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第一章旅立ち編 2話 喪失の先にあるもの

死んだはずの太陽が生まれ変わったのは…

大空に惑星が散りばめられた、魔法が当たり前の世界。

世界の謎が少しずつ動き出す。


神話×魔法×ファンタジー物語


第2話楽しんでってください。

庭を駆け回る二人の少年。


黒髪の少年が、

笑いながら餅を抱えて逃げる。


その後ろを、

金と黒の虎模様の髪をした少年が追いかけていた。


シン「待てよーー!コウ兄!」


コウ「ほら!早くしないとお前の分の餅も食っちまうぞ!」


縁側では、

白と黒の長髪の女性が優しく笑っている。


ユキ「大丈夫よ〜。ちゃんと皆の分あるから」


――俺の名前は太陽。


今は“シン”として、

この世界で生きている。

生まれ変わってから5年の月日が流れた。


俺は、崩壊していく地球で死んだ。

化け物になった親父に殺され、女神と出会い、気付けば“シン”として生まれ変わっていた。


空を見上げる。

青空の向こうには、巨大な星々が浮かんでいた。


赤い星。

輪を持つ星。


まるで宇宙そのものが、空に貼り付いているみたいだった。



コウ「どうした?シン!」


この黒髪の少年はコウ・サンダラ。

俺の兄にあたる人物。


と言っても血は繋がっていない。


コウは元々忍者の末裔でサンダラ家とは親戚にあたる関係らしい。


しかし、俺が生まれる一年前。

コウが住んでいたシノビの里は滅ぼされた。


たった一人生き残ったコウは、俺の父さんと母さんに引き取られた。


シン「いや…空に浮かんでる天体がたくさんあるなって…」


コウ「天体に興味があるのか!よし!兄ちゃんが教えてやる!」


コウは、空に浮かぶ天体について楽しそうに話し始めた。


水星、火星…聞き馴染んだ言葉もたくさんある。


コウ「そして大きく輝く星!あれが太陽だ!」


シン「太陽…」


久しぶりに見た太陽は強く大きく輝いていた

俺のいた地球ではもう5年以上閉ざしたままだったからだ。


コウ「星にはそれぞれ神様が住んでるらしい!昔話だし俺は見た事ねぇけど」


シン「神様…か」


俺が太陽だった時。

幼い時に空を父と見上げたことがある。


その時は肉眼で見える天体は太陽と月以外見たことがない。


シン(俺の知ってる地球では…ないんだろうか?)


コウ「シン!見てみろ!いくぞ!」

コウ「黒嵐!」※コクラン


コウはおもむろに手を広げて庭にある桃色の花が咲く木に黒い暴風を生み出した。


シン「す、すげぇ…」


コウ「すげぇだろ!これが魔法だ!」


この世界では魔法が使えるのが当たり前らしい。


シン「魔法って皆使うけど俺も使えるの?」


コウ「使えるさ!ただ努力が必要だけどな!」


シン「努力…か。」

(太陽だった時に努力なんてしたことがない。)


(壊れていく地球で生きていくので精一杯だった…)


コウ「まぁ才能もいるが…お前なら大丈夫だよ。」


シン「どうして?」


コウ「父さんの子どもで、俺の弟だからだ!」


そう言いながら屈託のない笑顔を見せるコウ兄。


その笑顔は太陽のように眩しかった。


コウ「自分の努力が強さに直結する。それが魔法だ!」


普通転生したら特殊な力を与えられると思ってた。

だがそんなことはないらしい。


シン「筋トレみてぇだな…」


コウ「筋トレも大事だぞ!肉体が強くないと強力な魔法には耐えられないしな!」


シン「てか…コウ兄…あの桃の木は母さんが育ててたやつじゃ…」


コウ「…し、しまった。母さんに怒られる!シン!頼む!俺がやったって言わないでくれよ!」


焦り出すコウ兄を見て少しだけからかいたくなった。


シン「どうしよっかな〜!」


コウ「た、たのむよ!」


俺とコウはとても仲が良い。


血は繋がっていなくとも心は誰よりも繋がっている。


そしてコウはこの世界の知識や常識も幅広く教えてくれる。


この世界の文字はやたら難しくて、覚えるのが本当に大変だ…。


シン(勉強は生まれ変わっても嫌いなのはかわんねーや…)


オウコ「おりゃーー!捕まえたぞー!お前ら!」


コウ・シン「う、うわぁー!」


ガタイがよく、全身が分厚い筋肉で覆われている大男。

金と黒が混じった、針金のように硬そうな髪。


傷だらけの体。


だが、誰よりも優しく子どもを抱きしめる大きな手。


この人はオウコ・サンダラ。

俺の父さんだ。


俺やコウが生まれるよりも前にあった異種大戦という大きな戦争で英雄と呼ばれ、”雷神”と言われる男らしい。


俺の目には、母さんと俺たちが大好きなただの親バカにしか見えないが…


俺が小さい時にはハイハイができるようになっただけで天才だ!と村中に騒いでいた程だ。


ユキ「ほんとにもうあなたったら!シンとコウが大好きね〜」


白く透き通るような肌、その肌に負けない雪のような白と漆黒の髪。


華奢で可愛らしい容姿。


子どもと夫を愛してるのが伝わってくる声。


この人はユキ・サンダラ。

俺の母さんだ。


少しおっちょこちょいで天然っぽい所があるが明るく素敵な女性だ。


ユキ「ちょ、ちょっと待って…あのボロボロになった木はもしかして…」


コウ「やばい!逃げろーー!」


シン「待ってくれよ!コウ兄!」


ユキ「2人ともー!!イタズラばっかりして!」


俺はシンという少年として何気ない日常を過ごしていた。


太陽として生きてきた時の記憶はそのまま残っている。


_________


女神ルリ「全てが終わればあなたの望む世界が手に入る。」


世界を救え。


_________


その言葉を胸に抱えながら今まで過ごしてきたが…


シン(この平和な世界のどこを救えって言うんだ…?)


俺が生まれ変わってから5年の間に得た知識をまとめると


・この世界は魔法や不思議な力に溢れている。


・崩壊する前の地球にどこか似ているが俺の知る地球ではない。


・人類が住める大陸は、ノムアと呼ばれる一つだけ。


・ノムア以外の大陸は魔大陸と呼ばれ、まだ見ぬ秘境や魔境が眠っている。


・そして俺が生まれたこの地はアリエルガ国南端に位置する星牙の村


まだ右も左も分からないこの世界で俺は何をすればいいのか…


だが俺には目的がある。


ミクにもう一度会う。


俺の望む世界はミクがいる世界だ。


ミクにもう一度会えるなら世界でもなんでも救ってやる。

__________


人工の光がないこの村では星や天体が言葉では表せないほどの美しさで輝いている。


シン「綺麗だな…」


ユキ「シンったら本当に星が好きねぇ」


シン「うん…」


星はいい。

空を見てると星たちの光が俺の全てを洗い流してくれる気がする。


ユキ「ゲホッゲホッ」


シン「母さん!大丈夫?」


ユキ「ゲホッ…平気平気!少し風邪気味みたい」


シン「無理しないでよ」


ユキ「そうね。シンは大きくなったら何かなりたいものがある?」


シン「わからない…でも…」


ユキ「ん?」


シン「俺にしか出来ない事がきっとある気がするんだ。」


ユキ「ふふっ!そうね。シンにしか出来ないことがきっとあるわ。」


コウ「母さん!シン!父さんが明日森に魔物狩りにいくらしい!」


ユキ「あら。じゃぁ明日はお弁当作らなきゃ!」


コウ「俺も手伝うよ!料理好きなんだ!」


ユキ「あら、じゃぁコウの将来は料理人かしら?」


コウ「料理人かぁ!いいな!アリエルガの首都で大きなお店を持ちたい!」


コウ「母さん、父さん、シンの3人を俺の店に絶対招待する!」


ユキ「楽しみだわ〜!ゲホッゲホッ」


機械音のような咳が何度も母を苦しめる。


シン「母さん…?ほんとに大丈夫?」


ユキ「夜風にあたりすぎたのかしら…今日はもう休みましょうか」


シン「うん」


コウ「よし!もう寝よう!明日はお弁当作ったり、森に行くから早く寝なきゃ!」


コウ「シンも行くだろ?」


シン「うん!行きたい!」


ユキ「じゃぁお寝坊しないように早く寝ましょうか。」


コウ・シン「はーい!」


何気ない幸せな会話。

でも俺は知ってる。


“幸せ“ってのは長くは続かないって。


_____________


次の日の朝。


オウコ「よし!お前ら!準備はいいか!」


コウ「おう!」


シン「うん!」


オウコ「ではフォルナの森魔物探索にしゅっぱーつ!」


ユキ「あなたたち気を付けてね〜!ゲホッゲホッ!」


苦しそうな咳と共に胸を何度も撫で下ろす。


オウコ「おいおい!大丈夫か、ユキ?」


ユキ「えぇ、平気。なんだかこの間から咳が酷くて…お医者様にかかったほうがいいかしら?」


オウコ「そうだな。酷くなりそうなら医者を呼ぼう!家に親父やライとオトもいる!なんかあったらいつでも頼れ!」


ユキ「そうするわ。あ、これお弁当。」


オウコ「うおぉ!妻の愛妻弁当…感激だ。」


コウ「俺も作ったよ!一緒に!」


オウコ「なにぃ!コウも作ったのか?!」


オウコ「そりゃぁ益々楽しみだ!」


シン「父さんに全部食われそう…」


ユキ「大丈夫よ。たくさんあるから笑」


コウ「父さんはあるもの全部食い尽くすからな…」


オウコ「おいおい…さすがに子どもたちの分まで食べないよ…」


オウコ「多分。」


目が泳ぐ父。

まぁこのガタイ維持するのにも相当なカロリーいるだろうしな…


シン「たくさん食べたらその分魔物たくさんとらなきゃね。」


オウコ「そこは俺の得意分野だ!任せろ!」


オウコ「じゃ!行ってくる!」


コウ・シン「いってきまーす!」


ユキ「いってらっしゃ〜い!」


ユキの大きく手を振るその姿を見るのが

これで最後だなんて

誰も想像していなかった。


________


星牙の村から南西へ進むと壊滅した村とコウの本当の両親が眠る場所がある。


焼け焦げた家。


崩れ落ちた瓦礫。


草に覆われた石畳。


川のせせらぎだけが静かに響いている。


人はいない。


笑い声もない。


だが不思議と、この村は冷たくなかった。


誰かが畑を耕し、


誰かが夕飯を作り、


子どもたちが走り回っていた。


そんな当たり前の日々の名残だけが、

まだこの場所に残っている気がした。


まるで村そのものが、誰かの帰りを待ち続けているようだった。


コウ「…父様…母様…」


苔の生えた石碑の前で立ち尽くす。


その肩が小さく震えていた。


ぽたり。


落ちた雫が土を濡らす。


コウは慌てて目元を拭った。


だが次から次へと涙が溢れてくる。


コウ「……会いてぇよ……」


嗚咽混じりの声が静かな廃村に消えていった。


オウコ「ゲンヤ兄。コウは立派に育ってるぞ。心配するな。」


シン「…」


胸が痛かった。


なんて言葉をかければいいのかわからない。


大丈夫。


そんな言葉じゃ何も変わらない。


会いたい人に会えない苦しさを。


二度と声が聞けない悲しさを。


俺も知っているからだ。


太陽だった頃。


失った人達の顔が脳裏をよぎる。


シンはそっと拳を握った。


コウはいつも笑っている。


俺の前では強い兄貴でいようとする。


だけど本当は


まだ10歳の子どもなんだ。


コウ「ふぅ!かっこわりぃとこ見せたな!もう大丈夫だ!」


鼻水をすすり、涙を拭きながら笑顔を見せるコウ。


10歳の子どもがどれだけの我慢をしてきたのだろうか。


俺は胸が苦しくなる。


コウの村は俺が生まれる1年前何者かによって滅ぼされた。


オウコが助けに駆けつけた際はコウだけが生き残っていたらしい。


コウ「よし!もう行こ!」


オウコ「いいのか?」


コウ「うん!俺も泣かずに強くならなきゃ!」


オウコ「泣いていいんだ。強くならなくてもいい。」


オウコ「コウとシンには戦いなんかない、幸せな世界で生きて欲しいんだ。」


オウコ「それが俺やゲンヤ兄の願いだからな!」


コウ「父さん…」


シン「コウ兄はさ、やっぱり復讐するの?」


シン「その……ゲンヤおじさん達を殺した人達に…」


コウ「うーん。最初の頃は復讐してやる!って思ってたけどな…」


コウ「父様が最後死ぬ前に言ってたんだ。」


コウ「人を許せる人間になれ……って!」


コウ「今は意味がよく分からないけど、シン達と過ごすこの時間が最高に幸せなんだ!」


コウ「だから今は考えてないよ!」


簡単に整理できる問題じゃない。


それでも拳を握って笑おうとするコウを見て、

俺はただ、強い人だと思った。


________


星牙村北部にあるフォルナ大森林には、多くの魔物が生息している。


ピピッ!ピピッ!


角が生えた兎の魔物ツノミミ


コウ「クソッ!全然捕まらない!」


シン「速すぎる…」


オウコ「ハハハ!ツノミミに苦戦するなんてまだまだだな!」


オウコ「よし。手本見せてやる。」


シュバッ!!


ピピッ!?


ものすごい速さでツノミミを捕まえるオウコ。

その速さはまるで雷のようだった。


オウコ「どーだ!すげぇだろ!」


コウ・シン「すげぇぇぇ!!」


オウコ「よし、動いたら腹減ったし飯にするか!」


コウ「早くない?」


シン「まだ来て2時間もたってないよ…」


オウコ「そうか?」


グォォオオオオオ。


シン「なんの音?!魔物?!」


オウコ「すまん!俺の腹の音だ!」


燃費が悪い男だと思った。

3人は森の木陰でコウとユキが作ったお弁当を楽しむ。


オウコ「美味い!!美味すぎる!!」


コウ「それは俺が作った肉巻き!」


オウコ「この卵焼きは?」


コウ「それは母さんが作ったやつ!」


オウコ「美味い!この甘めの味付けが最高なんだよ!」


コウ「母さんの料理にはまだまだ敵わないや!笑」


シン「……?!」

美味い。美味すぎる。こんな美味い卵焼きや肉巻きなんか食べたことがない。


コウ「どうだぁー?シン!美味いだろ?」


シン「美味い…!!めっちゃ美味しいよ!」


オウコ「いっぱい食べろ!そして俺よりデカくなれよ!2人とも!」


ギギギギ!


コウ「!!!?」


その音に真っ先に気付いたのはコウ。

ものすごい速さ…先程のオウコよりも早い速度で木の影に隠れる。


ゴキブリとセミを混ぜたような見た目。

ゼミローチが現れる。


体長は30cm程だが群れで行動する上、俺が元いた地球のゴキブリと比べると大きいためかなり気持ち悪い。


シン「コウ兄?」


コウ「助けてくれ!父さん!早く倒して!虫だけは無理無理無理無理!!!」


コウは虫が大の苦手だ。


オウコ「そんな慌てるな!虫は火に弱い!こうすれば…」


オウコが火のついた焚き木の1本をゼミローチに投げる。


ものすごい速さで森の奥に消えていった…


オウコ「ほら!もう大丈夫だぞ!」


コウ「助かった…」


シン「ほんとに虫だけはダメなんだな…」


コウ「あれはこの世の物じゃない。」


コウ「化け物だ…」


オウコ「化け物ではないだろ…」


グォォォォォォォ!!!


コウ「なんだ?!」


シン「父さんまたお腹すいたの?」


オウコ「違う…!」


そこに現れたのは体長3mはある巨大な熊

黒褐色の毛

右目には古傷

巨大な爪

口からはヨダレが滝のように流れ出ている


コウ「やべーだろこれは…」


シン「死ぬ…」


オウコ「ガルグリズか!こいつの肉は美味い!」


オウコ「しかも傷持ちってことは相当長生きの個体だな」


オウコ「なら脂も旨味もたっぷりだぞぉ!」


こちらもまけじとヨダレを垂らす。


シン(こんなでかい熊倒せるのか…?!地球でも見たことない…)


オウコ「ハァッ!」


一瞬だった。

オウコは魔法すら使わず、己の拳だけでガルグリズの腹部を撃ち抜いた。


グァァァ…!


一撃で倒れる熊。


オウコ「よし!大物もとれたし!今日は帰るか!」


体重2000kg以上はある個体を軽々と持ち上げる。


やはりこの男は、“雷神”と呼ばれるだけの怪物なのだと改めて実感した。


_____________


星牙の村に戻ったシン達。

家に戻ると医者達が大勢いた。


オウコ「なんだ!?一体何があった?!」


老人の声「オウコや、ちょっと来てくれんか」


コウ「あ!じぃじ!一体どうしたの?」


シン「じぃじ!もしかして母さんになにかあったの?!」


老人の声「コウ、シン…。少しお父さんと大事な話がある。ライとオトと待っててくれるか?」


老人の声「ライ、オト、2人といてやってくれ。」


ライ・オト「かしこまりました。オキナさま。」


この老人はオキナ・サンダラ。

俺らの祖父だ。


オウコの父親でもあり、昔は雷帝と呼ばれるほど恐れられた武人だったらしい。


そしてライとオト。

ライは顔を隠していて何考えてるか分からないが父のオウコとは腐れ縁の友達らしい。

祖父であるオキナの側近を務めている。


オトは美人でキツそうな顔をしているが魔法の勉強や世界の知識を教えてくれる。


俺らの家庭教師みたいな人だ。


ただ…肌の露出が多く目のやり場に困る。


ユキとは同郷で姉のように慕っている。

ライと同じくオキナの側近を務めている。


シン「母さんになにかあったの?!」


ライ「ユキさんが倒れたんだ。」


コウ「母さんが?!」


シン「そんな!!早く母さんのとこに行かなきゃ!」


ライ「今は会うことは出来ないらしい。少し俺らと待とう。」


オト「シン…コウ…大丈夫よ。少し体調が悪いだけ。ユキちゃんは強いもの!すぐよくなるわ。」


_____


オウコ「親父!一体ユキに何があった?!」


オキナ「お前らを見送った後急に咳が酷くなってな…倒れてすぐ医者を呼んだんじゃ…」


医者「オウコ様…落ち着いてお聞きください。」


オウコ「落ち着いてられるか!!一体どうしたんだ?!」


医者「この病は星蝕病と呼ばれています…」


医者「アリエルガ国の首都ラグノリアや他の国でも病人が増えており現在有効な治療法はありません……」


オウコ「治療法がないだと?!どういう事だ!」


医者「発生原因も発症も、感染するのかさえわからない謎の多い病気なんです…」


オウコ「見守る事しか出来ないってのか…?」


医者「そしてこの病の恐ろしい所は致死率100%な所です。」


オウコ「ふざけるな!!!!病気を治せないなんて!!それでも医者なのか!!!」


医者に掴みかかるオウコ。


オキナ「やめんか!!お医者様に掴みかかっても仕方ないじゃろ!」


オウコ「す、すまねぇ…」


医者「いえ…お力になれず大変申し訳ございません。咳を和らげる薬は出しておきます。」


医者「後は一刻も早く治療法が見つかればいいのですが…」


オウコ「くそっ…一体なんで…」


ユキ「ゲホッゲホッ…あなた帰ったのね...ゲホッ」


オウコ「ユキ!?大丈夫なのか!」


寝室から苦しそうに起き上がってくるユキ


ユキ「ごめんなさい…こんな病気にかかってしまって…」


オウコ「大丈夫だ!安静にしてろ!必ず俺が治す手がかりを見つけてやる!」


勢いよく部屋を飛び出すオウコ。


オキナ「まったくあやつは…」


オキナ「ユキさんすまんの…」


ユキ「いえいえ…あの人は私や子どものためなら何でもする人ですから…ゲホッゲホッ」


シン「母さん!!」


コウ「母さん大丈夫?!」


ユキ「シン…コウ…。ごめんね、お母さん病気になっちゃった…」


微笑む母の姿はいつもより弱々しく

元気がなかった。


__________


母さんが病に倒れてから1年。


父さんは母さんの病を治すため、あちこちの国を回っていた。


少しでも何か手掛かりを…


焦り、悩み、それでも走り続ける姿は、ただ一人の女性を守ろうとする男の姿だった。


シン「母さん無理しないで、休んでて?」


ユキ「少しでもコウとシンの…ゲホッ…そばに居たくてね。」


ユキの咳は、

日に日に増えていった。


夜、

俺たちが寝静まった後も。


苦しそうな咳の音が、

ユキの寝室から聞こえてくるようになった。


ユキ「シンとコウが大きくなっていく姿をみるのが何より嬉し…ゲホッゲホッ」


シン「か、母さん?!」


オト「ユキちゃん!!」


コウ「母さん!大丈夫か?!」


梅雨も明けた頃。母さんが倒れ動けなくなった。


母さんは歩く事もできなくなった。


食事も喉を通らず、機械音のような咳だけが響く。


母さんが倒れてから3日後、父のオウコが帰ってきた。


オウコは一目散にユキの元へ駆け寄ると、すぐ俺らの元に来た。


オウコ「よく聞け。お前ら。母さんは恐らくもうそんなに長く病気とたたかえない。」


シン「そ、そんな…」


コウ「どうにかして助ける方法はないの?!」


オウコ「未知の病気だ。俺にもどうしようもない…が一つだけまだ確かめてない場所があるんだ。」


シン「確かめてない場所?」


コウ「まさか…!絶対だめだよ!父さん!魔大陸は危険すぎる!」


オウコ「それしかない。それに父さんが強いのはお前らが1番わかってるだろう!大丈夫だ。」


コウ・シン「父さん…」


オキナ「オウコ。魔大陸にいったとてユキさんの治療法を見つけるアテがあるんじゃろうな」


オウコ「アテ…ねぇ。眉唾な情報ならあるが確信なんてねぇよ。」


オキナ「じゃったら、そんな危険な場所に…」


オウコ「親父。俺はさ、自分の大切な女が苦しんでる時に何もしてやれないなんて…そんな情けない背中をこの子らに見せたくねぇんだ」


オキナ「しかし、シンはまだ6歳じゃ!コウも11になったばかり!ユキさんに万が一なにかあってそのうえお前までなにかあったら…」


オウコ「大丈夫だ。俺だぜー?雷帝の息子で、あんたを超える雷神の異名まで持ってるこの俺がそう簡単にくたばるかよ」


オキナ「し、しかし!」


オウコ「あんまり時間はねぇ。行ってくる。既に12国王の承認はとってあんだ」


オキナ「まったく…言い出したら聞かないのは昔からじゃな…」


シンとコウを抱き上げるオウコ。


オウコ「俺は欲張りだからよ、コイツらとユキと家族みんなで笑いあって過ごしてぇんだ。」


コウ「父さん…」


オウコ「コウ!シン!すぐ帰ってくる!母さんを頼む。」


シン「父さん!!」


オウコ「ん?」


俺はこの背中を知ってる。


太陽だった時に見たことがある。


誰かのためになにかを成し遂げようとする背中。


でも太陽の父は帰ってこなかった。


行かせたらだめだ。


そう思っても行かないでなんて言えなかった。


シン「帰って…きてよ」


オウコ「あぁ!すぐ帰ってくるさ!いってきます!」


コウ「父さん!俺がシンや母さんを守るから!早く帰ってきてよ!」


こちらを振り向くことなく、

父さんは片手を上げた。


空は、

まるで引き止めるみたいに泣き出していた。


突然降り始めた雨が、

父さんの背中を濡らしていく。


その背中は、

寂しそうで。


それでも、

誰よりも勇敢に見えた。


ユキ「あなた…ごめんなさい…私のために…」


_________


父のオウコが魔大陸へ行き1年。

未だなんの連絡も手掛かりもなかった。


ユキ「ゲホッゲホッゲホッゲホッ!」


母さんの咳は悪化する一方だ。


シン「母さん…」


手を握る。その手は以前よりも少し冷たかった。


コウ「父さんまだ帰ってこないのかな…」


シン「少しでもよくなるといいんだけど…」


栄養が取れない母さんの体はどんどん痩せ細っていった。


_______________


さらに1年後…


父さんが魔大陸へ向かってから二年。

俺は8歳になり、コウ兄は13歳になった。


未だ父のオウコは帰ってこない。

それどころか生存確認や連絡の一つもない。


祖父のオキナが国に捜索申請をだしたが

国にも魔大陸に人を探しに行ける余裕や探しに行けるほどの力を持った人材がいないという理由で断られた。


シン「父さん帰ってこないね」


コウ「あぁ…」


シン「もう帰ってこないのかな…」


コウ「そんなわけあるか!あの父さんだ!きっと無事だけど、なにか事情があるんだよ!」


ユキ「シン…」


シン「どうしたの!母さん!」


コウ「母さん無理するな!あまり喋らない方がいい!」


ユキ「お父さんを信じてあげて…」


ユキ「大丈夫…ゲホッゲホッ」


ユキ「あの人はきっと…帰って…」


握っていた母さんの手が力なくスルリと落ちる。


すぐに握り返した。


だがその手にもう体温はなかった。


シン「母さん…?」


コウ「そんな……」


コウ・シン「母さん!!!」


2人の母を呼ぶ叫び声が家中に響く。


享年33歳。

ユキ・サンダラ。

最後まで愛する人を信じ、子ども達を不安にさせまいと笑った。

美しい母だった。


________

7月。

日差しが強くなり汗が額に滲み出してくる季節。


そんな中ユキの葬式が執り行われ多くの人が参列した。


しかしそこにはやはりオウコの…父の姿はなかった。


ユキの葬式が終わりコウがシンに問う。


コウ「シン!お前は父さんに会いたいか!?」


シン「そりゃ会いたいよ!」


コウ「じゃぁ俺らで探しに行こう!」


シン「さ、さがすってどうやって」


コウ「魔大陸に行くぞ。」


シン「無理に決まってるじゃないか!俺らの力じゃ…」


コウ「強くなるんだ。俺らが魔大陸に行っても大丈夫だって証明するために!」


コウ「それに…母さんと同じ病気の人達を放っておけば俺らみたいな想いをする子どもが増える」


シン「コウ兄…わかったよ!強くなろう!」


コウ「あぁ!!」


コウは真っ直ぐな男だった。


そんな男に影響されたのか俺はミクにもう一度会う以外にも目標ができた。


父さんを探し、母さんと同じ病気にかかった人達を救うための手掛かりを見つける事。


そのためには魔大陸に行く必要がある。


これが世界を救うに繋がるかはわからない。

それでももうただ落ち込むだけなんて…


後悔するだけなんて嫌だった。


母さんを失った悲しみは、消えない。


父さんはまだ帰らない。


それでも俺たちは、もう立ち止まらない。


父さんを探すため。


星蝕病を止めるため。


俺たちは、強くなることを誓った。


そして俺とコウは祖父であるオキナや、ライとオトに地獄のような修行をつけてもらった。


血が滲もうが、


骨が軋もうが、


俺は修行をやめなかった。


倒れても立つ。


吐いても走る。


拳が壊れても、


また握る。


弱いままじゃ…誰も守れない。


コウ兄は15歳になると、

アリエルガ王国首都ラグノリアへ武者修行に向かった。


_________


そして3年後。


帰ってきたコウ兄は、

もはや人間離れした怪物だった。


父さんより大きくなった背丈。


何度手合わせしても、

俺は一度も勝てなかった。


それでも俺は、

そんな兄に食らいつくように修行を続けた。

______________


そしてさらに2年後…


コウ兄は20歳

俺はシンとして15歳になった。


旅立つ時がやってきた。



〜魔大陸〜

世界各地で暗躍する禁忌の宗教組織

悪神教


黒い霧が蠢く。


まるで空間そのものが腐っていくようだった。


その中心に、

ひとりの男が座っている。


赤く光る瞳。


禍々しい魔力。


彼の背後では、

異形の獣たちが低く唸っていた。


謎の男「例の計画は順調だろうな」


異様なオーラを放つ男が問う。


謎の老人「ふぉふぉふぉ!全てがディコルプヌス様の計画どおりですぞぉ!」


妖艶な女「ちょっと〜!ディコル様〜!私頑張ったんだからご褒美ほしぃ〜♡」


堅物な男「黙れ!お前はいつもディコルプヌス様に無礼な態度をとりおって!」


軽薄な男「まぁまぁいいんじゃない♩仲間同士で喧嘩してもしょーがないでしょ♩」


ディコルプヌス「くふふ…いずれこの世界の全てが俺のものになる。この腐りきった世界を変える新たな神に私がなる。」


ディコルプヌス「偽りの神々は滅びた。これからは違う。“真の神は私だ”」


ディコルプヌス「なぁ……雷神よ。主もそう思わぬか?」


オウコ「………………」

第2話読んで頂きありがとうございました。


第3話では残された家族との別れ、そしてシン達を導く新たな出会いが…

次回もお楽しみください。


岡本煌(オカモトコウ)

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― 新着の感想 ―
世界観がしっかりしてますね。 異世界転生物だけど魔法だけではなく若干SFの雰囲気もあるのも面白かったです。 読みやすいのでサクサク進みました。 これからの展開が気になりました!
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