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番外編①そんなつもりじゃなかったと言い訳男は言う。前編

ちょっとだけ続けます。2回がっつりざまぁ回。

 オレは、あの日朝霞を手に入れるつもりだった。


 朝霞ひかり、女子バスケ部のエースで学校一の美少女。

 明るい茶色のショートカットで、アイドルレベルのめちゃくちゃかわいい女。

 そして、オレをフッた女。


 だけど、あの日朝霞がオレに泣いてすがり、オレが優しく抱きしめてやる、つもりだったのに。


 全てが狂ったあの日。


 オレは、朝霞がどんどん弱っているのを知っていた。いや、弱らせていたのはオレ。

 最初はオレをフッた朝霞を少し困らせてやろうと思っていた程度。

 だから、何の気なく朝霞が漏らした言葉を切り抜き、悪口に聞こえるようにしてこっそり流した。食いついたのは雨野だった。身の程知らずにモテる朝霞に嫉妬している女。


 だが、ヤツの陰湿さは相当なもんで朝霞に確実にダメージを与えていた。


 そこからだ。

 オレは明るい朝霞がふとした瞬間に見せる陰りに興奮するようになった。オレが流した情報で曇る朝霞。オレしかすべてを知らない朝霞。


 そして、オレはもっともっと朝霞のそんな表情を見たいと思った。


『ねえ、朝霞の陰口流してんのアンタでしょ?』


 雨野にそう声をかけられたのは、梅雨が終わる頃。オレは背中にびっしゃりの汗をかきながら曖昧に笑う。


『は、はあ? なんで……』

『誤魔化しても無駄だから。全部裏とってんの。何? フラれた八つ当たり? ははっ、だっさ』


 てめえが言うな、とは思ったが声には出せない。雨野がオレのグループLIN〇で話していたやりとりを全部スクショにして持っていた。コイツの怒りを買ったらオレは完全に詰む。


『……あー、おっかしい。ま、いいや。それよりさ、アンタ。朝霞とやりたいんでしょ? アタシがさ、キューピットになってあげるわよ』


 そう言って雨野は口を歪ませる。


『はあ?』

『アンタがこのまま横流ししてくれたらさ、アタシが朝霞、追い詰めてあげる。んで、ボロボロに弱ったところでアンタというヒーロー登場。やさしい言葉で堕ちる。どう?』


 雨野の興奮している顔がキモかった。でも、同じようにオレも興奮していて……ヤバいと思って話を逸らそうとした。


『なんで、お前がそんなこと……』

『朝霞さあ、三年の月宮センパイいるじゃん? センパイに気に入られようとし過ぎててキモいんだよね? だからさ、アンタと付き合うのがアタシにとっても都合がいいの』


 オレに選択肢はなかった。だって、逆らえば多分全部バラされる。だから、仕方がなかった。

 オレは雨野の提案に乗って、朝霞を追い詰めた。


 そして、相当弱ってる朝霞をモノにしようと決めたあの日がやってくる。

 空元気で体育をする朝霞を見ているなんとも言えない感情に包まれた。


(今日こそあの朝霞をオレのモノに……。)


 そう決心したオレは放課後に朝霞を探した。だが、どこにも見つからず、校門で待つことにした。その十分後くらいだった。


『きゃあああああああああああああああああ!』


 悲鳴が聞こえた。帰りかけてたみんなが悲鳴のした方向に走り出し、オレも思わず走っていた。屋上に朝霞がいた。なんでか屋上の手すりの外に立っていて。見たことのない絶望した顔で誰かを見下ろしていた。先生がやってきて朝霞と何かを話す。暫くして、先生たちがオレ達のとこにきて帰る様に促す。直後、救急車の音が聞こえて、救急隊員がやってくる。非常階段の踊り場。めっちゃダッシュしてて、誰かを担架に乗せていた。


 オレ達がスマホで血まみれのヤツを撮っている中、朝霞はその誰かにずっと話しかけながら泣いていた。


 あとから見たら、血まみれのヤツは小谷。クラスの隅っこで騒いでるバカ。足がヤバい方向に曲がってて腹のあたりも真っ赤でマジでグロくてビビった。だけど、それ以上にビビったのは朝霞と目が合った。写真の中の朝霞がじっとオレをビー玉みたいな目で見ていた。


 次の日の話題は小谷一色。誰もかれもが小谷の話をし、先生は推測とか余計なことは喋るなって注意してきた。SNSでもウチで生徒が飛び降りて死んだとかいじめを苦にとかいろんな話題が流れまくり、小谷の画像もめっちゃ流れてたし、オレが流した分もめっちゃ拡散された。

 そして、朝霞は来なかった。


『いじめられてたの朝霞らしい』


 クラスから聞こえてきた一言。


『だから、朝霞休んでるんだってメンタルヤバいから』


 朝霞がいじめられてたって噂が流れてる? そんなはずない。なんでそんな流れになった?


『で、小谷が朝霞庇って落ちたらしい』


 小谷が守った? そんなはずない。朝霞を守るのはオレのはずで。


『で、朝霞いじめてたの。だれ?』


 その瞬間、汗が噴き出てビビった。


『だれ?』


 だれ?


 はあ?


 いじめてたのはオレじゃない。


 アイツだ。




「おい、雨野どうすんだよ。今、朝霞がいじめられてるって噂が流れて……」

「声でかい、バカ……! 知らないよ。こんな事件になる予定じゃなかったし。ていうか、小谷が落ちてるし、アタシら関係ないでしょ。ていうか、アンタが最初なんだからね、もしバレたらあんたも道連れだから」


 クソみてーな女だった。イライラして舌打ちばっかして全然オレの話を聞かねえ女。コイツに絡まれたのがオレの人生の汚点だった。


「とにかく。堂々としてればいいんだって。どうせ学校は、いじめ隠したがるんだしさ。ヤバい事にはならんでしょ。普通にしてろ、普通に。はははは!」


 どう見ても雨野は普通じゃなかった。だけど、それだけは分かる。小谷が落ちて病院に行って、朝霞が休んで、学校自体の雰囲気もどんどんヤバい感じになっていって。オレも心臓バクバクでなんか笑いが込み上げてきた。

 その日は部活も全部休みになったからオレも速攻で家に帰って、ずっとSNSで探し続けた。


 次の日も次の日も睡眠不足だった。先生がなんか小谷のとこには行くなって言っててちょっとほっとした。


 三日後。朝霞が戻ってきた。


「…………え?」


 朝霞らしい明るい茶色のショートカットが黒く染められていた。気持ちボサボサで朝霞ってこんな顔だっけって感じだった。相変わらずかわいいけど怖い。目が死んでて、朝霞の仲いい奴らもちょっと引いてた。そいつらが一生懸命話しかけても朝霞は雰囲気で笑って目は笑っていなかった。マジ餓死寸前の人みたいで白かった。


『朝霞、ガチ病人じゃん。いま、口説いたらいけるんじゃね?www』


 雨野のLIN〇だった。アイツはマジでバカだった。いけるわけねーだろ。と、おもったがその後も間とかなしにアホみたいに送ってきてアイツもヤバいんだと思って汗が止まらなかった。


 どこを見てもみんなヤバい顔してて空気がヤバい。


 誰もが地雷を踏まないように歩いてるみたいだった。


 そんな中で、


「あははははは! みんな静かすぎ! ウケる! あはははは!」


 雨野は止まれないでいた。雨野はずっとテンションが高くて、一度も朝霞は雨野の方を見なかった。


 放課後。ヤバすぎる雨野を注意しに行こうと探しに行った時だった。


「ウザいんだよ!」


 雨野の悲鳴みたいな声が遠くから聞こえて、慌てて走る。そこに居たのは、雨野と……朝霞だった。雨野の方は、仲間を二人連れてるみたいだったけど、二人とも顔が真っ青だった。雨野も汗だくでブチギレてた。朝霞は真っ黒な髪しか見えないし、めっちゃ静か。


「ちょっと小谷のことイジッたからって、なんだよ! アンタに関係ないだろ!」

「ちょ、ちょっと雨野……」


 雨野の仲間はライン越えしそうな雨野を必死で抑えてたけど雨野はもう興奮しすぎて、ずっと笑いながら睨んでる。それでも、朝霞は動かなかった。


「ていうかさ! アンタのせいで小谷が病院に入ったんだろうが!」


 ぶわり、と空気が揺れた気がした。


「そう」


 朝霞じゃない朝霞の声だった。低くて冷たい声。


「わたしのせいで小谷君は……だから、わたしは」


 部活でも教室でも聞いたことのない声。猫背の朝霞。


「わたしは」


 オレの知らない朝霞。


 ずっと、教室で暗い顔をしていた朝霞。だけど、オレのテンションは全然上がらなくて。


「小谷君のためなら」


 心の底からどろりと湧き出した感じの声。


「なんでもするの」


 黒髪が揺れた。

 雨野はそれを聞いて一瞬固まって、急に叫び出す。


「はあああ!? じゃあ、だったら、勝手にしろよ! ちょっと小谷のことバカにしたくらいで絡んでくんなよ!」


 そう吐き捨てて去ろうとする雨野の腕を朝霞が掴む。雨野が振り払おうとするが、朝霞はバスケ部のエース、ぎゅっと握ると雨野が顔をゆがめる。


「いっ……!」


 雨野が空いてる手で朝霞を殴ろうとしたけど、それより早く朝霞が雨野を引っ張って倒す。


「小谷君はわたしが守るの。だから、これから小谷君の悪口言ったら……全部バラしてぐっちゃぐちゃにするから」


 ぶるりと身体が震えたかと思うと止まらなくなった。雨野も同じみたいで座り込んでぶるぶる震えながら朝霞を見上げていた。誰もしゃべらんくなった。そして、みんなじっとしてたけど、そのうち雨野の仲間が謝りだして、雨野を引っ張って連れて行った。


「うわああああああ! ああああああ! ああああああ!」


 雨野は泣き叫んでいた。何か言えば人生詰むかもしれないのはさすがに分かったみたいだ。

 顔ぐっちゃぐちゃにして足めっちゃバタバタさせて叫びまくってた。


 そして、それを見送った朝霞が振り返る。


「あ…………」


 風に吹かれた黒髪の隙間から見えた朝霞の目は、真っ黒だった。

 真っ黒な黒目がオレをじっと見ていた。


「…………」


 真っ白な顔。悲しそうな顔。怒ってそうな顔。絶望顔。

 だけど、オレはぶるぶる震えるだけで何も言えず。

 真っすぐ家に帰ってベッドに飛び込んだ。


「そんな……そんな……つもりじゃ……」


 じとじとの六月の夜、オレは一人部屋で震えてた。ずっと、ずっと。

お読みくださりありがとうございます。

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