そんなつもりじゃなかったのに、話が大きくなっていった。②
本日2回更新してます! お昼のまだ読んでないよという方はそちらをお先に!
「とはいえ、雨野が厄介なのは間違いないよね」
みんなで例の公園でテイクアウトしてきたポテトをかじりながらの作戦会議。そりゃそうだ。こっちの問題に巻き込むんだ、おごらせていただきます!
「ポテトうめえ!」
ただし、中原テメーは別だ! 金ねえからってがっつくなこのやろー!
「中原君、今、小谷君の為の大切な話し合いだから静かにしてくれるかな?」
「はい……」
朝霞の闇圧に押しつぶされる中原。か、かわいそう……。ていうか、俺だけじゃなくて朝霞の話でもあるからね。まあ、なので大事な話には変わりないのだが。
「アイツ、人の弱みを握ってチクチクしてくるのだけはうまいからね。アタシ、知り合いに聞いたけど中学校でも雨野にやられたヤツ結構いたみたい」
ツインテ明神さんが顔を歪めながらポテトを口に運ぶ。
「そんで、あの子自身がメンタル無敵だからね。大川みたいに病むタイプじゃないし、事故起きてもガチでいじめてても何もないって確信したらガンガンくるよ」
相変わらず設楽さんの食べ方はかっこいい。
「まー、今の状況で普通に学校来てる時点で結構ヤバいよね……」
喜多さんは最近油が気になるらしくブラックを飲むだけ。
三人の言葉に頷いていた朝霞が視線を落とす。
「大きな問題は、大人が大体あっちについてるってとこだね」
その通り。しかし、雨野の親父何議会議員かしらんけど、そんな人間に任せていいもんかね。選挙権得たら絶対投票しねーからな! 若造舐めんな! 口に運んだポテトがやけにしょっぱくて俺は顔を歪める。くそう!
まあ、実際のところ、それが本当に大きな問題だ。俺は学校が知ればなんとかなると思ってた。だけど、学校はこのままなんとかなれー、なんだろう。大人の事情とか色々あるのかもしれんが、子どもにも子どもの事情がある。このままじゃなんともならない。
「でもまぁ、おれらに八雲が相談してくれたみたいにさぁ、雨野の取り巻き以外をこっちの味方にしちゃえば雨野も大人しくなるんじゃね?」
塩のついた指を舐めながら言ったトラの言葉に皆、頷き合う。間違いなく話はどんどん大きくなるだろう。クラス、学年、場合によっては全生徒の奪い合いになる。だけど、それくらいしなければ、雨野はひかない。
「そうだね……わかった……うん……!」
朝霞はどこか納得していない様子だったが、最終的には頷いてくれた。そして、また明日とみんなと別れた後も朝霞はずっと何かを考えていた。
今はもう、俺は松葉杖も持っていない。ギブスもない。ただの男子高校生。
隣にいる朝霞は、一度は曇らせてしまったが、学校の太陽と呼ばれるほどの美少女。あんなことがなければ、俺と朝霞が隣り合って歩くなんてことはなかっただろう。
そして、あんなことから始まった因縁はみんなの力で終息に向かっている。
「朝霞はさ」
「ん?」
立ち止まった俺、振り返る朝霞。黒髪の朝霞ももうずいぶんと見慣れてきた。
「全部終わったら、どっか行きたいところとかしたいところとか、ない?」
始めの頃から朝霞に話しかけるのに緊張とかなかったな。朝霞が曇りまくってそれどころじゃなかったし。
今の朝霞は少しずつ、太陽の朝霞とは違うけど明るくなってきている。少しずつ前向きになってきている朝霞なら、『小谷君の為』じゃなくてもっと自分のしたいことを探せるはず。朝霞は夕焼け色の空を瞳に移しながら少し考えると口を開いた。
「こ、公園、かな」
俺を見て笑う朝霞。
「え?」
「公園マニア、や、こ、小谷君のおすすめの公園他も行ってみたいかも。あそこもいいけど、その、みんなに知られちゃったし……あ、あの! 穴場的なレア度みたいなのがちょっと薄れちゃったじゃない? だから、もっと誰も知らない公園とか」
すまん、朝霞。それは俺も知らない。だって、嘘なんだもん。公園とかあそこくらいしか知らない。マジか……公園調べるか。
「や、こ、小谷君は? 行きたいところ、したいところ」
元来た道を戻って俺に駆け寄ってくる朝霞。近い。最初のころは、近寄るのも戸惑っていた。闇が深まった時だけぐいとこれる朝霞だったが今は違う。そんな朝霞といきたいところ……。
「猫カフェ、は? あ、朝霞が詳しいって言ってたよな?」
「え……あ、う、うん! 詳しいよ。めっちゃ詳しい。色々、いろいろ紹介できるから……!」
そんな詳しいのか。俺は公園マニア(嘘)だったけど、朝霞はガチ猫カフェマニアじゃないか……。朝霞が目をキラキラさせはじめた。それは夕焼けのせいじゃない。
「あとは、俺、図書館も行ってみたいかも。もっと朝霞のおすすめ本読みたい」
「え!? ほ、ほんと……そっちはほんとにいっぱい色々紹介できるよ……! あ、は、ハッピーエンドのヤツを、うん」
2人して気づけば歩調が速くなっていた。うおおおおお! なんかテンションあがってきた! うっすらと汗をかきながら俺と朝霞は話を続ける。
「夢の国は!?」
「いいね! 行ってみたい!」
「バイトしなきゃな」
「だ、出すよ」
「なら行かない」
「えー!?」
笑う朝霞は、本当に楽しそうで、それが俺には嬉しくてずっとずっと歩いていたかった。
だけど……
「あ、着いた、な」
「うん」
「じゃあ」
いつの間にか俺の家までたどり着く。別れはいつも呆気ない。明日もあるし、と自分に言いきかせ、朝霞に手を振る。朝霞も小さく手を振り返す。だけど、何かさっきまでの朝霞と違う気がして俺は……。
「あさ……!」
「じゃあ、小谷君、さよなら」
別れ際、俺が声をかけようとすると朝霞はいつもより大きな声で俺の言葉を遮り、去っていった。夕日が沈み、夜に染まり始めた空が、走っていく朝霞を吞み込もうとしているように見えた。
そして、この時の俺はまだ知らなかったんだ。
朝霞が、もう既に雨野に従わされていたことに。
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