そんなつもりじゃなかった、けど大声を出してしまった。①
前回の最後の下りを修正しました。眼鏡から男子3人組になっています。
体育の着替え。それは俺にとって解放の場。
当然のことながら朝霞はいない。そして、パンツなどになる野郎どもがギャハギャハと笑い何というか独特の空気となる。俺はまだギブスがとれないので先に行ってもいいのだが、男子だけのこの空間を楽しもうと中原やほかの奴らとバカ話をして笑い合う。
そんな時である。
「小谷、ちょっといいか? 朝霞のことで話があるんだけど」
俺に迫る男子三人組。サッカー部の赤城、青野、木山。通称、信号機。
俺が勝手に心の中でつけた。リーダー格は俺に話しかけてきた赤城。ちょっと香水の匂いがして俺の鼻がムズムズし始める。くせえ。
だが、俺のそんな繊細な鼻事情を知らない赤城はどんどん近づいてくる。さっきまで談笑していた奴らに俺は小さく頷き立ち上がる。こいつらはクラスの中ではカースト上位、明神さん達にも絡みに行ってるし、声もデカい。巻き添えをくらわせるのは可哀そうだ。
俺は、松葉杖をついて出来るだけ可哀そうな男を演じる。
「えっと……なに?」
そんなか弱い俺をゴミでも見るような目で見降ろす赤城。かー! やな目!
大川もそうだけどなんというか『オレは上位、お前はオレより下』感を出してくるこの感じ。上下関係の厳しい運動部特有のものなのかと一瞬思うが、知り合いのクソイケメンスポーツマンは誰に対しても平等だ。シンプルにこいつ等の性質なんだろう。
「朝霞といつも一緒にいるからって調子に乗るんじゃねーぞ」
調子に乗るんじゃねーぞってなんでワル感出す奴は言うんだろうね。俺が足元を見ていると怪訝な顔をする赤城。
「おれが話してんのに、なにしてんだよ?」
「いや、俺が乗っちゃってる調子はどこかな、と」
「ふざけてんのか」
吾輩はふざけている。名前は小谷八雲。猫ではない。それにしてもこれである。カースト下位を判定されたものは教室で笑いを取りに行ってはいけないというのか。噴き出した中原をものすごい目で睨む赤城達。
「いつもは朝霞が守ってるけど、今はお前一人なんだ。あんま調子に乗りすぎると分かってんだろうな。てめえの立場ってのを自覚しろ」
俺の襟をつかんでめっちゃ顔を近づけてくる赤城。香水のにおいと口の臭さが混じってめっちゃ吐きそう。こいつ自分の匂いを自覚しろ。俺が顔を顰めているのが楽しいらしく笑う赤城。歯が黄色い! 多少顔がいいからって関係ねえからな! 歯を磨け!
「飛び降り止めて俺かっこいいって思ってんだろうけど、怪我してる時点で迷惑なんだよ。てめえのせいで教室の空気がめちゃくちゃだ」
滅茶苦茶な理論だ。確かに俺が怪我したことで朝霞が変わり、教室の空気が変わった。けど、俺のせい? はあ?
正直、俺の身体めっちゃ震えてる。ビビっている。怖すぎる。なんで俺がこんな目にとも思う。
俺は世のラブコメ漫画主人公みたいにクールにかわすとかなんかいい事言うとかそんなの出来ない。
ただの、普通の男子高校生だ。
だから、心臓バクバクで吐きそうで泣きそうで……ああもうとにかく何が言いたいかっていうと! 俺の身体が勝手に動くめっちゃ震えてる手で赤城を押す。
「うううううるせーよ! お前らだって追い詰められてる朝霞に何も出来なかったんだし、今も何も出来てねーだろうがよ!」
勿論俺もぎりぎりでしか気づけなかったし、動けなかった。特大ブーメランだ。だけど、本当に本当に本当に許せない。朝霞をあんな風にしてしまったことが俺は! 本当に! ガチでぶるぶる震えすぎてちょっと笑える自分を抑えながら必死に声を出す。
「朝霞は! ずっと苦しんでんだろうが! 俺に絡む暇あるんなら! なんかしろよ! 朝霞のこと好きなら! 朝霞のことを考えろよ! 朝霞は!」
何言ってるかわけわからん! だけど、俺は朝霞と短い時間でも一緒に過ごしてきてちょっとだけ分かったことがある。朝霞は学校の太陽だけど、普通の女子高生だ。普通の! 女子高生だ!
「朝霞は! あ、あ、あ朝霞は!」
あれ? 何が言いたいんだっけ? とにかく興奮しすぎて『朝霞は!』しか言えなくなる。そんな俺に呆気にとられる赤城。だが、すぐに余裕の表情に変わり、嗤う。
「なんだこいつ、朝霞朝霞って……バカじゃねーの?! なあ、みんな!」
赤城のツレ共が大声で笑う。流石運動部声がでかい。だけど、
「……え?」
他の誰も笑っていなかった。曖昧な顔で遠巻きにじっと赤城達を見ている。
その空気に俺も気づき、ようやくふうっと息を吐くことできてちょっと落ち着く。ちょっと何か滲んでた目をこすって歩き出す。泣いてたわけじゃねーぞ! ガチで自分でも何が言いたいかはわからなかったけど、とにかく腹が立った。
早く教室を出たい。この嫌な空気から。そう思った俺はドアに手をかけ開けながら振り返る。
「とにかく……どうしようと俺の勝手だとおも……」
「ぴい……!」
鳴く赤城。
ぴい?
首をかしげる俺。だけどすぐにその赤城ピイの理由に気付く。
俺の後ろに、いる。
教室の外に視線を向けると、いた。闇圧を史上最大で放つ邪気暗黒闇堕女子が。
「ぴいいいいい……!」
俺もないた。怖すぎる。ドアゼロ距離じゃね? レベルで真顔で立っていた朝霞を想像すると震える。え? 飛び込む直前だった?
ていうか、男子が着替え終わってなかったらどうする気だったの。まあ、終わってるけどさ。なんて俺の考えなど関係ねえとばかりに朝霞が赤城の方をじっと見て圧を放っていた。
黒い髪が揺れてるように見えるのは俺の気のせいだろうか。
バスケ部エースで女子の中では長身の朝霞は170近くある。赤城の方がちょっとデカいハズなんだが、なんだろうか小さく見えるね。多分気持ちの問題。そして、巨大な真っ黒いオーラは放つ朝霞さん。笑ってる? 朝霞さん、笑ってるけど、笑ってない。小谷八雲心の一句。
「赤城君、朝霞朝霞ってバカみたい?」
「え? いや、ちが……おれはそういう意味で言ったんじゃ、なくて……!」
動揺赤城。青とキに助けを求めるが二人も頷くので精いっぱいの様子。
「わたしね、赤城君たちが大きい声で他の子をディスるの苦手だったんだ。早く言えばよかったね、ごめんね」
朝霞さんの声が大きい。いや、小さいはずなんだけど教室が静かすぎてデカく聞こえる。廊下の騒がしさが遠く感じた。
「あ、朝霞……! アレはそうじゃなくてイジリっていうか……」
「でも、クラスの和を乱さない為に言わないようにしてた。だけど」
淡々と朝霞さんが話を続ける。おい! 赤城! あ、朝霞さんが喋ってんだから邪魔すんな! あ、朝霞さんめっちゃキレてるぞ!
「もういいから。クラスの為とか私には関係ないし、ていうかクラスの為に言った方がいいと思うし、ね?」
朝霞が教室を見まわして笑うと男子たちがうんうんと皆頷いている。中原に至っては頷きすぎて眼鏡とれてる。ああ! 中原の本体が!
朝霞の言うことは分かる。赤城達はとにかくデカい声で誰かをディスるのが趣味な奴らだった。もしかしたら本人たちが分かっていなかったのかもしれない。それでどれだけみんなのヘイトかっていたのかを。自分たちアゲのつもりがさげまくっていたことを。
その証拠がこれだ。元・太陽であり、現在クラスの闇の魔王であらせられる朝霞の一言で赤城達の立場が決まると誰もが赤城の敵になった。今まで中立で空気を守ってたつもりのやつらも全員。
「い、いや、おれらはそんなつもりじゃ……」
「それってそっちの勝手な感想だよね」
どっかの論破する人みたいなことを冷たく言い放つ朝霞。だが、とっても正論パンチ。赤城達がそんなつもりでなくても傷ついた人間は覚えている。ただ、みんなが色んな気を遣って奇跡的に助かっていただけでコイツらはずっと終わってたんだな。
ぶるぶる震える赤城達を更に睨む朝霞。まさに魔王。
「ていうか……」
魔王さんが俺をご覧になられる。そして、にちゃりと笑う。なんかやな予感。
「小谷君の為には消した方がいいかなあって……」
「はい、朝霞ストオオオップ!」
かぶせるように叫ぶ俺。朝霞が俺の事を考えて言ってくれるのは分かるが、熱が入りすぎ! 逆に俺の立場ヤバくなっちゃうから!
消すってほんとなによ?! 流石に女子には触れられない俺は必死で朝霞の前で手を振りバスケのディフェンスのような感じで赤城との間に入る。
赤城は怯えた表情を浮かべているが今の聞こえた? 聞こえてない? ていうかワルぶってる割にはめっちゃビビリだな、お前!
「おいおいおいぃ、八雲迎えにきたらなんか騒がしいなぁ? どしたぁ? なんかおもろいぃこと?」
ちょっと緩い感じのイケボに朝霞がじろりと隣を見る。久しぶりのその声に俺は大きなため息をつく噂をするとお前かい。
「そうか、今日の体育合同だもんな。ていうか、おもろいことは今特にねーんだよ! 分かれバカトラ」
小谷なんだかんだ幼馴染枠の一人、クソイケメンスポーツマン、日野寅司がさわやかスマイルで俺を見て微笑んでた。相変わらずくそ眩しいな! おい!
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