そんなつもりじゃない
俺と朝霞は校庭を歩く。会話はない。
朝霞は何を言えばいいか悩んでいるようだった。
そして、そうしている内に校門につき、車で迎えに来た母ちゃんが手を振っているのを発見。
「あ……」
朝霞は母ちゃんに見つかるのが申し訳なさそうに顔を伏せ、俺に鞄を渡そうとする。
俺は……。
「かあちゃーん! 今日さ、友達と帰るからさ! いいわー! かえってステーキ焼いといてー!」
俺が叫ぶと母ちゃんは一瞬目を見開いて笑う。
「おっけー! 気を付けて帰れよー! あと、今日はおかゆだからー!」
嘘、だろ……。俺の登校復活祝いくらいステーキでもいいじゃん。多少内臓いかれてても俺喰うよ! という俺のアイコンタクトを無視して母ちゃんは鞄だけ回収して、朝霞とだけきっちりアイコンタクトして帰っていく。
朝霞がぽかん。気の抜けたぽかん。うむ、かわいい。
「なんだけど、いい? 朝霞?」
「わ、わたしは……いいけど、いいの?」
「え? 嘘? 俺がいいって聞いたんだけど?」
「あ、あ、そか……うん、じゃあ、うん、帰ろ」
朝霞が動揺している。だけど、さっきまでのびくびくとは違う。少なくとも俺にはそう見えた。
その後は無言。松葉杖のコツコツという音だけが聞こえる。
だって、しょうがないじゃん! 俺に気の利いたこと言えるわけないじゃん!
ノープランだし!
だけど、なんというか、朝霞を放っておけなかった。
朝霞は夕焼けに照らされながらずっとちらちらと俺を見ていた。
何かを待っているような気がする。
だから、俺は……。
「うおおおおおおおお! 人間竹とんぼ!」
松葉杖を横にしてトリプルアクセルをかました。
朝霞ぽかん。うむ、かわいい。
「え……?」
朝霞の目の中にようやく俺が映った気がして、俺は笑う。
「朝霞さ、俺もう遠慮しないから! お前がそんなに悪いと思うならとことんまで俺に付き合ってもらうことにしたからな! だから、俺のギャグで笑え!」
さっき、俺を立ち上がらせようとする時、朝霞の手が震えていた。それがどういう感情なのかは俺には分からないけど、あれがどうしても俺には許せなかった。誰の何にか分からないけど腹が立った。俺はどうしても朝霞を笑わせたかった。
「朝霞、笑えよ! 続きまして、上の冠が長すぎる『命』!」
「あ、あはははは、はははははは」
朝霞の乾いた笑い。俺にダメージ! だが、俺はやめない! 思いつく限りのギャグを連発し続ける! そして、朝霞は無理矢理笑い続ける。
「あははははは……はは、はははは……う、うぐう、ふぐ、う、ううううううう……」
そして、朝霞は泣き出した。その場に座り込んで泣き出した。俺は気の利いたことは言えないのでギャグを続けた。おい、小学生こっちみんな!
「………ご、ごめん。勝手に泣いて」
朝霞が隣でしゃがんだ俺に謝ってくる。勝手に泣いて何が悪いか分からない。というか、泣くのも俺は命令しないといけないの? 俺は何も言えなくなって地面のありんこを見つめる。朝霞もありんこ見始めて二人で黙ってありんこ見た。
「……小谷君って」
「なに?」
「おもしろいね」
「……え? マジ? センス大丈夫か?」
「……ひど」
朝霞が、わらった。
まだ大分目が濁っていたけど、それでも笑ってた。
それで十分で。
「……よし、帰るか」
「うん……あ、小谷君」
朝霞はもう大丈夫。
「疲れてない? 何か栄養ドリンクとか、あ、タクシー止めようか」
まだ大丈夫じゃないみたい。
でも、これから少しずつでもこの変わってしまった朝霞を笑わせていけたなら、いつかきっと……。
「……ん?」
松葉杖をつきながら進もうとしたら、裾が引っ張られて止まる。
振り返ると、朝霞がつまんでた。
「……ど、どした?」
「小谷君、わたし……なんでもするからね」
怖いんですけどおおおおお! 俺は曖昧に笑って進みだす。コツコツと松葉杖を鳴らしながら、片足を持ち上げながら。松葉杖はかっこいいし、ギブスは響きがいい。そして、ふと思い出す。さっきの夕日に照らされて赤い顔の朝霞を。
俺は朝霞を困らせるつもりはなかった。ただ、助けたかった。
そして、今も助けたい。
伸びていく影を追いかけるように二人で歩き出す。
この物語は、そんなつもりじゃなかった俺たちが心から笑えるようになる話だ。
お読みくださりありがとうございました!
初めての曇らせ作品、難しかったです……。
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