第三章アリエルガ編 15話 母の歌
明かされるバウスの過去…
ヒヤニスとバウスの冷たい戦い
その結末は…?
神話×魔法×ファンタジー物語
第15話楽しんでってください。
フォルナの滝
ゴオオオーーーー
滝の流れる音の中で
全てが凍りそうな程の
凍てつく睨み合いが続いていた
バウス「来いよ。」
バウス「速攻で片付けてやる。」
ヒヤニス「焦るなよ。」
ヒヤニス「まずは改めて自己紹介でもしようか」
ヒヤニス「俺は悪神教六花弁の頭目。ヒヤニス・アシンドスだ」
短髪の水色の髪。
冷酷な笑みを浮かべながら近付くヒヤニス。
整った顔の中にどこか狂気を感じる。
バウス「頭目って事はお前が一番強いんだな。」
ヒヤニス「そんなこともないが…まぁ冷酷さなら俺が一番だな…」
バウス「そうか。俺はバウスだ…」
ヒヤニス「バウス…ザラヌラっていうのか…お前のフルネーム」
バウス「なっ!?」
ヒヤニス「俺の追憶魔法は記憶の深い所まで入り込む。」
ヒヤニス「ザラヌラ…どっかで聞いたことあるような…」
バウス「その名前を口にするな!!」
勢いよく氷の剣で切りつける
だが
スッ……
バウス「すり抜けた…?」
ヒヤニス「これが俺の追憶魔法、追憶鏡。」
ヒヤニス「そこに居たのは俺の記憶…」
ヒヤニス「お前の攻撃は俺には当たらない」
バウス「それなら…」
バウス「氷牙」
無数の氷の刃がヒヤニスに襲いかかる
だが
当たらない。
バウス「本体はどこだ…」
ヒヤニス「その考えが間違ってるんだよ」
突如背後に現れたヒヤニス
バウス「なっ!いつの間に…」
ヒヤニス「追憶魔法。」
ヒヤニス「追憶劇場」
___________
バウス「ここは…」
凍える吹雪
辺り一面が銀世界
岩や木すら凍る極寒の世界
バウス「俺の生まれた場所…か…」
フードを深く被り赤ん坊を抱く女性。
女性は子守唄を我が子に向けて歌っていた。
女性「あなたが〜生まれてきてくれたことで〜私は〜愛に溢れて〜♪」
赤ちゃん「あっ、あー♪」
女性「なぁに?歌ってるの〜?」
赤ちゃん「う〜あっ!」
女性「ほんとに…可愛い…愛してるわ。バウス」
記憶を見ているバウス「……母さん。」
吹雪の中、女性は赤ん坊を抱いてひたすら歩く
足の指も顔の頬も、感覚はない。
でも腕に抱いてる我が子への愛情は誰よりもある。
女性「今日からここをおうちにしましょうね〜」
赤ちゃん「んっ…う…オギャーーーーー!」
女性「あら?ミルクかな〜?待ってね〜」
服を脱ぎ、赤ん坊を抱き寄せる
胸に顔を寄せると、赤ん坊が勢いよく吸い始める。
女性「たくさん飲んで大きくなるのよ〜」
お腹がいっぱいになった赤ん坊は眠りについた。
生え始めたばかりの淡い青い髪。
クリクリとした可愛い目。
どこか気品のある顔立ち。
女性の腕の中で眠るその子は天使のようだった。
女性「あら寝ちゃった…おやすみ…バウス」
極寒の地で過ごす2人を見つめ
拳を握るバウス。
記憶を見ているバウス「…やめろ。この先は見せないでくれ。」
その願いは…叫びは…届くこと無く過去を見せつける。
景色だけが流れてゆく
赤ん坊が立ちはじめ、女性の後を着いて歩く
赤ちゃん「んっ!んっ!あーー」
女性「あんよが上手ね〜♪」
2人は幸せだった。
極寒の地での生活は決して楽では無い。
女性は身に付けていたものを売り
少ないお金を全て子供のために使い
極寒の地にいる魔物を捕え
その日食べるものをなんとか確保する
たまに通る旅人には、食料を貰う代わりに、自分の尊厳すら差し出した。
そうして女性は子供と共に終わることのない永遠の冬を生きていた。
女性「今日はユキミミがとれたらいいね〜♪」
子供「うんっ♪」
子供は3歳に成長した。
言葉も喋り、自分で歩き、自分で考える
その姿を見るのが女性にとって一番の宝物だった。
女性「バウス〜おいで♪」
子供「まーまー♪」
ドテン!
子供「うわぁぁぁん」
女性「大丈夫?!」
我が子にかけより、氷の魔力で傷を癒す
女性「大丈夫よ。もう痛くないわ…」
子供「うん…」
この瞬間は何よりも幸せだった。
母の温もりは極寒の地で
子供の心を温かくしてくれた…
___ヒヒーーーーーン__
外から馬の鳴き声。
ガシャガシャと鎧の擦れる音と、数人の足音が聞こえる。
女性「バウス。こっち。」
女性は子供を隠した。
凍った木の家の小さな小さな扉の空間
子供は狭い場所がとても怖かった
その場所に押し込めるとき、母は悲しそうな顔をしていた
気色悪い男「おいおい!凍った木の中に住んでるのか!」
横暴な男「きったねー家だな!」
物を蹴り飛ばし、唾を吐き家を荒らす男達
女性「やめてください…」
女性は心を無にしていた。
耐えれば終わる。
自分が我慢すれば。
豪華な身なりの男「おい。ガキはどこだ。」
女性「そんなものいません。」
豪華な身なりの男「ふぅ〜。もういい。やれ。」
横暴な男「待ってましたっ♪」
気色悪い男「愉しんじゃうぞ〜♪」
______
母の泣き声だけが聞こえた
子供には何が起きているのか理解できなかった
母の元へ今すぐ行きたかった
でも絶対ここから出ては行けないと言われた。
女性の悲痛な叫びが反響する家
冷たく狭い空間で震える子供
子供は女性がいなくなるのが怖くて仕方がなかった。
気色悪い男「スッキリした♪」
横暴な男「何回逃げても見つけるからな?」
気色悪い男「腹減ったな、なんか食べ物でも…」
ガチャッ
女性「開けないでーー!!!!」
子供「…え?」
気色悪い男「いいもの見つけたなぁ…」
男のその顔は髭が生えていて
ホクロがあって
鼻が赤くなっていて
顔は脂ぎって…
気持ち悪い笑顔でこちらを見つめていた。
ドガッ
鈍い音と衝撃が脳を揺らす
クルミを石で割るような音がした
青い髪の子供は意識を失いそうになっていた
髪の毛を掴まれて狭い空間から引きずり出される
早く出たかった狭い空間は
戻りたい空間へ変わっていた
気色悪い男「あっにき〜♪」
ドシャッ__
豪華な身なりの男「見つけた…ようやくだ…」
子供は男に抱きしめられた。
ただいつも抱きしめてくれる女性の胸の中とは違い、硬く冷たくどこか嫌な感じがした
女性「……お願い…その子は…その子だけは…」
女性「それ以外なら…なんでもします…」
女性「お願い…私から…もう奪わないで…」
豪華な身なりの男「もうお前は用済みだ。」
豪華な身なりの男「殺せ。」
横暴な男「了解でーす」
気色悪い男「ちょっと勿体なくねぇか…」
横暴な男「お前のお気に入りだったもんな」
豪華な身なりの男「その女は悪魔の末裔だ」
豪華な身なりの男「だが…顔と体は悪くないしな…」
舐め回すようにはだけた女性の体を見る男
その目がとても気持ち悪かったのを覚えてる
豪華な身なりの男「やはり連れていくか」
豪華な身なりの男「抵抗しないように痛めつけろ」
横暴な男「はいよ!ボス!」
ドガッドスッ
ゴッガッ
女性が殴られる音が耳から離れない。
笑いながら殴る男達は楽しそうで、それを見ている男はもっと楽しそうだった
豪華な身なりの男「さぁ行こうか。我が国へ」
子供は凍った世界から初めて出ることができた。
でも凍った世界の外は、
雪よりも
氷よりも
冷たかった。
_________
記憶を見ているバウス「もうやめてくれ…」
ヒヤニス「まだこれからだろ…お前の悲劇は。」
_________
子供が連れてこられた国は豊かな国だった。
皆笑いあっていた
自分を指さし、母を指さし、
豪華な身なりの男は子供の手をとり大きな大きな城に入った。
そこでは豊かな食事や知識
作法や勉強全てが手に入った
俗に言う幸せな生活。
けど子供は母とは会えなかった。
環境は幸せでも心は幸せではなかった。
子供は成長し、いつか母を取り戻す事を決意した。
少年「今日までの分は終わった」
豪華な身なりの男「よくやったな。」
豪華な身なりの男「だが口の利き方は勉強し直した方がいいみたいだ」
豪華な身なりの男は躾と称し何度も何度も少年を殴った
少年はどんどん心が壊れていった
母に会いたい。
それだけが少年の願いだった。
使用人「バウス坊っちゃま。今日は属性判断をしていただきますよ」
水晶に手を触れた瞬間
大きく白く輝き、氷の紋章が2つ現れた
使用人「さすが坊っちゃま!!」
使用人「お父様の血を引いていらっしゃるだけはありますなぁ」
豪華な身なりの男以外は皆少年を大切にした。
豪華な身なりの男「おい。まだお前は母に会いたいと思うか?」
少年「はい…」
豪華な身なりの男「そうか…あんな悪魔のどこがいいのか…」
豪華な身なりの男「お前がもっと俺にとって有益だと証明できたら会わせてやらんこともない」
少年「本当ですか?!」
豪華な身なりの男「あぁ。約束しよう。」
少年は必死に頑張った。
勉強も。
作法も。
鍛錬も。
そしてとうとう母に会える日が来た。
地下牢に連れていかれた少年は鎖に繋がれた女性の姿に困惑した。
美しかった女性はボロボロで生気を失い、ひたすら歌を口すさんでいた。
女性「あ…なたが〜生まれてきた…で…♪」
少年「おかあ…さん…」
女性「あら…もうそんな時間…ですか…」
豪華な身なりの男「みろ!薄汚い売女の姿を。こんなやつが母親だと思うと嫌気がさすだろう」
女性は大きくなった少年に気付く
あんなに小さかった子供が
大きく成長したことに涙が込み上げる
女性「……私の…可愛い…バウ…ス」
豪華な身なりの男「お前の子ではない!我が国の大事な跡取りだ!」
男は女性を蹴り飛ばし、殴り、強く罵倒した
少年「もう…やめてください…」
少年から涙が溢れた。
その瞬間黒く禍々しい何かが、階段を降りてきた。
ディコルプヌス「かわいそうに」
豪華な身なりの男「なんだ貴様!どうやって侵入し…」
豪華な身なりの男は一瞬にして胴体と首が離れ離れになっていた。
少年「…え?」
ディコルプヌス「ここにいたのか…悪魔の末裔の器よ…」
黒く禍々しい男は少年の横を通り過ぎると母の元へ行った。
ディコルプヌス「器としての絶望は充分なようだ。では始めようか」
黒く禍々しい男は女性に手を伸ばすと額に綺麗な宝石を埋め込んだ。
その瞬間
女性から黒い魔力が解放された。
凍てつくような
全てを飲み込む程の
少年「おか…あさん…?」
ディコルプヌス「なんだこの子供は。邪魔だ!失せろ」
少年は男に蹴り飛ばされた。
女性の姿はボロボロの姿から
悪魔のような姿に変わった。
ディコルプヌス「ほう。吹雪の魔王か…」
ディコルプヌス「小手調べにお前に絶望を与えたこの国を滅ぼせ。」
女性「……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
女性が魔力を放った瞬間全てが止まった。
人も
城も
家も
全てが氷に包まれた。
少年だけを残して…
空に浮かぶ男と女性の姿。
少年は眺めることしかできなかった。
変わり果てた女性は絶望を経て魔王になった。
その日、栄えていた王国の1つが氷の世界に変わった。
___________
バウス「……」
ヒヤニス「なんだよ…この記憶は…」
バウス「見るんじゃねぇ。」
バウス「母さんとの記憶を勝手に覗くな。」
バウスの奥歯が、ぎり、と鳴った。
怒りではない。
悔しさでもない。
母との記憶を土足で踏みにじられた痛みだった。
ヒヤニス「お前……まさか……」
ヒヤニス「十二終焉…凍界の魔王様の…」
その瞬間バウスの異常なほどまでの魔力が解き放たれた。
ヒヤニス「なんだ?!この魔力!?」
バウス「人の過去を勝手に覗いてんじゃねぇ」
ヒヤニスの足元が凍る
バウスからとめどなく、溢れ出る冷気
ヒヤニス「嘘だろ!?」
バウス「獣纏…氷狼…!」
ヒヤニス「な、なんだよそれ…」
白い狼は低く唸り、牙を剥いた
白い狼が咆哮を上げる。
フォルナの滝が凍り始める。
流れ落ちていた滝の音が、消えた。
バウス「…もう、黙れ。」
バウスの手が氷に包まれる…
ヒヤニス「や、やめ…」
バウス「絶対氷撃・白夜。」
ヒヤニス「まて……!」
ヒヤニス「追憶鏡!!」
バキィィィン!!
追憶の鏡で出した残像が凍り砕ける。
ヒヤニス「魔法が効かない!?」
ヒヤニス「グワァァァァァァ!!」
氷漬けになるヒヤニス
白い冷気が、バウスの口から漂う
バウス「母さん…いつか…必ず会いに行く。」
氷の戦いは静かに幕を下ろす。
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一方フォルナ大木付近では…
シュクロ「結婚してくれ!」
ヴィーラ「嫌ですってば!近付かないで!」
激しい戦闘……ではなく、激しい求婚が行われていた。
15話読んでいただきありがとうございました。
16話ではヴィーラが求婚される?!
支援魔法しか使えない彼女の戦い方とは…?
次回もお楽しみください。
岡本煌




