ。
コウ「……お前が。」
空気が震える。
嵐の魔力が膨れ上がる。
コウ「父様を殺して村を滅ぼしたあの時から…俺はお前を倒すと決めた。」
ギュスターヴ「うん♩」
あまりにも軽い返答。
コウの殺気が爆発した。
ドンッ!!
地面が砕ける。
一瞬で間合いへ。
ギュスターヴ「速ーー」
ズバァッ!!
嵐を纏った斬撃。
ギュスターヴは後方へ飛ぶ。
だが遅い。
頬が裂けた。
血が舞う。
ギュスターヴ「へぇ♩」
コウ「避けろよ。」
次の瞬間。
コウの姿が消えた。
ギュスターヴ「っ!」
四方から暴風。
残像。
コウが空間を駆ける。
嵐属性。
超高速機動。
ズバッ!!
ズガッ!!
連続斬撃。
ギュスターヴの身体から血が飛ぶ。
ギュスターヴ「ふふっ……!」
だが笑っていた。
ギュスターヴの血が空中へ浮かぶ。
コウ「……?」
血が針へ変わる。
ギュスターヴ「血魔法──血雨。」
ズドドドドドッ!!
無数の血針。
コウ「チッ!」
風を纏い回避。
だが一本が肩を掠めた。
ジュゥゥゥ……
コウ「っ!?」
傷口が黒く腐食していく。
ギュスターヴ「蝕属性は初めてかな♩」
コウ「……なるほど。」
ギュスターヴ「君みたいな速い相手には、こういうのが効くんだよ♩」
コウは肩を見る。
筋肉が壊死しかけていた。
コウ「厄介だな。」
ギュスターヴ「でも君強いね♩」
ギュスターヴ「ゲンヤも見たかっただろうね♩」
ギュスターヴ「君の成長した姿♩」
ピタッ
空気が止まる。
コウの瞳から感情が消えた。
ギュスターヴ「……あ。」
その瞬間。
ゾワッ
本能が警鐘を鳴らした。
ギュスターヴが咄嗟に剣を構える。
だが。
遅い。
ドゴォォッ!!
暴風が爆発した。
ギュスターヴ「がっ……!?」
壁へ叩きつけられる。
コウは静かに立っていた。
黒髪が風で揺れる。
コウ「……父様を知ったように語るな。」
嵐が唸る。
周囲の瓦礫が浮き始めた。
ギュスターヴ「ふふっ……怖い怖い♩」
ギュスターヴは血を拭う。
その時。
コウの背後。
黒い泥のようなものが現れた。
ギュスターヴ「蝕魔法──腐界。」
ドロッ
地面が腐り落ちる。
コウ「っ!?」
足場が崩壊。
その隙。
ギュスターヴが踏み込む。
喰骨が振り抜かれた。
ギュスターヴ「君は怒ると視野が狭くなるね♩」
ガギィィン!!
短剣で受け止める。
だが。
ジュゥゥ……
短剣が腐食していく。
コウ「なっ……!」
ギュスターヴ「終わりだよ♩」
血の魔力が剣へ集中する。
その瞬間。
コウは笑った。
ギュスターヴ「……?」
コウ「やっと捕まえた。」
ドンッ!!
暴風。
ゼロ距離。
ギュスターヴ「っ!?」
コウの短剣が、
ギュスターヴの脇腹へ突き刺さった。
コウ「嵐魔法ーー天穿嵐。」
バゴォォォォン!!
超圧縮された風が内部で炸裂する。
ギュスターヴの身体が吹き飛んだ。
血が舞う。
瓦礫へ激突。
轟音。
静寂。
コウは荒く息を吐いた。
肩の腐食は広がっている。
だが止まらない。
コウ「まだだ。」
瓦礫の中。
ギュスターヴが笑っていた。
血まみれで。
それでも。
嬉しそうに。
ギュスターヴ「やっぱり戦いは最高だ♩」
その瞬間。
ギュスターヴの背後から、
巨大な黒い魔力が溢れ始めた――。
ドクン
まるで心臓の鼓動。
空気が腐る。
瓦礫が溶け、
地面が黒く侵食されていく。
コウ「……っ。」
本能が警告する。
危険。
ギュスターヴはゆっくり立ち上がった。
腹には大穴。
普通なら即死。
だが。
傷口から溢れているのは血ではなかった。
黒い泥。
ギュスターヴ「痛いなぁ♩」
ギュスターヴ「本当に痛い。」
ギュスターヴは笑う。
だがその笑顔は、
これまでよりずっと壊れていた。
ギュスターヴ「でもね。」
ギュスターヴ「痛みって、生きてる感じがして好きなんだ♩」
ゾワッ
黒い魔力が膨れ上がる。
ギュスターヴの身体に、
黒い紋様が浮かび始めた。
腕。
首。
顔。
まるで身体そのものが腐食しているようだった。
コウ「……なんだその姿。」
ギュスターヴ「蝕属性の本質だよ♩」
ギュスターヴ「自分すら喰らう魔法。」
ギュスターヴは喰骨を肩へ担ぐ。
その刀身が脈打っていた。
まるで生き物。
ギュスターヴ「君らはディコルプヌス様の障害になりえる…♩」
ギュスターヴ「なら本気で殺さなくちゃねぇ♩」
ドンッ!!
地面が弾ける。
速い。
今までとは比べ物にならない。
コウ「っ!?」
ギュスターヴが消える。
次の瞬間。
ガギィィン!!
短剣へ衝撃。
コウの身体が吹き飛んだ。
コウ「がっ……!」
壁へ激突。
肺から空気が漏れる。
ギュスターヴ「ほらほら♩どうしたの?」
ズバァッ!!
黒い斬撃。
コウは咄嗟に回避。
だが遅い。
胸が浅く裂けた。
ジュゥゥゥ……
腐食。
肉が崩れる。
コウ「チッ……!」
ギュスターヴ「蝕は止まらないよ♩」
ギュスターヴ「君が死ぬまでね。」
コウは呼吸を整える。
冷静になれ。
怒るな。
こいつはそこを狙ってくる。
だが。
頭では分かっていても。
脳裏に焼き付いて離れない。
燃える村。
倒れた父。
突然殺された母。
ギュスターヴ「ゲンヤは最後まで君みたいな目をしてたよ♩」
コウ「お前は覚えてないのか。父様は…最後は俺に向けて優しそうに笑っていた。」
ピキッ
コウの短剣に、
嵐が走る。
ギュスターヴ「あぁ♩そうだったねぇ♩」
ギュスターヴ「“コウだけは逃がしてくれ”とか言って。」
ギュスターヴ「本当に滑稽だったなぁ♩」
その瞬間。
ドゴォォォォン!!!
嵐が爆発した。
コウの魔力が一気に膨れ上がる。
ギュスターヴ「……!」
瓦礫が浮く。
空が唸る。
暴風。
コウは俯いたまま呟いた。
コウ「……もういい。」
ギュスターヴ「ん?」
コウ「お前と話す価値もねぇ。」
ギュスターヴは笑った。
だが。
初めて。
その笑みに僅かな焦りが混じる。
コウの周囲に、
無数の風刃が現れていた。
数百。
いや。
数え切れない。
ギュスターヴ「へぇ……♩」
コウ「嵐魔法。」
コウが短剣を構える。
風が収束する。
世界が震える。
コウ「暴嵐。」
次の瞬間。
世界が裂けた。
ズガガガガガガガガガッ!!!!
暴れる風の刃が、
空間ごとギュスターヴへ襲い掛かる。
ギュスターヴ「っ──!」
血の壁を展開。
だが。
一瞬で切り裂かれた。
ズバァッ!!
腕が飛ぶ。
ズガッ!!
脇腹が裂ける。
ギュスターヴ「がっ……!?」
止まらない。
暴風が全身を刻む。
ギュスターヴは本能で理解した。
死ぬ。
ギュスターヴ「蝕界──!!」
黒い魔力が広がる。
周囲全てを腐食する結界。
風すら腐り落ちる。
だが。
コウは止まらない。
コウ「父様の痛み。」
一歩。
踏み込む。
コウ「村の奴らの叫び。」
さらに一歩。
ギュスターヴの目が見開く。
コウ「全部。」
風が収束する。
短剣へ。
極限まで。
コウ「あの世で償え。」
ギュスターヴ「っ!!」
コウの姿が消えた。
そして。
ズバァッーー
静かな斬撃。
ギュスターヴの胸が裂けた。
時間が止まる。
黒い魔力が揺らぐ。
ギュスターヴ「……ぁ。」
コウは背を向けていた。
短剣を振る。
血が飛ぶ。
コウ「嵐極・終嵐」
ドゴォォォォォォン!!!!
ギュスターヴの身体を、
暴風が飲み込んだ。
コウは哀れみの目をしていた。
村を滅ぼされた
母を殺された
父を殺された
恨みや怒りじゃない、ただ悲しそうな表情でギュスターヴを見つめた。
ギュスターヴ「…その目…懐かしいや…」
ギュスターヴ「……あの時と同じだ」
───ゲンヤの目と。
____________
異種大戦が始まる10年前。
ギュスターヴは最悪の家庭に産まれた。
父は酒を飲むと母に毎日暴力を振るい、母は自分を捨てて逃げた。
父の暴力の矛先は、
残された自分に向けられた。
毎日の暴力。
怒声。
生まれて来なければよかった。
何度もそう思った。
それでもギュスターヴは殺されないだけマシだと思っていた。
酒を飲んでない時の父は優しい時もあった。
ある日金貨を拾い父に渡した。
父は初めてギュスターヴを褒めた。
嬉しかった。
それからギュスターヴは父に褒められるためなら何でもするようになった。
そんなある日、戦争が始まった。
ギュスターヴの父は強かった。
戦闘能力を認められ、虐殺部隊の隊長を任された。
戦いの時は毎回連れていかれた。
父の代わりに斬られ、殴られ、怪我をすると
よくやったと褒められた。
それが嬉しかった。
そんな時とても強い男が虐殺部隊の砦をひとりで陥落した。
父は責任を恐れ、ギュスターヴを連れて逃げた。
ギュスターヴはまだ、自分が愛されていると思っていた。
だが強い男は父を逃がさなかった。
強い男は言った
ゲンヤ「子供を盾にしながら戦い、あげく逃げるとは…外道が。」
ギュスターヴは必死に父の盾になろうとした。
父はギュスターヴを蹴り飛ばした。
父だけが走って逃げるその後ろ姿をみて初めて自分は愛されていなかったと気付いた。
強い男はそっとギュスターヴを抱き締めた。
そして痣だらけの体を見て涙を流し、父を追いかけた。
そして、殺した。
強い男は戻ってきてギュスターヴに告げた。
ゲンヤ「君のようにまだ幼い子供に辛い思いをさせてしまいすまない。」
ギュスターヴは意味がわからなかった。
なぜ謝るのか?強い男が頭を下げるのか?
幼いギュスターヴ「どうしてお父さんを殺したの?」
幼いギュスターヴ「僕はこれから誰の命令を聞いたらいいの…」
強い男はギュスターヴを抱きしめた。
その温かさはギュスターヴが経験したことがないものだった。
悲しそうな表情でギュスターヴを見つめたゲンヤ。
ゲンヤ「私と共に来ないか?」
差し伸べられる手
掴もうとも思った。
でも父を裏切れば自分が殺される。
事切れた父の亡骸の元へ走る
もう動かないとわかっているのに
ゲンヤ「すまなかった。君にとっては父親で家族だもんな」
頭を撫でる。
ゲンヤ「なにかあったらアリエルガ国の月隠れの村まで来い。」
幼いギュスターヴは強い男を見つめたまま動かなかった。
強い男は悲しそうな表情で
哀れみの目を向け
小さく手を振りその場を後にした。
幼いギュスターヴ「やっぱりついていけばよかったのかな…」
ギュスターヴは父が持っていた刀を握りしめていた。
??「おやおや。お父さんが殺されたのかい?可哀想に」
幼いギュスターヴ「だ…れ?」
男はにこやかで優しそうな顔をしていた。
しかしドス黒い何かを感じた。
??「よし。このままだと可哀想だし君もお父さんのところへ送ってあげよう」
幼いギュスターヴ「え?」
男はギュスターヴを捕まえ、殴り続けた
笑いながら、時に罵りながら
幼いギュスターヴ「ご…ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
何度も謝ったが男はやめなかった
??「反逆者の子として産まれたのを後悔しなさい」
次の瞬間ギュスターヴからでた血が彼を守った。
血は男の胸を貫いた。
男の顔は穏やかな表情から一変し、ギュスターヴの魔法を見て悪魔のような顔付きに変化した。
幼いギュスターヴ「あ…」
ディコルプヌス「素晴らしい。我が名はディコルプヌス」
先程とは違う見た目に変わる男
その姿は悪魔を彷彿とさせる
幼いギュスターヴ「だれ…」
ディコルプヌス「私と共に来い」
差し伸べられた手。
それは、先ほど差し伸べられた温かな手とは違う。
冷たく冷酷な手だった
それでもその手をとってしまった。
殴られた痛みが父親の面影をみせたのか、
先程手をとらなかった後悔からなのか、
ギュスターヴは男と共に闇へ消えた。
ディコルプヌスの元では地獄のような訓練や実験の毎日だった。
辛かった。
逃げたかった。
苦しかった。
彼の心は壊れることで正常を保てた。
__________
コウは息を荒げる。
復讐を果たしたはずだった。
なのに胸の奥に残ったのは達成感ではなく、どうしようもない虚しさだった。
コウ「お前…なんで最後俺の技をわざとうけた。」
ギュスターヴ「…なんのことかな♪僕はもう戦えないなぁ♪君強いね♪」
コウ「ずっと前に父様から聞いたことがある。戦争の時に救えなかった子供がいたって。無理やりでも連れてくればよかったっていつも言ってた」
コウ「それお前だろ」
ギュスターヴ「さぁ♪覚えてないな♪」
コウ「なんで父様を殺し…村を滅ぼした。」
ギュスターヴ「なんで…かな♪」
コウ「は…答える気はねーか。」
コウ「俺はお前みたいにはならない」
ギュスターヴ「それで…いいと思うよ♩」
ギュスターヴ「もし…あの時…」
ギュスターヴ「僕が手を取ったのが、君のお父さんだったら……」
ギュスターヴ「違う人生も……あったのかな……」
コウ「さあな。」
ギュスターヴ「恨んでた…だろ。仇取れてよかったね…」
コウ「恨んでたさ。正直今でも許せねぇ。」
コウ「でも…俺は…お前を許す。」
コウ「それが父様との約束だから。」
コウは静かにその場を後にした。
ギュスターヴは夢を見た。
ゲンヤ達と幸せに暮らす夢。
そこには暴力も怒声もない。
あるのは暖かな笑顔と幸せな時間。
もし手を取る人を間違えなければ
きっと…
_________
魔大陸
ディコルプヌス「ギュスターヴが負けたな」
謎の老人「ふぉふぉふぉ!散々目をかけて強い体に作り替えてやったというのに情けないですのぉ」
妖艶な女「ギューちゃん可愛かったから好きだったんだけどなぁ♡あ!もちろん私はディコル様一筋ですよぉ♡」
堅物な男「あいつはゲンヤを殺すのをためらっておりましたからな。」
ディコルプヌス「ギュスターヴは心を壊さないと自分を保てなかった…故に我々幹部の中では最弱だったのだ」
ディコルプヌス「くだらぬ友情ごっこ。自分を助けようとしてくれたゲンヤは殺したくないなどと言っておったな…」
謎の老人「父の仇を討て、ゲンヤを憎め、月隠れの村を壊せと何度も刷り込みましたからのぉ。全てが終わってからは余計に壊れておった!ふぉふぉふぉ!」
ディコルプヌス「所詮はただのコマにすぎん。獣力も覚醒できぬ失敗作だったのだから」
魔大陸では不穏な笑い声だけが響く
8話読んでいただきありがとうございました。
9話ではシン&ヴィーラvs暴走レジュ
空に降り注ぐ雪は心を溶かす…
次回もお楽しみください。
岡本煌




